2022.10.14 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<106> アジャイルによるDX推進者の早期戦力化⑧
筆者の父は大のプロレスファンだった。プロレスのテレビ放映がある日には決まって朝からソワソワしていた。帰宅後、いつもより早く夕食をすませた父は放映時刻になると、まるでリングサイドにいるようにテレビの前に陣取り、レスラーと同じように腕を振り回して試合を応援していたことを覚えている。
小学校に入ったばかりの筆者も父の腕の可動域を避けて、一緒に応援していた。当然の流れでプロレスファンになったが、中でも先日79歳で亡くなったアントニオ猪木氏が特に好きだった。
ほかのレスラーとは異次元の俊敏な動きと燃えるような闘魂、加えて「コブラツイスト」「卍(まんじ)固め」「延髄斬り」といった切れの良い必殺技には、子どもながらにしびれた。そういうリング上の勇姿を知らない人たちも「元気ですか-!」「1、2、3、ダーッ!」という掛け声は聞いたことがあるだろう。
猪木氏は多くの名言を残している。その中に、アジャイルなデジタルトランスフォーメーション(DX)推進チームにピッタリの「馬鹿(ばか)になれ、とことん馬鹿になれ、恥をかけ、とことん恥をかけ、かいてかいて恥かいて、裸になったら見えてくる 本当の自分が見えてくる」がある。
この〝馬鹿になれ、恥をかけ〟というのは、「失敗したらどうしよう、恥をかいたらどうしよう」と思って、新たなアイデアを試行することを躊躇(ちゅうちょ)したり、周囲からネガティブなフィードバックが戻ってくることを恐れたりすることをやめろという意味だ。
試行錯誤し解決
DXは、今までのスキルで解決できなかった課題を、ワイヤレスIoTと5Gによるデータ収集・転送、データサイエンス、人工知能(AI)によるデータ分析を組み合わせ、試行錯誤しながら解決しようというものになる。
要求仕様書に従って、黙々と開発する従来のウオーターフォール型のITシステム開発とはまったく異なる。今まではウオーターフォール型の開発がクールでカッコイイことだと思っていたかもしれないが、これからは馬鹿になり、恥をかき、自分をさらけ出すことができたときに初めて、DXに必要となる自分の本当のスキルが見えてくると考えている。
もし、自分が保有するスキルがDX推進に不可欠なものであれば、チームメンバーの理解と協力を得られるよう、分かりやすく説明し、経営者をはじめ周りの人たちをどんどん巻き込んでいってほしい。仮に、未熟だったり不足していたりするものがあれば、猛勉強してスキルアップすることも必要になるだろうし、ほかに協力を求めるケースも出てくるはずだ。何をするにも柔軟かつスピーディーに対応しよう。
以前にも述べたが〝DX時代の無線技術者〟には、現場の課題解決に有効なデータを見極め高速かつセキュアに扱っていくために、データサイエンスやAIの入門知識も必要だ。逆に〝DX時代のデータサイエンティスト〟には、大量のデータを高速で安全に伝送するためのワイヤレスIoTや5Gの入門知識も必要となる。
共通語の習得
それは、DX推進チーム全体が多能工として機能するためのコラボレーション(協働)に必要な共通語の習得とも言える。つまり、必殺技〝ローカル5G〟を繰り出すためには、全員が同じリングに上がっていなければならないというわけだ。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉