2022.06.17 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<90>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤②
東急世田谷線は、地熱と水力発電による再生可能なエネルギーだけで運行している都市型の通勤電車として有名だ。その始発駅の三軒茶屋駅から三つ目の松陰神社前駅で降り、商店街を通り抜けながら5分ほど歩くと、そのまま吸い込まれるように松陰神社が鎮座している。
吉田松陰を御祭神とするこの神社は、1882年、松下村塾の門下生によって長州毛利藩主の別邸があったこの地に建てられたという。筆者も学生に教えに行く際、1人でも多くのデジタルトランスフォーメーション(DX)人財が育つようにと、この松陰神社で願掛けしている。
変革の志
というのも、昨今のビジネス環境を象徴する、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性といったVUCA時代をデジタル変革によって乗り切るためには、5GやIoT、人工知能(AI)などの高度なデジタル技術とともに、変革の志が欠かせないと思うからだ。
吉田松陰の『野山獄文稿』の中に、「志を立てて、もって万事の源となす」という名言がある。何ごとを実現するにしても志を立てることから始めなさい、という意味だ。そうすることによって仲間が増え、社会への思いやりのある正しい行いが支持されるようになると説かれている。
そういえば、最近、公式サイトのトップページに「パーパス」(Purpose)を掲載する企業が増えてきた。ここでいうパーパスとは「社会の中で何のために自社が存在しているか?」といった「存在意義」のことを示しているのだが、哲学的で分かりにくい。
具体的にみると、ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を掲げており、富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」とうたっている。各社とも「社会の中で自社はこういう生き方をしたい」といった「企業の志」を、パーパスに制定しているようだ。
その背景には「Z世代」をはじめ次代を担う若い世代は、一緒に働く社員との価値観の共有や社会との良好な関係を大切にする傾向があり、就職活動の際にもパーパスを重視した企業選びをする傾向があると聞く。
これは、企業がDXによるビジネス変革を始める際も同じではないだろうか?
変革意義
DX推進によって自社ビジネスに変革を起こすためには、「何のために自社は変革するのか?」という変革意義、あるいは「自社ビジネスを変革して社会のニーズに応えたい」という変革の志をパーパスとして掲げ、それに共感する社員や協業者を集める必要があるだろう。
「工場をスマート化し少子高齢化による人手不足を解決したい」というパーパスもその一つだ。
例えば、工場に散在するIoTデバイスを使って集めたデータを、エッジAI(端末型に搭載したAI)で分析を行う。その分析データを基に点在するロボットの制御を行うためには、ローカル5Gを導入して工場の超高速無線化が不可欠になる。
つまり、パーパスと共に5Gは、ビジネス変革の基盤ともなるわけだ。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉