2022.01.06 【2022年注目の先端技術】JQAリバブレーションチャンバーの技術紹介車載機器のイミュニティ試験を高精度で

1.はじめに

 日本品質保証機構(JQA)が、これからのイミュニティ試験を見据えて導入した車載機器用のリバブレーションチャンバー(以下、「RVC」と称する)について、動作原理と技術的特徴を紹介する。

 自動車業界は、IoT技術やエネルギー政策と関連してモノづくりを含めた変革期を迎えていると言われている。電気自動車(EV)は、モビリティの役割のみならずエネルギー問題を解く一つの要素としてその普及拡大が期待され、自動運転車は将来社会のグランドデザインに重要な要素として組み込まれている。

 図1に示すように、電波利用がますます促進される社会の中で、自動車は移動中にいろいろな電磁波に遭遇している。電磁波に対する自動車の耐性試験(イミュニティ試験)は、これまでも試験法の改良を重ね十分な品質で行われてきているが、自動運転車では、

①高度化された電子機器が用いられること

②カメラやレーダーなどの多数のセンサーが車体周囲に取り付けられること

③車両全体に高速データ通信ネットワークが張りめぐらされること

などから、これに適した効率的で品質の高いイミュニティ試験法が求められてきている。そこで最近注目されているのがRVC法である。

 RVC法は、自動車や車載機器に対していろいろな角度から満遍なく電磁波を照射でき、ギガヘルツの高周波帯においても試験品質を維持できる方法として期待されている。自動車用のRVC法に関する試験規格は、基本規格IEC 61000-4-21を基に作成された車載部品試験ISO 11452-11が2010年に発行されているが、車両用についても前述した背景から標準化の機運が高まりISO 11451-5が作成されているところである(現在Committee Draft〈CD〉を審議中)(図2)。

2.RVC法の基本的原理

 RVC法には各種の方式があるが、現在一般的に使われているものはIEC 61000-4-21に規定されている機械式の攪拌(かくはん)機を有するものが主流である(図3)。

 チャンバーは導電率の高い金属で作られたシールドルームの構造をしており、試験に用いる最低使用周波数でマルチモードになるよう大きなサイズで設計された3次元の空洞共振器である。理想的な空洞共振器では、共振周波数は式(1)から求まる。

式(1)

L,W,H:RVCのサイズ、C0:光速2.998×108m/s,m,n,p:モード次数

 この式にJQAの所有するRVCのサイズ(4.84×3.6×3.1[m])を当てはめると固有モードは図4のようになり周波数が上がるにつれ、分布が密になることが分かる。

 RVCには攪拌機(stirrerまたはtunerと呼ばれる)が存在し、それが回転することによってチャンバーの境界条件が変化することから、モード分布を変化させることができる。モード分布と各モードのQ値から入力する電力を調整することによって、試験領域内の電界の振幅や偏波が統計的に均一になる電磁場が得られる。電界均一性の測定結果を図5に示す。電界均一性は、図3に示す試験領域の8カ所に置いた電界プローブで測定した電界強度の標準偏差を取り、評価される。各プローブの電界成分Ex、Ey、Ezは独立として扱うため、ステップ回転では攪拌機の各角度において合計24個(=8×3)のデータが用いられる。

 電界均一性は、RVCが設計通り機能するかを検証する重要な指標である。電界均一性が規格要件を満たすことが、異なるRVCとの間で相関性のよい結果を得るための条件となる。

3.RVC法の試験手順

 電界均一性の要件を満たすRVCにおいて、実際の試験を実行する前に、試験台や供試品など試験に必要なものをセットアップしたことによる損失を測定する。損失は、試験領域においたアンテナもしくは電界センサーを使って受信電力測定を行い、セットアップ前後の差異から求める。この差異は負荷係数CLF(chamber loading factor)と呼ばれるもので、試験時の送信アンテナへの入力電力を求めるために使われる。試験台や供試品等による減衰やQの変化を考慮するためである。CLFが求まると、試験電界ETestを得るための送信アンテナへの入力電力PForwは式(2)で求められる。

式(2)

 ここで、FCLF、GRCはそれぞれISO 11452-11で定義される負荷係数、チャンバー利得である。

4.RVCの電磁界の様子

 図3のRVCにおいて、攪拌機を回転させたときに電磁界の分布が変化する様子を紙面の制約から角度0°、60°、120°の3点のみ図6に示す。3角度だけではあるが電界の各成分の大きさが変化しており、攪拌されていることが分かる。また、ポインティングベクトルの矢印が散乱波の合成波になっていることから各切断面で一様になっておらず、攪拌機によって不規則に変化し分布する。一方向から準平面波を印加するALSE法とは大きく異なる。

5.RVC法の特徴的な適用範囲

 車載機器のイミュニティ試験では、ISO 11452-2(ALSE法)が1990年代半ばから広く使われてきているが、そのALSE法と比較してRVC法が持つ特徴的な適用例を挙げる。

 試験領域が立体的で大きく取れるため、大きい供試品に対して試験が行える。ハーネスの配置による結果への影響も小さいため、長尺ハーネスもレイアウト可能であることから、車載イーサネットケーブルにも原寸大で適用可能である。加えて、DC高電圧、AC充電、従来の12Vと3種類のハーネスを持つEVの車載機器に対しても、ハーネスの配置替えをして試験を繰り返すことなく同時に電磁界を印加して影響を見ることができる。

 RVC法は内部で散乱した多数の反射波を攪拌することによって均一の電磁場を生成するため、複数個の供試品を一定の間隔を取れば同時に試験することが可能で、いわゆる「N増し試験」が容易に行える。複数の供試品で信頼性の高い判断が行える。

 照射アンテナのビーム幅などを心配することなく高周波帯まで試験が行える。近い将来6GHzまでイミュニティ試験が求められることが予想されるが、容易に対応は可能である。

 ALSE法のように、アンテナの位置や偏波面を変える必要がないため、試験を中断することなく自動測定が可能となる。

6.おわりに

 RVC法は2000年ごろ、米仏を中心に自動車への適用検討がたくさん行われ一時的に関心が高まったが、当時のイミュニティ試験は試験上限周波数が低いなど現在ほど試験条件が幅広くなく、ALSE法に比べて攪拌機をステップ回転させるRVC法は試験時間がかかることから敬遠された。しかし、自動運転化などによって車載機器が高度に複雑化されてきた現在、イミュニティに対する高いロバスト性が求められるようになるとALSE法の試験時間がかかるようになり、加えてGHz帯での試験品質要求が問われるようになってきたことから、再びRVC法に注目が集まってきている。

 JQAではRVCを2基導入している(安全電磁センター〈東京都八王子市〉に1基、中部試験センター〈愛知県北名古屋市〉に1基)。製品の性質を考慮した試験セットアップや試験法の適用範囲の拡張など、RVCの新たな活用の可能性を検討している。

 〈筆者=一般財団法人 日本品質保証機構 総合製品安全部門 計画室 参与 塚原 仁氏〉