2020.09.07 Let’s スタートアップ! ビビッドガーデン荒廃した実家農地が出発点「食べチョク」で1次産業を救いたい!

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。

 今回は、オンライン食材直売所「食べチョク」を運営するビビッドガーデン。

 「食べチョク」は、新型コロナウイルスで消費者の健康意識や生産者の販路開拓の意識の高まりを受け、利用者が急増。2020年8月には6億円の資金調達も発表した。

サービス立ち上げの経緯や苦労、第1次産業を支えるための独自の取り組みなどについて広報の下村彩紀子さんに聞いた。

プロフィール 下村彩紀子(しもむら・さきこ)・ビビッドガーデン 広報・マーケティング
新潟県魚沼市のユリ農家に生まれる。大学卒業後、人材系メガベンチャーに入社し、法人営業や採用人事に従事。2019年10月にビビッドガーデン入社。広報とマーケティングを担当する。

生産者のこだわりが評価されるオンライン直売所

 「食べチョク」は、野菜や肉、魚介類などの食材全般と、観賞用の花を取り扱うオンライン直売所だ。その特徴は、生産者のこだわりが正当に評価され利益も確保できる仕組みにある。

食材のオンライン直売所「食べチョク」

 これまで、小規模生産の農家などにとって、卸業者などが複数入り、形や大きさで価格が決まる既存流通の仕組みは、利益を上げるのは難しかった。

既存の流通ルートと「食べチョク」の流通ルートの比較(ビビッドガーデン提供)

 しかし、「食べチョク」では、小売りや卸売りを介さず、生産者が自分で値段を決めて商品を直接販売できる。また、値段も生産者が考える「適正価格」で出品が可能。そのため利益を確保しやすい。さらに販売する商品のこだわりを消費者に訴えて評価してもらえる。

生産者のページでは、作り手のこだわりを消費者にアピールできる

 一方、消費者にもメリットがある。「食べチョク」では、一定の掲載基準を設けており、それをクリアした「こだわりを持つ生産者」と直接やり取りしながら、旬の食材や珍しい地場野菜などを購入できる。

 生産者は利用に当たっては初期費用が不要。商品が売れると販売額の20%をビビッドガーデンに手数料として支払う仕組みだ。

 「食べチョク」は、新型コロナウイルスによる消費者の食材意識の向上や、生産者の既存販路への危機感の高まりにより利用者は急増。現在の登録生産者数は約2300件、出品される品目は約9500品に上る。

荒れ地になった実家の畑から「食べチョク」が生まれた

 「食べチョク」のサービス立ち上げの背景には、小規模農家に生まれた秋元里奈社長の個人的な経験があったと下村さんは説明する。

 社長の秋元の実家(神奈川県相模原市)は、少量多品種の野菜を作る家族経営の農家でした。しかし、秋元は幼い頃から「もうからないから継ぐな」と言われて育ったそうです。そして、中学生の時に実家は廃業。秋元は大学卒業後、大手IT企業に入社します。

 廃業から10年ほどたった時、秋元が実家に帰ると、荒れ果てた農地を目の当たりにしたそうです。その時、かつて彩り豊かな野菜が育っていた畑が、雑草ばかりの荒れ地になっていたことで、とても悲しい気持ちになったといいます。

 このことがきっかけとなり、秋元は全国の農家の実情を見て回り始めます。すると各地で同じような課題を抱え「もうからない」「子どもに継がせたくない」という声が、あちこちの農家から聞こえてきたそうです。

 そこで、そうした農家を救えないかと2016年11月にビビッドガーデンを起業。まず流通の仕組みを変えようと、2017年5月に「食べチョク」のベータ版(正式リリースは同年8月)を立ち上げました。

 「食べチョク」は、小中規模生産者の農家のこだわりが評価されやすい流通プラットフォームとして考案しました。

 農産物販売の既存の流通ルートでは、JAにドサッと農作物を渡してしまえば、スーパーマーケットまで並ぶ仕組みができあがっています。この仕組みは、農家の手間がかからないという点では大変よくできています。

 一方で、農産物の形や大きさで値段が決まってしまうため、少量多品種で、こだわりを持って作っている生産者だとなかなかもうけが出にくいという点があります。そこで、そうした生産者の利益が出やすい選択肢として作ったのが「食べチョク」です。

既存の大規模流通とは「それぞれの強みや弱みを補い合いながら、共に農業を盛り上げていく関係でありたい」と言う下村さん

初めは「農家から金を取るのか」と冷たくあしらわれた

 「農家が抱える課題を解決したい」という秋元社長の思いから生まれた「食べチョク」だが、当初は農家からの信頼を得るのに苦労したという。

 実は「食べチョク」は特に新しいビジネスモデルではないのです。これまでもいろいろな事業者が同じようなサービスで参入していたからです。一方で、撤退する事業者も多くて、参入、撤退が繰り返されてきました。

 こうした背景があって、秋元が農家に「食べチョク」の話をすると、「また農家から金を取るのか」と冷たくあしらわれることが多かったそうです。

 さらに農家の方からすると秋元は娘ぐらいの年齢。「若い子に何が分かる」と、最初は全く信用されませんでした。

 そこで秋元は勤めていた大手IT企業を辞めて会社を起業し、毎日「食べチョク」のTシャツを着て会いに行くようにしたそうです。

 同時に農家の人たちと信頼関係を築くために、最初は「農家の娘なので遊びに行かせてください」と言って農家の方の所に足を運びました。

 その時には仕事の話を一切せずに、一日中雑草を刈ったり野菜の収穫を手伝ったりして、農家さんに認めてもらうように努力したそうです。

 そうすると農家の方も心を開いてくれるようになり、そこでようやく、仕事の話をしたそうです。

 こうした地道な活動を重ねていくうちに「応援するよ」と言ってくれる農家さんが増えていきました。

 その結果、サービス開始から半年ほど、登録生産者数が100件を超えたあたりから徐々に注文も増え、事業がうまく回り始めるようになったそうです。

ITやビジネスに不慣れな高齢農家も助けていきたい

 現在、生産者と消費者をつなぐ産直型通販サイトは複数登場している。その中で「食べチョク」が高い支持を集める理由の一つに、インターネットやITに不慣れな高齢の生産者などを支援するための施策がある。

 農業の世界で、ホームページを作ったり、レストランを経営する経営者は、自分で施策を打ったりできます。

 しかし、農業では、そうではない人たちの方が圧倒的に多い。私たちはそうした人たちに対して、プラットフォーマーとして手を差し伸べていくことが存在価値の一つと考えています。

 その一つが、2020年7月から始めた「ご近所出品」という取り組みです。これは、若手の生産者さんに代表者になってもらい、チームで出品できる仕組みになります。

 例えば、近所の90歳の生産者さんが作るみかんが、すごくおいしいのになかなか売れる場がない。そうしたときに、若い40歳の生産者さんの商品と一緒に、例えばみかんと野菜のセットにして販売できる仕組みです。

 消費者も、複数の生産者の食材をまとめて送ってもらえますし、「食べチョク」の仕組みに慣れていないけれど、高い技術を持つ高齢の生産者も出品できるようになります。

 こうした背景にあるのはわが国の農家の危機的な高齢化です。

 今、農業従事者の平均年齢は67歳といわれています。そして、高齢者の方はITに不慣れだったり、ビジネスをするのがうまくなかったりする人が少なくありません。そうした人たちを助けることができる使いやすいサービスとして始めたのです。

 これと並行して、自治体との連携もスタートしています。直近では佐賀県(さが県産品流通デザイン公社)と連携し、県内の生産者の販路拡大を支援する取り組みを2020年6月から始めました。

 これは、佐賀県内のインターネットに不慣れな生産者が出店や運用スキルを向上できるように、私たちがオンライン講習会を行ったり、県内の若手生産者さんにリーダーになってもらい他の生産者さんをフォローしてもらったりする試みです。

 これ以外にも、いろいろな自治体さんとの話が進んでいて、こうした連携が今後どんどん増えていくと考えています。

ITに不慣れな生産者でも使いやすいサービスにしていきたいと話す下村さん

新型コロナで被害を受けた生産者を支援、流通額が35倍に

 「食べチョク」の生産者支援の施策の中で、特に大きな反響があったのが、新型コロナウイルスで販路が絶たれた生産者を応援する取り組みだ。

 きっかけは生産者からのSOSでした。新型コロナウイルスの流行で、これまで飲食店やホテル、百貨店、道の駅などに卸されていた生産者の売上げが9割減るといったことがあちこちで起こったのです。

 「タマネギが3トン余ってしまった」「牡蠣(かき)8000個を卸す先がない」など困ったという悲鳴があちこちから上がりました。

 そこで私たちは、2020年3月から送料500円相当を当社が負担する応援プログラムを始めました。

 この取り組みを各所で発信していくことで、「生産者を応援したい」という消費者さんも増えて、支援の動きが盛り上がっていきました。

 すると「食べチョク」の利用者や流通量も増加。2020年2月から現在(取材時の8月21日)までで、利用者数が約14倍、流通額は約35倍まで増えました。

 ただ、会社としては3月から5月までは送料負担をしたことで、利益がほぼ出ていませんでした。

 そのため、経営的に苦しくなり、送料負担は5月末で終了することになったのですが、そのタイミングで農林水産省からインターネット通販における一部食材の送料を補助するプログラム(「#元気いただきますプロジェクト」)のお声がけいただきました。

 プログラムはちょうど5月末から開始しており、当社はその初期の事業者に選ばれました。そのため、今も生産者支援の取り組みは続けることができています。

生産者にも消費者にも役立つ仕組みを進めていきたい

 今後、ビビッドガーデンではどのような展開を考えているのだろうか。

 生産者さんと直接コミュニケーションする楽しさを感じる消費者が、これまで以上に増えるといいと考えています。

 今後はそのための仕組み作りなどに注力していくつもりです。ヤマト運輸と物流連携も進めており、これによって、消費者がより安価な送料で商品を買えるようにしていく予定です。

 また、高齢の生産者さんなどがEC(電子商取引)に参入しやすくするような仕組みや土台作りも強化していく考えです。

「生産者、消費者に対する様々な取り組みを行っていく」と話す下村さん

第1次産業を支えるエンジニアを求む!

 最後に今ビビッドガーデンが求めているものは何かを尋ねた。

 私たちはプラットフォーマーなので、いつ何かできるのか何がとれるかといった栽培や漁のデータを蓄積していけます。

 また、それに伴う消費者さんからの評価も合わせて分析できます。そこから新たな事業やサービスを始めようとしています。

 例えば、栽培予測ができるようになれば、それに合わせて出荷対応もできるようになるので、飲食店の予約受付や需要予測も可能になります。

 こうした形で、第1次産業全体を底上げするような取り組みを実現していきたいと考えています。

 そのためにも、一緒に新しい事業や機能を構築していけるエンジニアが必要ですし、私たち会社にぜひ参加してもらえるとうれしいですね。

(取材・写真:庄司健一)
社名
ビビッドガーデン
URL
https://vivid-garden.co.jp/
代表者
秋元里奈
本社所在地
東京都港区白金台2-16-8
設立
2016年11月
資本金
4.2億円(2020年8月現在)
従業員数
27人(2020年8月現在)
事業内容
食材のマーケットプレイス「食べチョク」および、飲食店向け食材仕入れサービス「食べチョクPro」の運営など。