2020.11.27 【5Gがくる】<21>「ローカル5G」でないとできないこと③
『楽市楽座』とともに織田信長が行った政策に『関所撤廃』がある。当時の商人たちにとって、関所を通行する際の通行税と検査は商いの負担(コスト)と障害(非効率、中断)となっていた。
この関所をなくすことによって流通を円滑にし、経済を活性化させたのだ。時代が変わってもビジネスにおける「コスト削減」「効率化」「継続化」のニーズは変わらない。
コスト大きく削減
実はローカル5Gでも同じことが言えそうだ。情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の「ローカル5G市場のユーザーニーズ調査(2020)」によると、ローカル5Gへのニーズでは業種を問わずコロナ禍の「テレワーク」が最も多く、「災害時の通信ネットワークの確保」「企業内の通信機器の更新コスト削減」「膨大なデータの最適処理(オフロード・エッジ)」と続いた。
「災害時の通信ネットワークの確保」という〝継続化〟のニーズに対しては、自己の土地や建物内に閉じたプライベートネットワークをローカル5Gで構築すれば、たとえ広域ネットワークが災害や障害でダウンした場合でも、生産ラインを継続できるようになる。
「通信機器の更新コスト削減」は、有線網特有の問題だ。構内ネットワークが有線LANの場合には、システム更新時や生産ラインのレイアウト変更時など、配線ケーブルやネットワーク機器などの買い替えや設置工事に多大なコストが発生する。
特に産業用LANケーブルは、所狭しと機械が並んでいる工場などに敷設されるため、高い屈曲性や耐油性、耐ノイズ性など、頑丈なコネクタやケーブル仕様になっている。そのため高価だ。ローカル5Gでワイヤレス化することによって、これらのコストは大きく削減できる。
「膨大なデータの最適処理(オフロード・エッジ)」は〝効率化〟のニーズでもあり、前回述べた「IoT×AIシステム」が当てはまる。IoTで収集した膨大なセンサーデータを広域ネットワーク経由でクラウドへ転送する場合は、許容範囲を超えた遅延や通信コストが発生する恐れがある。
通信事業者にとっても膨大なデータが広域ネットワークに流れることは、過負荷や輻輳状態となる恐れがあり、安定したネットワーク運用上好ましくない。そこで、クラウドでのデータ処理をやめデータトラフィックを広域ネットワークからローカル5Gへ移すこと(オフロード化)と、AIをクラウドからエッジへ移すことによって、データ処理の最適化(効率化)と通信コストの削減ができるようになる。
これは工場だけでなくオフィス、学校、商業施設、公共施設、スタジアムなどでも同じだ。つまり、土地や建物内の閉じた空間でビジネスやサービスを行う事業者にとっては、空間をワイヤレス化し、内部で発生した情報を外ではなく内で活用したほうが要らぬコストがかからない上、遅延もなく安全だ。
関所なくし円滑に
ここで話を関所に戻してみよう。内と外の境目にあるのが関所だ。配線ケーブルはある意味、関所へと向かう街道網。関所をなくすことによって、モノの流通が円滑になるのと同じく情報の流通も円滑になるというわけだ。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉