2022.11.11 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<110> 信長は来たのか? デジタル変革の行方③

 この3年間、業績が思わしくないと〝あるモノ〟のせいにしている。「テレワークだから」「対面でコミュニケーションできないから」と言って新型コロナウイルスのせいにしている。本質的な原因がほかにあっても、コロナのせいにすれば許される風潮になっているのかもしれない。それは筆者も同じだ。

 町工場やオフィス、店舗、病院、学校などの自営網(プライベートネットワーク)が超高速かつワイヤレス化され、街全体がデジタルトランスフォーメーション(DX)でにぎわう--。そのようなニューノーマルの時代がくるのは、もう少し先の話だろう。

 本連載タイトルにあるように「5Gがくる」と言ったものの、まだ社会を変革させるほどの「ローカル5G」が来ていないのも、思わず「コロナのせい」と言ってしまいたくなる。

 しかし、このような言い訳を、あの織田信長ならどう聞くだろうかと考えた。あくまで推測だが、信長は聞く耳を持たぬどころか、激高するに違いない。そういう畏怖の念を抱きながら、筆者は岐阜城の急な階段を上り切り、光が差す信長の間に足を踏み入れた。

 その瞬間「人城を頼らば城人を捨てん(人は城を頼りにするが、城は人のために何かしてくれるわけではない)」という雄々しい言葉が脳裏をかすめた。「いくら立派な城でも、城にこもっていては戦さには勝てない。城の能力を生かすも殺すも人次第」という信長の名言の一つだ。

高度な自営網構築

 ここでいう「城」は、5Gの世界では「ローカル5Gによる自営網」のことだと直感した。ローカル5Gを導入すれば、ユーザー側のデータやアプリケーションなどの状況に合わせながら、超高速、超高信頼・低遅延、多数同時接続といった高度な自営網を構築できる。

 企業にとっては、自己の建物や土地に城を築くようなものだ。その自分の城ともいえるローカル5G自営網の能力を生かすも殺すも、人次第だということになる。

 さて、この場合の「人」とは誰を指すのだろうか--。

 頭に浮かぶのが、信長のもう一つの名言「人を用ふる者は、能否を採択すべし、何ぞ新故を論ぜん(家臣は才能で選ぶべきで、奉公年数ではない)」。

 今でいうプロジェクトマネジメントのパイオニアでもある信長は、戦や築城ごとに年功序列ではなく能力の有無を基に人選し、最適なチームを編成したという。

 信長の言動にならえば、ユーザー企業が構築しようとするローカル5G自営網の能力を最大限に生かすには、「まず、チームにユーザー個別のビジネス課題を理解している人がいなければならない」ということだろう。

選抜チームを編成

 その上でビジネス課題をサイバー空間で解決するデータサイエンスをはじめ、ワイヤレスIoTや人工知能(AI)といったデジタル技術を活用したビジネス変革ができる人たちを選抜しチームを編成していくことになるはずだ。強いチームづくりのためには、本連載で学んできたDXリテラシーの知識と考え方が基礎となる。

 コロナ禍での学びは決して無駄ではなかった。そして信長は「今後、ユーザー企業の中にDX人財を育成しなければローカル5Gは来ないぞ」と示唆しているようにも思える。

 信長の間は濃尾平野を見渡せる回廊に囲まれていた。蜿蜒(えんえん)屈曲して流れる長良川が、来るべきニューノーマル時代への道筋を示しているように見えた。(おわり)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師。DXビジネス変革コミュニティ共同代表・竹井俊文氏〉

 ◆2020年6月19日付からスタートした「5Gがくる」は、今回(第110回)をもって連載終了となります。約2年5カ月にわたり、ご愛読いただきありがとうございました。筆者への問い合わせは dxstaff@dxcom.bizまで