2022.10.07 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<105> アジャイルによるDX推進者の早期戦力化⑦

 「アウェー(away)」という単語は、形容詞では「離れた所に」といった意味があり、スポーツなどでは「遠征の」という意味で使われる。そこから派生し「敵地」と表現することも多い。

 対義語は「ホーム(home)」で、サッカーなどで公平を期すために対戦するチーム同士がそれぞれの本拠地で戦う「ホーム・アンド・アウェー方式」という表現を聞いた人も多いだろう。

 アウェーはそのほかにも、日本語俗語辞書によると「場違いなこと」という意味でも使われることがあるようだ。2005年のTVドラマ「電車男」で使われた若者言葉から普及したらしい。

 筆者も、さすがに知らぬ土地の商工会議所の集まりや若いベンチャー企業らの会合にポツンと一人参加した際には、「アウェー感」を禁じ得ない。

 さてワイヤレスIoTや5Gに詳しい無線技術者がデジタルトランスフォーメーション(DX)推進チームメンバーの一人として任命されたときも、同じようなアウェー感にさいなまれるに違いない。

 周りには、有線制御を第一とするロボットや設備監視、プロセス制御の現場技術者をはじめ、無線技術とは無縁のデータサイエンスやディープラーニングなどの人工知能(AI)をなりわいとする若いメンバーたちばかりで「完全アウェー状態」だ。

〝試行〟してみる 

 連載100回でも取り上げたコロンビア大学のW・ウォーナー・バーク博士が「ラーニングアジリティー(学習の俊敏性)とモチベーション(動機付け)がどのように変化を促進するか」という講演で、新しい状況に入って何をすべきか分からない場合の姿勢について「要は〝試行〟してみること。失敗のリスクを恐れない意欲がモチベーションとなる」と自問自答している。

 さらに〝試行〟の際に必要なのは「周りに〝フィードバック〟を求めることだ」とし、「たとえ返ってくる言葉が自尊心を傷つけるかもしれないと思っても相手と対話していく意欲が必要」と述べている。

 筆者にも苦い経験が山ほどある。Wi-Fiが海の物とも山の物とも知れず、まだ携帯電話に標準実装されていない当時のことだ。新たに参画したキャリア系の会合で「Wi-Fiは将来、3G回線のオフロード(負荷を軽減する代替回線)となる」と参画メンバーらに問うたことがあった。その結果、「ばかなことを言うな。Wi-Fiは家庭用だ」という言葉が返ってきたことをよく覚えている。

 バーク博士は次のように続ける。

 「ラーニングアジリティーに求められるのは〝柔軟性〟と〝スピード〟を身につけアイデアを素早く試行すること。もし失敗した場合は憂鬱(ゆううつ)にならず、すぐに別のアイデアを試行してみることだ」と。

 つまり、完全にアウェーな状態では柔軟性とスピードが肝要ということだろう。例えば、DX推進チームにおいて「マイクロ波」や「ミリ波」といった無線技術用語が通じない場合は、すぐに電波の図を描いて説明してみるといいだろう。それでも分かってもらえない場合は、メンバーらの得意なデータの話に切り替えてみよう。

5Gの必要性

 これまでも、工場などの現場のデジタル化をどのように進めていくのがよいか取り上げてきた。有線ケーブルが届かない設備の高精細な映像データを活用するには、大容量のデータを無線で伝送する必要がある。そのためには、小さなアンテナによる超高速&セキュアな無線通信である5Gが必要になることは言うまでもない。

 フリスの公式やシャノンの定理を教えなくても、5Gの必要性について理解を得やすい上、メンバーを味方に引き込むことができるはずだ。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉