2021.03.19 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<34>企業ネットワークをローカル5Gに移行する ③

 「糸電話みたいなもの-」。

 筆者がIP電話普及推進センタで「回線交換」と「IP」(インターネットプロトコル)の違いを説明する際に、よく使っていた常套句だ。

 糸電話は誰もが子どもの頃に紙コップとタコ糸で遊んだことがあるだろう。その起源は、イギリスの自然哲学者でニュートンのライバルでも知られるロバート・フックが1664年、ブリキ缶二つを金属のワイヤで結んだものらしい。

紙コップの間の糸

 実はこの口と耳に当てられた紙コップの間にピンと張られた糸が「回線交換」の仕組みと同じイメージだ。発信者と着信者が一対一で通話するためだけに接続された通信回線で、両者間の音声信号のみで回線が占有される。

 通話の切れ目の無音(無信号)でも回線は張られた(占有された)ままになるため、通信帯域の利用効率が極めて悪い。加えて、映像や文字を送るには、それぞれ別の回線が必要になるので、当然コストが高くなる。

 さて、自営網を〝モバイル化〟するニーズにいち早く応えた「PHS」が1990年代に一気に普及し、全盛期を迎えたことを前回述べた。ところがその後、病院や工場など一部の業種を除き需要は落ち込み、オフィスを中心に「Wi-Fi」に取って代わられることになる。

 その理由は、PHSは「回線交換」であるのに対し、Wi-Fiは「IP」に対応しているということが大きい。

 「IP」は、簡単に言えば回線の占有をやめて共有にしたもの。音声や映像などのデータを細切れにして断片化したデータを順に小包(パケット)に入れ、宛先(IPアドレス)を付けて送信する。Wi-Fiの場合は、アクセスポイントと端末間の電波に載せるデータの〝塊(無線LANのMACフレーム)〟の中にこのIPパケットを入れることができる。

 ルーターはIPアドレスを見てパケットを宛先まで送る。受信した端末は、パケットの中からデータの断片を取り出し、順につなぎ合わせて音声や映像を再生するという流れになる。

 「IP化」することで一つの回線を様々なアプリケーションやユーザーによって共有(シェア)できるため、帯域の利用効率が飛躍的に上がるようになる。結果として費用対効果も劇的に高められるわけだ。

 さらに2005年ごろからは固定電話やPHSと遜色ない音質で音声通話ができるVoIP(Voice over IP)技術が本格的に普及。自営網のサーバーやルーターに実装され品質の高い音声通話もできるようになった。この流れに合わせてWi-Fi対応の法人向け携帯電話の導入が始まり、企業ネットワークはWi-Fiの導入とともに「モバイルIP化」が進んでいった。

 一方、当時のキャリア網の3G回線は依然として「回線交換」だった。ようやく自営網と同様にMACとIPを使うVoLTE技術が開発され「IP化」された4Gサービスが始まったのは2014年のことだった。

Wi-FiのIP化による課題解決

没入感ある音質も

 さらに5Gでは、新たなVoNR(New Radio)技術により臨場感だけでなくVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの没入感のある音質の実現を目指している。

 今度は、4Gのときとは逆にキャリア網由来のローカル5Gによって、自営網をアップグレードできるようになる。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉