2021.12.15 Let’s スタートアップ!Mellow多種多様なサービスの“移動店舗化”を推進「会いたいお店がやってくる」世界の実現を

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、キッチンカーなど、移動型店舗の配車やマネジメントをデジタル上で行う「モビリティビジネス・プラットフォーム」を展開する株式会社Mellow。

 同社は、オフィスビルなどの空きスペースとキッチンカーをマッチングし、個性豊かな料理を楽しめるランチスペースを街中に創出している。また、飲食に限らず、さまざまなサービスの移動店舗化を支援し、まちづくりの新たな価値提供にも積極的に取り組んでいる。同社の設立の経緯や狙い、現在注力していることなどを広報の小関真裕美さんに聞いた。

プロフィール 小関真裕美(こせき・まゆみ) 株式会社Mellow 広報/デザイン
女子美術大学を卒業後、広報支援を行う制作会社に入社。大手企業の社内報や会社案内などの制作を多数担当する。2017年5月にMellowに入社。現在、デザイナー兼広報として活動している。

キッチンカーとビルオーナーを“つなぐ”仕組み

 ランチ時のオフィスビルや、イベント会場にずらりと並ぶキッチンカー。こうした移動店舗の配車やマネジメントをデジタル上で運用管理する「モビリティビジネス・プラットフォーム」(SHOP STOP)を展開しているのが、Mellowだ。

「モビリティビジネス・プラットフォーム」を利用する移動店舗が並ぶ様子(画像提供:Mellow)

 Mellowでは、キッチンカーの事業者と、オフィスビルのオーナーやイベント会場の運営者をマッチングし、店主こだわりの料理を楽しめるランチスペースを街中に創出している。ただし同社が行うのは、単にビルやイベント会場にキッチンカーを集め、並べることではない。

 例えばオフィスビルであれば、まずビルオーナーから「キッチンカーを出店して、テナントの満足感を上げたい」といった意向を受ける。それを元に、「このオフィスビルで働くのはどういう人で、どんなメニューが喜ばれるか」を考え、出店するキッチンカーを募集し、スケジュールを組んでいく。つまり、その場所の利用者やオーナー、運営者の満足度が上がるよう“場”をプロデュースし、その成果の一部をレベニューシェアとして受け取るビジネスモデルを展開しているというわけだ。

 キッチンカーの事業者に向けた開業支援やコンサルティングにも力を入れている。開業・営業ノウハウに関するセミナーを開催するほか、開業に必要なものをワンパッケージにまとめたサブスクリプション型の開業支援サービス「フードトラックONE」も提供している。

 さらに同社のビジネスで面白いのは、プラットフォームサービスの対象を拡大し、アパレル店やマッサージ店、小売店など、さまざまなサービスの店舗型モビリティの導入も支援し始めていることだ。例えば、豊洲市場の仲卸がマンションに出向いて鮮魚を販売する「お魚販売モビリティ」や、マンションや商業施設で自転車修理を行う「自転車修理モビリティ」の実現などを支援している。

本連載でも紹介したビビッドガーデン「食べチョク」も、Mellowの企業向け店舗型モビリティ導入サポートを活用し、移動型の八百屋「食べチョクカー」の営業を開始している(画像提供:Mellow)

 Mellowでは、こうした取り組みを都心部だけでなく、地方の都市にも拡大。自治体や地元企業らと提携しながら、多種多様なショップが街にやってくる、新たな買い物体験の「場」を積極的に創出している。

 現在、「モビリティビジネス・プラットフォーム」の利用者は急増中。キッチンカーを中心に1300台以上もの店舗が登録し、首都圏・関西・九州エリアの約500カ所で営業を展開している。

原動力となったのは「キッチンカー事業者への思い」

 順調に成長するMellowだが、どういった経緯で設立されたのだろう。広報の小関さんによると、共同代表の一人、石澤正芳氏が抱いていたキッチンカー事業者への思いが、会社設立の大きな原動力になったという。

 当社は2016年2月に創業した会社ですが、もともとは共同代表の一人、石澤が2000年代初頭から、キッチンカーの事業者さんに活動の場を提供する事業を行ってきたという背景があります。

 当時石澤は、路上のキッチンカーで営業する人たちに出会い、「すごいな」と感銘を受けたらしいです。というのも、ほかにも一般の店舗がある中で、路上に来ているキッチンカーに行列ができていて、彼らが作るこだわりの料理を求めて来る人がたくさんいたからだと。

 ところが、その頃、道路交通法の規制が厳しくなったこともあり、路上にキッチンカーを止めて営業するのが難しくなった。つまり、キッチンカーの事業者が営業場所を自分で確保しなければならなくなったのです。

 でもキッチンカーの事業者はほとんどが料理人なので、土地のオーナーと交渉することに慣れていない人が多いのです。また、オーナー側もキッチンカーを見たことがない人がほとんどで、交渉しようとしても、全然取り合ってもらえない状況でした。

 これを知った石澤は、営業場所を確保できなくなると、キッチンカーの事業者もお客さんも悲しむ、だったら自分が代わりに、合法的に場所をお借りして、活躍の場を確保しようと思ったのです。彼はそのときイベント会社にいたのですが、キッチンカーをオフィス街のランチとして定着させるビジネスを、会社の一事業として始めたそうです。

 その事業自体はうまく回りました。しかし、キッチンカーの事業者がどんどん増えていく中で、事業をスケールしようとすると、どうしても配車の管理やマネジメントなどを、デジタルで効率化する仕組みが必要になってきました。

 ちょうどその頃、アプリ開発などを行っていた会社と石澤が出会い、「だったら、一緒にキッチンカーのビジネスを創っていこう」と意気投合し、Mellowを創業したのです。

 ちなみに、そのときのアプリ開発をしていた会社の関連メンバーが、今の当社のもう一人の代表、森口拓也です。

共同代表の一人・石澤氏のキッチンカーへの思いが、Mellowを創業する原動力になったと話す小関さん

“アナログな世界”と“デジタルな世界”の融合に挑戦

 キッチンカーの現場をデジタルの力で効率化しようと設立されたMellowだったが、当初は多くの苦労があったようだ。

 石澤は、設立当初が一番大変だったといいます。というのも、IT畑にいた人間と、キッチンカー営業の現場にいた人間が一緒になってビジネスを始めたものですから、考え方や文化の違いがあり、なかなかうまくかみ合わなかったそうです。

 また、キッチンカーの現場を効率化するシステムをつくるにしても、やはり現場のことを知らないと、本当に使いやすいものはできません。

 そこで、設立間もない頃から、本社前に数台のキッチンカーを並べ、ランチタイムに実際に運営をしながら、システムづくりに反映していきました。

 こうして、IT畑とキッチンカー畑の人間が力を合わせ、アナログな世界とデジタルな世界を少しずつ融合させていったのです。

 創業時からアップデートを繰り返してきた当社のプラットフォームシステムは、私たちの大きな強みになっています。今後も現場の拡張などに合わせ、どんどん進化させていくつもりです。

 もうひとつ苦労したのは、出店場所の確保です。

 キッチンカーの事業者さんはどんどん登録してくださるのに、提供できる出店場所がないと、かなりの痛手になります。そこで創業時は場所をお借りすることに、かなりのリソースを投入していました。

 しばらくして、デベロッパー各社に一つずつ実績ができたあたりから、デベロッパーからほかのビルを紹介いただくなど横展開が進むようになりました。それと同時に、キッチンカーがメディアに取り上げられる機会も増え、ビルオーナーさんの認知も広がり、徐々に場所を増やせるようになりました。

 今では、首都圏、関西、九州エリアの500カ所以上の場所を確保できるまでになっています。

設立当時の苦労について話す小関さん

飲食に限らず、さまざまなサービスの移動店舗化を

 現在Mellowでは、キッチンカーに限らず、物販も含めた、多種多様なサービスの移動店舗化を支援している。ここにはどのような狙いがあるのだろう。

 2020年6月に、私たちはブランドをリニューアルしています。それまでは、ランチタイムにキッチンカー(フードトラック)を楽しんでもらうという意味で、「TLUNCH(トランチ:TRUCK×LUNCH)」というコンセプトでサービスを展開していました。

 それを、(バス停留所のように)さまざまなお店の停留所を意味する「SHOP STOP」というコンセプトに一新しました。

 そこには、飲食に限らず、物販など多種多様なサービスのモビリティ化(移動店舗化)を推進し、街のさまざまな“場所の価値”をさらに高めていこうという思いを込めています。

 その一例が、豊洲市場の仲卸業者さんが、マンションの敷地内で鮮魚を販売した「お魚販売モビリティ」です。豊洲市場の仲卸さんとタッグを組んで、鮮魚の移動販売を実施したのですが、実際にマンションに出向いたところ、住民の皆さんからとても喜ばれました。

 ネット通販でいろいろ買える時代ではありますが、実際の商品を手にし、お店の人と話をしながら買い物することへのニーズは根強く残っていると思います。このワクワク感は、いかに便利な世の中になったとしても決してなくならないものだと信じています。

 私たちは最近「会いたいお店がやってくる」という新しいビジョンを掲げましたが、これもキッチンカーに限らず、お客さんが「会いたい」と思う、いろいろなお店を届ける仕組みをつくっていこうというものです。今後は店舗型モビリティのコンテンツをどんどん増やしていく予定です。

有明のタワーマンションの敷地内で営業し、住民から好評を得たという「お魚販売モビリティ」(画像提供:Mellow)

キッチンカーが被災地にかけつける仕組みづくり

 Mellowでは、「フードトラック駆けつけ隊」という災害時にキッチンカーが被災地で炊き出しを行う支援ネットワークをつくっている。これについても、設立の意図を聞いた。

 当社では、今年、「フードトラック駆けつけ隊」の活動を今年法人化し、「一般社団法人フードトラック駆けつけ隊」を設立しました。

 この活動は、もともと石澤が2011年の東日本大震災の際に、キッチンカーの事業者から「東北の支援に行きたいけれど、どうすればいいかな」と相談を受けたことがきっかけで始まったものです。

 石澤は、行政などに問い合わせたのですが、震災後の混乱もあり、実現しませんでした。そこで、何か起こった時に、キッチンカーが災害地支援に行ける仕組みをつくらなければいけないと考えるようになったそうです。

 それで2019年9月に、キッチンカーの事業者に「ボランティアの機会があれば参加してくれる人はいますか?」と呼び掛けたところ、たくさんの事業者から反響があり、発足したのが、フードトラック駆けつけ隊です。

 団体が発足して1週間ほどで、台風15号による千葉県の大停電が起こりました。そのときにフードトラック駆けつけ隊が初めて出動し、行政や公民館などと連携しながら被災者を支援することができました。

 こうした社会貢献の取り組みは、なかなか私たちの規模のスタートアップでは難しいのです。しかし、地域の被災地で炊き出しなどの活動を行うことで行政や地域とのつながりが強くなります。

 当社では、そうした社会貢献活動のネットワーク構築と、事業の成長とをうまく組み合わせ、息の長い取り組みにしていければと考えています。

「フードトラック駆けつけ隊」の設立経緯について話す小関さん

求めているのは「新しい世界観を共に創ってくれる仲間」

 最後にMellowが今必要としているものを聞いた。

 先ほどもお伝えしたように、当社では「会いたいお店がやってくる」という新しいビジョンを掲げました。

 今後は飲食に限らずコンテンツの種類をどんどん増やしていき、全国展開も進めていく予定です。

 そのためにも私たちが必要としているのは、「会いたいお店がやってくる」世界観を一緒に創っていってくれる人です。

 今までお店というものは動かないのが当たり前でしたから、私たちが生み出そうとしているのは、これまでになかった新しい世界です。これをゼロから共に創っていってくれる仲間を求めています。

 当社の社員だけにはとどまりません。土地を貸してくださるオーナーさんや店舗型モビリティの事業者さんも含め、仲間になってくれる方を広く求めています。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社Mellow
URL
https://www.mellow.jp
代表者
石澤正芳 / 森口拓也
本社所在地
東京都千代田区四番町2-12四番町THビル7F
設立
2016年2月18日
資本金
9億406万円(準備金含む)
従業員数
35人(役員含む、2021年10月現在)
事業内容
モビリティを活用した空地活用事業、店舗型モビリティの開業支援およびコンサルティング事業、フードトラック直営事業