2025.07.10 日本IBM、次世代型の新サーバー投入 事業継続性とAI推論強化

25日から国内で提供される「IBM Power11」

Power11を発表する日本IBMの山口社長=9日、東京都中央区Power11を発表する日本IBMの山口社長=9日、東京都中央区

チップを紹介する日本IBMの原氏チップを紹介する日本IBMの原氏

Power11に搭載のチップPower11に搭載のチップ

 日本IBMは9日、企業向け次世代サーバー「IBM Power11」を発表した。「無停止」「自動復旧」「AI(人工知能)推論強化」の三大機能を柱に、企業の事業継続性と業務革新を両立。オンプレミス(社内運用)とクラウドを柔軟に組み合わせることが可能で、企業内に蓄積されたデータの安全性を確保しながら、データ活用によるビジネス創出を支援する。同社は今後もハードへの開発投資に注力するとともに、ソフトウエアとサービスを一体で提供していく方針をあらためて鮮明に打ち出した。

 「IBMは『世界をより良く変えていく触媒(カタリスト)』として、企業や社会の変化に先んじて支援する」。日本IBMの山口明夫社長は同日の記者会見でこう力を込めた。

 Power11は、前世代機のハードから仮想化ソフトまで再設計。計画的メンテナンス中の停止を不要とする「Zero Planned Downtime」機能を実装し、システムの可用性を高めた。内蔵の「Power Cyber Vault」は、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を1分以内に検知して自動復旧を行う。最新の量子耐性暗号を活用し、将来的な量子攻撃にも対応する。

 AI推論性能も大幅に強化した。オンチップAI推論アクセラレーターは、2025年度内に提供予定のオフチップ「IBM Spyreアクセラレーター」と連携することで、ハイブリッドクラウド全体のAIスループットを従来比5倍に引き上げた。

 処理性能面では、Power9比で最大55%、Power10比でコア数を最大45%向上させ、最大2048スレッドに対応する上位機や2Uエッジサーバーまで多彩な製品群を取りそろえた。

 エネルギー効率も大きく改良され、x86サーバー同等クラス比で1W当たりの性能を2倍に高めるとともに、最大28%の消費電力低減を実現し、運用コストと二酸化炭素排出量の削減に寄与する。

 SAPのRISEプラットフォームやレッドハットのオープンシフトAIとも連携でき、基幹業務からAIプロジェクトまでを一貫支援する仕組みの構築を加速。200超のDXソリューションをクラウド上で展開し、ワンクリックで利用できるメニューの提供も視野に入れている。技術者リスキリングや若手コミュニティーの支援プログラムを強化し、人材育成にも注力する。

 山口社長は今後の事業方針について「世の中の動きを見据えた上で、基礎技術の半導体からコンサルティング、それを支えるコンピューターを顧客の利用形態のニーズに合わせた形で提供していきたい」と述べ、引き続きハード・ソフト両面で事業展開を強化する方針を強調した。

 Power11は国内では25日から提供開始予定。

COBOL移行の需要狙う

 日本IBMの原寛世Power事業部長は、Power11の強みについて、日本企業の基幹システムを長年支えてきたプログラミング言語「COBOL」資産の高い移行性を挙げる。「COBOL資産の行き先としてIBMが選ばれている。1000件以上の実績がある」と述べ、30年、35年を見据えて「大きな需要が見込まれている」と自信をのぞかせる。

 移行後の運用も、従来のAIXやIBMi、Linuxといった複数のOSを1台の筐体(きょうたい)で同時に稼働できる点を強調。多様なアプリケーションを効率的に運用し、データの一元活用などを支援するほか、特にハイブリッドクラウド環境でオンプレミスとクラウドを柔軟に組み合わせることが可能になるという。

 生成AIを業務アプリケーションに組み込む際の推論エンジンとしても最適化を図り、IBMクラウドでGPU(画像処理半導体)機能を提供することでAIの学習にも対応できる体制を整えた。

 原部長は「今後も日本の基幹システムの進化を支え、企業のデジタル変革と日本経済の持続的成長を後押しする」と、継続的な投資と技術革新への意欲を示した。