2022.08.19 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<98>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤⑩

 VUCAとは言わないにせよ、一瞬にして社会が壊滅する究極の不確実性を肌で感じたのは、筆者が小学校3年生のときだ。親に連れられて広島平和記念公園内にある原爆ドームと原爆資料館を見学したとき、無力感にさいなまれたことを覚えている。

 同公園は、米アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞した映画「ドライブ・マイ・カー」のロケ地にもなっており、濱口竜介監督は世界平和を願って被爆地・広島市をロケ地に選んだという。

 映画の中では、劇中劇として『ワーニャ伯父さん』が登場する。劇作家のアントン・チェーホフが活躍した1880年代もVUCAの時代だったといえるだろう。18世紀の後半にイギリスから始まった産業革命は、19世紀になってベルギーやフランスへ波及し、ドイツを工業化した。

 しかし、ロシア帝国はこの工業化の流れに乗ることができず、支配階級の貴族たちは時代遅れの農園主として不確実性を増していく。そして工業化によって力を持った市民社会との分断を生むことになるわけだ。

OTとITの分断

 これは、時を経てまさに今起こっているOT(運用技術)とIT(情報技術)の分断に似ているような気がする。製造業をはじめ、エネルギーやインフラ、交通や運輸などの産業機器や産業プロセス資産の監視や制御を行うOTは、先の産業革命によって生まれた。その後、IT化の波が製造業にも押し寄せてきたという歴史がある。

 その結果として生じた両者間の連携の欠如について、前回は「同じ企業の中でOTが中心になった工場とITが中心になったオフィスに分断されてしまった」と指摘した。

 特に生産ラインで産業用ロボットが稼働するケースでは、リアルタイム性とともに停止や誤動作が許されない「ミッションクリティカル」であることが必須条件となる。もちろん、産業機械や産業ロボットを制御・運用する構内のネットワーク(OTネットワーク)にも高信頼性や低遅延、高いセキュリティーが求められるため、独自のプロトコルで発展してきた経緯がある。

 一方で、TCP/IPというオープンな標準プロトコルを使って発展してきたのがオフィスシステムや情報システムをつなぐITネットワークだ。IoTもこのネットワークをベースとしているためOTとつながらないと、例えばインターネットを経由してクラウド上でデータを活用できない。つまり、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進できなくなってしまう。

 では、OTとITをどのように融合すればよいのだろうか?

 一つは、双方のネットワークを温存し、相互にプロトコルを変換する方法がある。もう一つは、OTのデータをITネットワークで統合する方法だ。

OT・IT融合

 これらを実現するのが、産業用IoT(IIoT)になる。超高信頼・低遅延で高セキュリティーを無線で実現可能なローカル5Gを基盤にしたIIoTプラットフォームを構築できれば、工場内に閉じていた機械やプロセスのデータを効率よく全社で共有・見える化ができ、人工知能(AI)でデータ分析も行える。

不確実性を払拭

 OTが中心の組織とITが中心の組織を連携していくためには、まずは組織変革の名の下、不確実性を払拭することから始めよう。双方の全従業員に「DXリテラシー教育」を受けてもらい、双方からDX推進者を募ることをお勧めしたい。

(本シリーズ終わり)(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉