2022.07.22 【家電流通総合特集】量販店各社、新たな取り組み始める天然水工場やクラウドファンディングなど
エディオンが「マクアケ」で先行予約販売を行ったチューナーレステレビ
新型コロナ感染症の拡大で生活環境が変化する中、家電量販店でも新たな取り組みが進み始めた。最大手ヤマダホールディングス(HD)は、暮らし丸ごと戦略の総仕上げとして、大型新業態店の新規出店と既存店からの転換を加速。ビックカメラはSPA(製造小売り)商品を強化する一手として天然水工場を立ち上げた。エディオンはクラウドファンディングを使って商品の市場ニーズを探るなど、消費動向に合わせた対応を進めている。
ヤマダHDが昨年から展開をスタートした「ライフセレクト」は、家具やインテリア雑貨などの非家電商材と家電で売り場を半分ずつ分け合う、1万平方メートル規模の大型店。
2017年9月から展開を開始した、非家電商材も取り扱う「家電住まいる館」で得た知見を生かし、そこで見えてきた課題の解決も目指して店舗のコンセプトを定めた、肝いりの業態だ。
ライフセレクトは、郊外型「テックライフセレクト」と都市型「LABIライフセレクト」に分かれるが、基本コンセプトは同じ。ヤマダHDで店舗開発・運営を行う子会社ヤマダデンキに5月1日付で合併した大塚家具(現在はヤマダデンキ大塚家具事業部)の100万円を超えるような高級家具も多数そろえる。
EC(電子商取引)が拡大する中、全国に約1000店の店舗網を持つヤマダHDは、リアル店舗という資産を生かして物流の効率化を図っている。物流拠点として各地のコア店舗となるのが、ライフセレクトだ。
ライフセレクトは現在、24店が展開されている。山田昇会長兼社長CEOは「ライフセレクトが今の2倍となる50店程度に増えると、市場や業績へのインパクトがもっと大きくなってくる」と自信を見せる。
家電の枠を超え、住空間全体という新たな提案に乗り出したヤマダHDにとって、ライフセレクトは、中期経営計画達成の鍵を握る存在となっている。
水の宅配サービスで同業他社との差別化を図ろうとするのがビックカメラだ。同社は7月、山梨県富士吉田市に天然水の新工場を建設し、今年秋にサービスを開始することを明らかにした。量販店が工場を建設・運営するのは珍しく、注力するSPA商品の一つとしてリカーリングビジネスにつなげることを目指す。
木村一義社長は、商品を仕入れて販売するだけの従来型小売業では生き残ることは厳しいと指摘。「当社がモノづくりにまで乗り出す、これが第1号だ」と述べ、新事業として注力していく姿勢を鮮明にしている。
ビックのように、自社企画商品で差別化を図ろうとする機運は高まるばかりだ。ヤマダHDもSPA商品の充実に力を入れる1社で、テレビやエアコンなど大型家電に加え、家具やインテリア雑貨までラインアップを広げている。
コロナ禍で浸透したECへの対応も量販店各社が進めている。ヤマダHDやビック、ヨドバシホールディングスではECの売り上げが1000億円を突破しており、依然として拡大が続く。上新電機もEC事業は好調で、21年度で約759億円の売り上げとなり、前期を上回った。
ネットで注文して店舗で受け取るなど、リアル店舗を生かした柔軟な対応に加え、クーポン機能の改善や大型家電の販売拡大など、各社はユーザーの声を反映しながら、使い勝手を含めた改良を日々進めている。
同時に、オンライン限定の「0次流通市場」に着目し始めた量販店も出てきた。
エディオンは6月13~29日に、今後の商品化も視野に入れ、チューナーレステレビの先行予約販売をクラウドファンディング「マクアケ」で実施した。目標30万円に対して175万円の応援購入金額を集め、販売予定の50台は初日で完売。ここでの反響を踏まえ、今後の一般販売に向けても準備を行っているという。
マクアケでは、新商品がデビューする市場を0次流通市場と位置付けている。特にオンラインでの販売に限定した新商品デビュー市場(オンライン0次流通市場)をターゲットにしており、その規模を1兆円と予測する。マクアケによる応援購入金額は22年9月期で220億円。拡大の余地は大きく、潜在性は高いとにらむ。
量販店にとってもこうした0次流通市場は、重要なマーケットとして映り始めたようだ。エディオンは、広島市南区にあるエディオン蔦屋家電でマクアケショップを展開する。マクアケを通してオンラインで新商品デビューしたものをリアル店舗での販売につなげるなど、アーリーアダプターの利用が多いマクアケから、一般消費者が触れることのできる機会を設けるようにしている。
マクアケのように、エンドユーザーに直接販売するD2Cビジネスは今後も広がっていくはずだ。部屋の実例写真を共有するSNS「RoomClip(ルームクリップ)」を展開するルームクリップ(東京都渋谷区)では昨年3月、部屋の実例写真から商品を購入できる「RoomClipショッピング」を開始した。今年6月には量販店のベイシア電器が出店。約2万点の家電を購入できるようにしている。
量販店では、自社のECサイトだけでなく、他のD2Cプラットフォームを重視する傾向も強まっている。
消費者の多様化が進む現在、量販店にはさまざまな販路への対応という難しい選択肢も突き付けられていると言えよう。