2021.05.28 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<43> 地域課題解決型ローカル5Gビジネスモデル①

 本連載において以前、織田信長が新たな社会を切り開くことができたのは、鉄砲による武力だけではなく『楽市楽座』という、誰でもどこでも商売できるように市場を開放する斬新な経済政策をしたから--と述べたことがある。

 それをうまく利用して会津若松の城下町を整備し、92万石の領主となったのが蒲生氏郷だ。幼くして人質となり後に信長の娘冬姫の婿となった氏郷は、信長から英才教育を受け、戦国大名に必要な領国経営のノウハウを学んだとされる。

 氏郷は、近江、伊勢、会津と所領が変わるたびに、旧所領とのネットワークを生かして職人や商人を多数呼び寄せ、新たな地場産業を築いていった。

 例えば、福島の地場産業として今も大きな地位を占めている会津漆器や清酒は、氏郷が近江から木地師(きじし)と塗師(ぬし)や杜氏(とうじ)を会津に招き、その基礎を築いたことで有名だ。

 さて、筆者の知り合いに、自然豊かな地方にワーケーションしながら、地場産業のデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)による地域創生を模索している人がいる。彼は、その手始めとして「地域ネットワークにローカル5Gを導入できないか」と、ビジネスモデルを思案中だという。

中小もデジタル

 戦国時代には、地場産業を興すために城主が腕の良い職人や商人を他の領国から移住させ、城下に住まわせたが、今の時代はそうはいかない。加えて、今の地場産業を支えているのは地域の中小企業であるのも事実だ。

地場産業 職人の技をデジタル化する

 自らローカル5Gの免許を申請し、主体となって自身の土地や建物にローカル5Gを構築し、IoTや人工知能(AI)などのデジタル技術を活用してビジネスを変革する大企業とは訳が違う。

 確かに、中小企業にとってはローカル5Gの導入はハードルが高いかもしれない。だが、超高速インターネットの時代でもある今、仮にラストワンマイルを超高速化できる地域ネットワークサービスがあれば、手軽にデジタルを活用したビジネス変革が実現できるようになるかもしれない。

 例えば職人技を超高精細映像データに蓄積することで、職人の持つ技術をモデリングするということもできるようになる。中小企業でも高度なデジタル化が可能となるだろう。

 その有力な手段として、ケーブルの敷設や配線引き込み、撤去工事の不要なローカル5Gが注目されているのも事実だ。

 このように、地域の課題解決を目的にローカル5Gを使った超高速な地域ネットワーク環境の整備を求める声が出ており、実際にローカル5Gのビジネスモデルを検討しているケースも少なくないと聞く。

ハードル下がる

 そこで、地場産業を支える中小企業や団体の代わりに、地域の通信事業者がローカル5Gの免許主体となり、事業者が持つ土地や建物、あるいは他者の土地を利用してローカル5Gを構築運用したらどうだろう。超高速ネットワークサービスを中小企業などに提供することができれば、中小企業はその利活用だけで済むし、ローカル5G導入のハードルは大きく下がるといえる。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉