2022.06.03 【エコファースト企業~環境の日~特集】製造装置の動向産業用モーター、消費電力低減が重要課題に
カーボンニュートラルに貢献する高効率モーターや産業用インバーターが注目されている
資源エネルギー庁によると工場やビルなど産業用途で使われるモーターの日本国内における普及台数は約1億台で、全消費電力量の約55%を占める。カーボンニュートラルを達成するには産業分野のモーター消費電力をいかに低減するかが重要な課題になる。このためにFA企業は産業用モーターの高効率化を進めるとともに、産業用インバーターの組み合わせによる省エネの提案を推進している。
産業用モーター(三相誘導電動機)はビル、工場などの空調機器、輸送機器、工作機械、製造装置、建機、昇降機など、さまざまな産業機器の動力源として使われている。国内需要だけでも年間約1000万台規模に達する。
モーターは電気エネルギーを機械エネルギーに変換する際に内部で一部が熱エネルギーとして消費される。この損失を低減し高効率化することは、国としても重要なエネルギー政策であり、世界各国が国際電気標準会議(IEC)の規準を採用するなど高効率化規制を進める。日本は「トップランナー方式」を2015年に導入している。
産業用モーターは誘導電動機のほかに同期モーター(PMモーター)、ステッピングモーター、サーボモーター、直流モーターなどがある。同期モーターは回転子に永久磁石を使用し、二次銅損がなくなるため小型化が可能になる。最近は高性能ネオジム磁石を使ったIPMモーターが開発され、HV、EV用にはIPMモーターが使用されることが多くなっている。
誘導電動機は商用電源の周波数(50/60ヘルツ)を変えずにそのまま使ったり、商用電源の周波数をインバーターで可変して回転数を変えるが、同期モーターは構造上、商用電源をそのまま使うことができず、インバーターが不可欠になる。
モーターは、起動時に大きな電力を消費する。インバーターはON/OFF制御ではなく、モーターに供給する交流電源周波数(商用電源、50/60ヘルツ)を可変し、連続運転しながら負荷に応じてモーターの回転数を制御するため、大幅な省エネを実現するという試算もある。
大きな省エネ効果が期待される産業用インバーターだが、日本における普及は20%程度(産業用モーターの出荷台数に対するインバーターの出荷台数比)にとどまり、業界の期待ほどに普及が進んでいない。FA各社は「カーボンニュートラルに貢献する省エネ機器」に位置付け、新たなビジネスチャンスとして取り組む。
インバーターの主要回路であるスイッチング回路の素子はIGBT(絶縁ゲートバイポーラートランジスタ)を用いるのが一般的だがSiCやGaNなどパワー半導体デバイスを採用した製品も増えてきた。これらを用いると高速スイッチングが可能になり、省エネ効果がさらに高まる。