2022.08.30 【ソリューションプロバイダー特集】AI企業の垣根越え活用が拡大、市場規模が急速に伸長

富士通などが開発した埋設探査システムでは、地中レーダーの波形をAIが解析、平面だけでなく深度方向も含めて埋設管の位置を推定する

NECとカゴメの合弁会社が進めるAIによる営農支援のイメージNECとカゴメの合弁会社が進めるAIによる営農支援のイメージ

 人間のように学習したり判断したりできる人工知能(AI)。企業や自治体の「困り事」の解決にAIが登場するケースは新型コロナウイルス禍をきっかけに飛躍的に拡大。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で、AIは欠かせないツールとなり、新たな市場開拓を狙うIT各社の開発競争も熱を帯びている。

埋設探査システム開発

 富士通と戸田建設などは、地中埋設管の破損事故を防ぐため、AIモデルで埋設管を効率的に検出する埋設探査システムを開発した。断面図に現れる地中レーダーの波形をAIで解析。平面だけでなく深度方向も含めて埋設管の位置を推定し、推定に対する信頼度を存在確率として0~100%の範囲で利用者に表示する。波形パターンの違いをAIで解析し、金属や非金属といった埋設管種や、管内の水の有無も判別する。

 実験フィールドで検証した結果、検出できた埋設管の長さと実際の埋設管の長さの再現率は80%以上で、局所的に専門技術者の解析結果を上回ることを確認。専門技術者が目視で判定する場合と比較して、波形画像の解析に係る所要時間を75%以上削減できるという。数多くのデータを目視で判定する場合の見落としの可能性を考慮すると、AI導入により検出結果の信頼性向上が期待される。

 3社は昨年6~11月に試験運用を実施。今年4月から実用化に向けたシステム構築に取り組み、10月の本格運用を目指す。

 AI研究を強化するのがNECだ。研究用スーパーコンピューター(スパコン)の構築に数十億円を投じ、来年3月に国内企業最大規模のシステムを稼働させる。AIに特化した国内最高峰の研究環境で先進AIの迅速な開発に取り組む。

 稼働を目指すスパコンは、システムはシステムエヌビディア社の上位機GPU(画像処理装置)を搭載した最新サーバーを116台(スーパーマイクロ社製)と、高性能ファイルシステムを組み込んだストレージで構成されている。理論上の処理性能は580ペタFLOPS(フロップス)超と国内企業で最大規模となる。1ペ  タFLOPSは浮動小数点演算を1秒間に1000兆回可能なことを表し、画像では数千万枚を数分間で学習できる能力だという。

トマト栽培にも

 NECはAIによる営農支援も進める。食品大手のカゴメとともに加工用トマトの効率的な栽培を行う合弁会社を7月に設立。カゴメのトマト営農の知見と、NECのAI技術を融合させ、欧州や米国、豪州で事業に着手した。

 AIとかんがい設備を連携させ営農作業を効率化し、トマト加工会社や生産者の負荷軽減を図るほか、作物生育に重要となる土づくりから収穫までの栽培手法を改善し、収益性の高い営農支援をサービスの提供を目指す。

 トマト生産農家に向けては、熟練者のノウハウを習得したAIが、環境に優しく収益性の高い営農方法についてアドバイスするほか、センサーや衛星写真を活用して農場の状況を「見える化」し、迅速な異常検知やデータに基づく指導につなげる。2026年までに売り上げ30億円を目指し、将来的には日本でも展開する。

 ウイルスの感染リスクを招く「密」の回避にAIの力を生かし、快適な移動の支援に取り組むのがするのが日立製作所だ。シミュレーション技術を活用して、乗客需要や混雑度合いの分析結果を提供するサービスの販売を1月末から始めた。

 交通事業者が保有する発着場所別の人数データや時刻表データを解析し、列車の乗車人数を高い精度で推定。「駅や列車の利用者数」「利用者の移動時間」といった情報を出力する。各列車の混雑度合いを分析し、過去の混雑状況の再現や将来の予測も行える。

 過去のデータを基にAIで算出した将来の移動需要に「突発的な需要の増減要素」を加味することで、イベント開催日の需給バランスを事前に評価することも可能だ。既に東京地下鉄(東京メトロ)が採用。列車内と改札口の混雑状況を見える化する取り組みに生かしている。

 AIの課題も見え隠れする。AIは製造や金融、小売りといった幅広い分野で業務の効率化に活用されている一方、予想外の問題を引き起こすリスクに責任を持ち、安全で信頼できると保証する対応が求められている。

 例えばAI自動運転で起きた交通事故やAI分析による人権侵害などの責任はどこにあるのか、兵器化される恐れはないのかなど、さまざまな問題も浮上している。

 日本IBMが6月に発表したAI倫理に関する調査リポートでは、AIの倫理面での課題について7割の企業が対応を重要視している一方、実践しているのは2割未満にとどまっていた。

 AI倫理に責任を持つのは、非技術系の経営幹部が80%を占め、18年の前回調査の15%から急上昇した。多くの企業がAI倫理に賛同はするものの、実際の行動が遅れているという現状も浮き彫りになっている。

 IT専門調査会社のIDCによると、昨年のAIシステムの国内市場規模は前年比47.9%増の1579億円に急拡大。コロナ禍でもAIへの投資熱は旺盛だったことを裏付けた。今年も前年比34.1%増の2119億円と堅調な伸びが予測され、25年の市場規模は4909億円に上ると見込まれている。

 もはや社会に欠かせなくなったAI。IT各社の開発技術の見せ所でもあり、動向に目が離せない。