2021.02.24 Let’s スタートアップ!YOUTRUST“信頼できるつながり”から次のキャリアと出会える「キャリアSNS」

 成長が著しいスタートアップを取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。

 今回は、友達や過去の同僚など信頼できるつながりから、転職先や副業先を見つけられるキャリアSNS「YOUTRUST(ユートラスト)」を運営する株式会社YOUTRUST。

 「YOUTRUST」は2018年4月にサービスを開始。転職市場の動きが鈍化したコロナ下においてもユーザー数を堅調に増やしている。会社設立のきっかけやサービス開発に込められた思い、今後の展望などを広報PR担当の緒方祥子さんに聞いた。

プロフィール 緒方祥子(おがた・しょうこ) YOUTRUST株式会社 広報PR
新卒でリクルートに入社し広告営業を担当。その後、グーグルに転職。2020年からYOUTRUSTで副業を開始し、翌年正社員として同社に入社。現在、広報PRを担当する。

信頼できるつながりから、次のキャリアと出会える

もしあなたが今転職を考えていたとしよう。そのときどういった行動をとるだろう?

 多くの人は、まず転職サイトを眺め、そこに所属する転職エージェントに転職先の紹介を依頼するのではないだろうか。もちろんその方法でも転職先は見つかるかもしれないが、もしもあなたの経歴や仕事ぶりをよく知る友人や同僚などから転職先を紹介してもらえれば、よりスムーズに次のキャリアを踏み出せるのではないだろうか。

 そうした“信頼できるつながり”を利用して転職先や副業先と出会えるのが、キャリアSNSの「YOUTRUST」だ。

 「YOUTRUST」の使い方はこうだ。まず「YOUTRUST」はフェイスブックと連携しているため、フェイスブックのアカウントを持っていれば、それにひも付いたアカウントをすぐに作ることができる。

 アカウントができたら、一般的なSNSと同じように、つながりたい相手を選び友達申請を行う。ツイッターのアカウントとも連携し、より多くのつながりを作ることも可能だ。あとは、友達や「友達の友達」が投稿した転職・副業の募集情報などをタイムラインで閲覧できるようになるので、気になる募集があれば応募する。

 「積極的に探している」「検討している」など、転職や副業への意欲を4段階で登録できるのも特徴だ。この“意欲情報”はつながりのあるメンバー間で共有されるため、それを見た友達や「友達の友達」から仕事のオファーを受け取ることも可能だ。

 ちなみに同様のサービスには、アメリカ・シリコンバレーで誕生したビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」があるが、これは誰でも全投稿を閲覧できる上、誰とでもメッセージのやりとりができる。

 一方「YOUTRUST」は、閲覧できる投稿やメッセージを送れる相手が、友達と「友達の友達」の範囲に限定される。このため利用者は、自分に近い仕事観や価値観を持つ人とのつながりから、安心して次のキャリアを探すことができる。

 「YOUTRUST」の一般ユーザーの利用料は基本的に無料。必要な人材にアプローチするためのタレントプールとして利用する企業は、月額利用料を払うことで利用できる仕組みとなっている。

「YOUTRUST」の利用画面。転職や副業メンバーの募集情報だけでなく、キャリアに関する様々な投稿を閲覧できる

会社設立のきっかけは、転職市場で覚えた“違和感”

 YOUTRUST設立のきっかけは、代表の岩崎由夏氏が「自身の採用・転職活動で覚えた“違和感”にある」と緒方さんは話す。

 岩崎はもともとインターネット関連企業のDeNA(ディー・エヌ・エー)に新卒入社して、主に採用担当をしていました。そこで大きく二つの課題を感じたことが、当社の設立につながりました。

 一つは今の転職市場の“ゆがみ”を感じたことです。

 一般的に転職エージェントのビジネスモデルは成果報酬です。例えば年収1千万円の人がいて、その人の転職が決まったら年収の35%の成果報酬を受け取るわけですね。

 採用に積極的で余力のある企業は、目標達成のために例えば成果報酬を35%ではなく、100%にするといった紹介キャンペーンをよく行っていたのですね。こうすることで転職エージェントは頑張って良い人材を集めてくれますし、採用担当である岩崎自身も採用目標値があるため、互いにWin-Winの関係となっていました。

 しかし、いざ求職者の立場に立つと、これはアンフェアな状態になりかねません。なぜなら紹介キャンペーンが行われることで、エージェントが持ち寄る求人情報にバイアスがかかってしまう可能性がありますから。こうしたことに岩崎が問題意識を持ったことがきっかけの一つです。

 二つ目は岩崎自身が転職しようとしたときに覚えた違和感です。

 一般にそういう傾向があると思いますが、特に彼女はDeNAが大好きな人間だったこともあり、「転職活動をします」と表立って宣言することはできませんでした。

 それでも信頼できるメンバーには自分の思いをきちんと伝えて、その人たちとのつながりの中から新たなキャリアステップを踏めないのだろうかと強く感じたそうです。

 そのための方法を岩崎が考え抜いたことが、「YOUTRUST」のサービス誕生のきっかけになりました。

岩崎代表が転職市場に覚えた二つの違和感がYOUTRUSTの設立につながったという

スタートアップにとって雇用形態の違いは意味がない

 「YOUTRUST」のサービスは副業にもコミットしているが、こうした形になった背景にも、岩崎氏自身の経験があるという。

 一つは岩崎が初めての副業をしたときに得た経験で、「今まで副業に対して偏見があった」ことに気付いたことです。

 それまで彼女は副業をする人は、本業が嫌で、少し後ろめたいような気持ちで携わっていると考えていたところがありました。

 しかし実際にやってみると、本業に還元できるスキルがたくさん得られました。例えば、ツールの使い方やプランの立て方など、技術や知見を交換できるような経験が得られ、大きな感銘を受けたそうです。

 もう一つは、岩崎が新しい転職サービスを作っていることをスタートアップで働く知人たちに話したところ、「副業でもいいからとにかく人がすぐに欲しい」という声が多数上がったこと。

 つまりスタートアップの人たちは、雇用形態うんぬんではなく、良い人がいれば誰でもすぐにでも来てほしいという思いが強かったのです。だったら、自分たちのサービスにも「副業」の切り口があった方がよりニーズが高まるのではないかと。

  こうした経験から副業に関するサービスも「YOUTRUST」に取り込むようになったのです。

リモートワークの浸透で起きた“うれしい誤算”

 コロナ下においてもYOUTRUSTの成長速度は加速している。その理由はどういったところにあるのだろうか。

 一般的に人材業界は、景気悪化の影響を強く受ける業界だといわれています。

 岩崎もそのことをよく知っていて、昨年1月に新型コロナウイルスが日本でも広がりそうだといわれたときに「会社存続の危機」を感じたそうです。

 早速、当時借りていたオフィスを解約し、小規模なオフィスに移転するなどコスト削減を始めました。

 しかし、しばらくして当社に追い風が吹いてきたのです。特に影響が大きかったのが、社会全体にリモートワークを受け入れる風潮が広まったことです。

 リモートワークで隙間時間が増えたことで、副業に意欲的なユーザーが増えました。一方、企業側も従来の「副業の人もなるべくオフィスに来てもらいたい」といった風潮がなくなり、リモートワークで副業することを認めるようになったのです。

 その結果、うれしい誤算ですが、「YOUTRUST」を利用する人が増えていったのです。

 また当社は昨年、料金体系の見直しも行ったのですが、これも大きな転機となりました。

 それまでは転職や副業のマッチングが成功したときの成果報酬として企業から利用料金を頂く形でしたが、それを定額制の月額利用タイプに変更したのです。

 面白いことに、月額利用料がゼロだとあまり利用してくれないのですが、月額利用料がかかるとなると、積極的に利用してくれるようになったのです。

 例えば、お金をかけずにダイエットをするときはなかなか気合いが入らないものですが、プライベートジムなどで有料サービスを受けるとなると、皆さん頑張るのではないでしょうか。それと同じことが当社のサービスでも起こったのかもしれません。

 こうしたことが売上げに反映されるようになり、うまく上昇気流に乗ることができました。

リモートワークの浸透が追い風になったと話す緒方さん

グーグルからスタートアップに転職した理由

 緒方さんがYOUTRUSTに正社員として入社したのは今年のはじめ。それ以前は検索エンジンで知られるグーグルに勤めていた。世界的IT企業から設立3年のスタートアップになぜ転職を決めたのか。その理由も聞いた。

 大企業にいることに価値を置くのか、それとも自分の仕事の成果に価値を置くのか。グーグルに所属していたときには、その価値観のズレが私自身の中にありました。

 私にとってグーグルはすごくすてきな会社でした。ただ一方で、ものすごく大きな企業なので、私自身が何もしなくても、おそらく会社へのインパクトはみじんもないなと感じていました。

 私は根っこではすごく仕事が好きな人間です。自分の仕事を通じて認められたいとか、自分の社会への影響をきちんと感じたいという思いを強く持っています。

 そうしたこともあり、スタートアップのサイズ感や、実施したことの結果をダイレクトに感じられる点がとても魅力的に感じられたのです。

 ただやはりスタートアップは玉石混交なので、しっかりと選びたいという思いはありました。その点、YOUTRUSTは「副業」という形で事前に関われたので、会社の空気感を感じた上で結論を出すことができました。

 また私は、次のキャリアでは「広報」という経営者の視点に立って仕事をしたいと考えていました。となると、もちろん経営者は尊敬できる相手であってほしいのですが、岩崎は信念もビジョンもしっかりと持っており、経営者としてもまだまだ伸びるだろうなと強く感じました。

 さらに「YOUTRUST」の事業に副業という形で関わる中で、自分自身も複数の顔を持ちキャリアに深みが生まれるのを実感するなど、事業が社会に与える影響に“納得感”を得られたのです。

 そうしたことから「これは自分のやりたいことだ」と言っても遜色ないと感じ、転職を決めました。

グーグルから転職した理由を話す緒方さん

全ビジネスパーソンが日常使いするキャリアSNSへ

 続いて、YOUTRUSTがどういった未来像を抱いているのか聞いた。

 私たちは自分たちのサービスを、転職プラットフォームとか副業プラットフォームではなく、「キャリアSNS」と呼んでいます。なぜかというと、転職や副業を考えていない人も含めて、誰でも気軽に、日常的に使ってもらえる日本のキャリアSNSにしていきたいという思いがあるからです。

 そうした中でまず直近の話で言うと、スマートフォンで利用できるようアプリを開発したいと考えています。今私たちはWeb上でのサービスしか提供できていませんので、これをアプリ化し、日常的に使ってもらえるようにしたい。

 またより俯瞰(ふかん)的な視点でいうと、やはり日本の働き方を変えたいという思いもあります。

 私はもともと外資に勤めていたので、もちろん海外企業の素晴らしいところやまねしたいところはありますが、やはり日本企業の良さもあると実感しています。

 これからさらに日本の働き方、考え方が変わり、もっと柔軟性が高く、選択肢の多い世の中になっていくと、一人一人が働いて楽しいと思えるような国になるだろうなと考えています。

 そこに何か一石を投じるような、大きな社会変化を起こせるよう尽力したいと思います。

“転職エージェント以外”の見つけ方を知ってほしい

最後に日本のビジネスパーソンに向けて伝えたいことを聞いた。

 私が伝えたいのはやはり、「信頼できる“つながり”から次のキャリアのきっかけを見つけてほしい」ということです。

 私自身が2回転職していることもあり、今も前職の友人などからたくさん転職相談をされます。

 すると多くの人が、転職エージェント以外の方法を知らないことに気付かされます。転職エージェントのサービスを否定するつもりはありませんが、その選択肢だけというのはもったいない。

 今までのキャリアで得たつながりは資産です。そこから出会う、自分のことをきちんと評価してくれる人と働くことが、おそらく最も気持ちが良く、生産性やパフォーマンスも良くなると思います。

 そういうキャリアの見つけ方があることを、一人でも多くの人に知ってほしいです。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社YOUTRUST
URL
https://youtrust.co.jp
代表者
代表取締役 岩崎由夏
所在地
東京都渋谷区丸山町28-1 渋谷道玄坂スカイビル11階
設立
2017年12月
資本金
76,512,501円
従業員数
13人
事業内容
キャリアSNS「YOUTRUST」の運営