2021.07.01 【5G関連技術特集】5G計測の動向 アンリツ、端末・有線ネットワークを評価

5G市場の状況

 2020年の世界のスマートフォン出荷台数は、COVID-19による経済活動の停滞で19年と比較すると10%以上減少した。しかし、第5世代高速通信規格5Gは中国を中心に驚異的な成長を見せ、20年だけで3億台近くの5Gスマホが出荷された。これは09年に登場したLTEをはるかに上回る普及ペースとなっている(図1)。

 北米においても、ミッドバンドと呼ばれる3-5ギガヘルツの無線周波数帯域の開放や、一つの無線周波数帯のリソースを需要に応じてLTEと5Gに柔軟に配分するDSS(dynamic spectrum sharing)を活用することにより、モバイル通信ネットワークの5G化が急速に進められている。

 日本でも20年3月から5Gサービスが始まった。東京オリンピック・パラリンピックの延期などの影響により、日本の5G普及ペースは海外に比べて少し緩やかになっているが、12月にNTTドコモが世界初となる5G NRを使ったキャリアアグリゲーション技術を導入するなど、積極的な5G環境の整備が進められている。大手スマホベンダーの5Gモデルが出そろったこともあり、今後、日本の5Gも急速に拡大していくことが期待される。

5Gの標準化活動と最新技術動向

 セルラー通信技術の標準化を進めている3GPPでは、20年に5Gの拡張規格となるリリース16の標準化が完了し、現在はリリース17の標準化作業が始まっている。

 リリース16、リリース17は、高速通信サービス(eMBB)における機能強化に加え、自動車や産業用といった新たな利活用分野の拡大につながる機能の技術仕様が検討・策定されている。COVID-19がもたらした生活様式や社会形態の変化により、これまで以上に高品質で利便性の高いデータ通信のニーズが高まっており、5Gに対する期待がますます大きくなっている。

 21年は、標準化が完了したリリース16の機能開発が始まるとともに、サブ6の5G NRとミリ波帯の5G NRを使ったキャリアアグリゲーションなど、10ギガbpsを超える高速データ通信を目指す開発が本格化する。

 また、LTEで使用している周波数帯を5G用に転換するリファーミングや、LTEネットワークを使用しないスタンドアローン(SA)方式の5Gの導入が進むことが期待されており、いよいよ本格的な5Gの時代が到来する。

端末の開発・認証に必要なテスト環境で5Gサービスの本格普及に貢献

 アンリツは、5G技術開発の初期段階から、業界をリードする先端ベンダーに最新の試験評価環境を供給することで、5G技術の実用化に貢献してきた。MT8000Aラジオコミュニケーション テストステーションは、5G基地局を模擬して端末と通信を行うことで、モデムの通信プロトコル評価や、端末のRF性能評価、スループット評価、アプリケーション動作検証など、5G端末の開発に必要なテスト環境を提供する試験プラットフォーム。大手SoCベンダーや端末ベンダーの5G開発用標準機として広く採用されている。

 また、5G端末を実際の公衆ネットワークサービスで使用するための条件となる、コンフォーマンス認証試験や通信事業者の端末認証試験、電波法規制などといった端末認証のための試験環境も、世界最高水準のGCF/PTCRB認証数を誇るテストケースとともに供給し、5Gサービスの普及と発展に貢献している(図2)。

新しい5G活用を目指して-コネクテッドカーで快適な、安全なクルマの実現に貢献

 「移動」に変革をもたらす次世代移動サービス「MaaS」を見据えて、自動車業界ではインターネット接続されるコネクテッドカーを使用した様々なサービスを始めている。5Gの普及により、高速大容量通信が可能となり、車内で4K/8Kの高精細な最新動画を楽しむことや、最新の地図情報や道路情報を瞬時に取得できることになり、より快適な運転環境が現実のものとなる。また、安全性の向上にも貢献が期待されており、V2X(無線技術で車が双方向通信を行う技術)では、クルマ同士で情報をやりとりして、見通しの悪い交差点での事故を減らすことや、信号機や歩行者と情報をやりとりして、燃費向上と安全性を高めることなどが可能になる。5Gはさらに進化を続けており、今後は超高信頼性・超低遅延の規格化が進んでいく。これらの新しい技術によって、将来はクルマが取得したRader/Lidar/カメラ画像などのセンサーやデータをお互いに共有することで、交通事故のさらなる低減、燃費向上、渋滞解消に加えて自動運転への活用が期待されている(図3)。

新しい5G活用を目指して-ローカル5G普及に向けた制度整備と実証実験がスタート

 企業や自治体などが自営網として、特定地域で5G通信環境を個別に構築できるローカル5Gの制度化が進んでいる。ローカル5Gは、5Gの特徴である「超高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」などの革新的な技術を、専用ネットワークとして構築できるため、スマートファクトリー、重機遠隔制御、映像配信など、多種多様なニーズに応えることができる。総務省は19年に先行した28ギガヘルツ帯の一部に続き、20年末に4.7ギガヘルツ帯と28ギガヘルツ帯追加分の商用免許申請の受け付けを開始した。新たに追加された4.7ギガヘルツ帯は遮蔽(しゃへい)物に強く広い通信範囲を確保できるため、SA方式の採用と併せて、さらに利用者の利便性が拡大する見通しだ。

安全・安心で便利なローカル5G環境構築に貢献

 ローカル5Gでは、専用ネットワークの通信範囲の設計・検証や、専用基地局・端末の品質検証、事業者受け入れ試験などの試験が必要になる。例えば、既存通信網との干渉が生じないことや構築されたローカル5Gが適切な通信品質を提供できているか、検証が必要となる。アンリツは電波伝搬特性の評価(ML8780A、MS2090A)、データ通信速度や遅延評価(MT1000A)、ローカル5G端末の評価(MT8000A)をそろえ、安全・安心で便利な通信環境の実現に測定ソリューションで貢献している(図4)。

5Gを実現する有線ネットワークの進化

 5Gサービスの進展により、データ伝送を支える有線ネットワークやデータセンターの変革も進んでいる。様々なベンダーの機器を組み合わせて実現するオープンRAN(無線アクセスネットワーク)、クラウドを活用し端末との間で素早くデータ処理を行うエッジコンピューティング、大容量無線信号の効率的な配信とアンテナ設置の省スペース化や省電力化が可能となる光ファイバ無線などの新たな技術の実用化も検討されている。データ通信の品質を確認するための事前の接続検証や、フィールドでの伝送品質の確認が一層重要になっていく。さらにフィールドでは、大容量通信や多接続を実現するためのネットワーク内の時刻同期にも高い確度が求められる。

5Gの伝送品質を支えるネットワーク内の時刻同期と低遅延

 5G NR(一部4G LTE)で採用されているTDD(Time Division Duplex:時分割複信)はUTC(協定世界時)に対し、最大1.5マイクロ秒、有線ネットワーク内で最大1.1マイクロ秒以下の〝位相ずれ〟(時刻誤差)を保証することが求められる。このため各基地局は、高精度な時刻同期を必要とする。この時刻同期はGPSからの時刻情報の取得やPTP(Precision Time Protocol)網による時刻情報の伝送で実現される。時刻同期の重要性は5Gの基地局やIoT端末の数が莫大に増えていくことで、さらに広がっていく。

 これらの伝送に許容される伝送遅延時間が、端末を含んだネットワークとして、有線ネットワークの伝送性能として定義されている。また、ネットワーク内の時刻同期精度を安定させるために、TE(Time Error:時刻同期誤差)と呼ばれる位相同期の精度の向上が必要となる。そのためには、パケットの遅延量を双方向対称かつ一定に保つことが重要となる。5Gネットワーク構築に向け、PTPパケットの遅延の対称性や変動量を正確に測定する要求も高まっている(図5)。

トータルな伝送品質評価への貢献

 アンリツのネットワークマスタMT1000Aは、5Gで求められるネットワーク性能をモバイルフロントホールからコアネットワークまで、スループット測定やビットエラーレート測定に加え、高確度の時刻同期網(PTP網)構築をサポートするPTPプロトコル検証やパケット単位の遅延評価を行うことができる。イーサネットインターフェイス、OTDR(光パルス測定器)、高精度GPS同期発振器などのユニットの組み合わせで5G有線ネットワーク評価、敷設、保守における様々な測定を1台で実現できる。この柔軟かつ優れた拡張性により、5Gサービスの普及と品質向上に貢献していく。

〈アンリツ(株)〉