2021.01.15 【5Gがくる】<26>ローカル5G×VRでビジネスが広がる④
コロナ禍で暮れた昨年末、紅白歌合戦で驚いたのは「GReeeeN」の顔出しだった。NHK朝の連続テレビ小説「エール」の主題歌を歌っている福島出身の男性4人組人気ボーカルグループだ。ファンの間では周知のことだが、メンバー全員が歯科医師免許を持ち医療との両立のため顔を伏せて活動していることに驚いた視聴者も多かっただろう。
そのGReeeeNの出演時。筆者はシルエットから一転、ライトアップされた彼らの顔がはっきりと画面に映し出された瞬間、我が目を疑った。しかも、これがAR(拡張現実)を駆使した演出であったことが明かされると、さらに驚いた。
仮想空間上に分身
視聴者が見ていたのは「アバター」と呼ばれる仮想空間上に分身として表示されたキャラクタだ。もちろん本物の顔や姿を模擬したものではないが、ステージ上に映し出された「アバター」は生きていた。顔の表情やパフォーマンスには全く違和感がなかった。
正直、すごい技術だと感心したのと同時に同レベルのVR(仮想現実)やARならビジネス活用も広がると確信した。中でも汎用性があるのは「バーチャルオフィス」だろう。
バーチャルオフィスには二つある。一つは、法人登記や名刺への記載を目的として、スタートアップや個人事業主などを対象に仮想のオフィスとして住所を貸し出すサービス。もう一つは、在宅勤務などのテレワークであっても、オフィスにいるのと同じような仮想空間の中で仕事をする概念になる。
テレワークの課題
もちろんここで考えてみたいのは後者のほうだ。実は今のテレワークには「孤独感に襲われる」「同僚との一体感、コラボレーションがない」「気軽な談話ができない」といった幾つかの問題がある。その解決手段として「VR/ARバーチャルオフィス」が期待されているのだ。
既にバーチャルオフィスのアプリケーションが一部で出てきている。上司や部下、同僚など複数人の「アバター」で同一の仮想空間を共有するものが基本だが、別室でプレゼンテーションやディスカッション、ブレインストーミングもできる。また、大人数による会議や講義ができるもの、休憩所まであるものもある。
確かに、コーヒーを飲みながらの談話から新たなアイデアが生まれることも少なくない。しかし、肝心の「アバター」が上半身のみであったり、顔の表情がなかったり、動きが不自然であったりすると、違和感を覚え仮想空間に没入できない。
その点、「GReeeeN」のレベルなら大丈夫だろう。VR/ARアプリは日進月歩で進化しているため、そのレベルに至るのは近いと見ている。
これから先、製造業やインフラ産業などにおけるトレーニングやメンテナンス用途のみならず、あらゆる産業におけるニューノーマル(新しい日常)時代のコラボレーション(協働)用途として、VR/ARの市場は大きな伸びが期待されている。
それはVR/ARアプリをビジネス活用するのに不可欠な超高速かつ安定したワイヤレスネットワーク環境として、ローカル5Gが整備されつつあることが、その背景にあることは間違いない。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉