2023.01.18 【情報通信総合特集】情報サービス各社の23年展望 DX実践事例を増やす SDGsにも注目集まる

デジタル技術を活用した働き方改革を支援する動きも活発化

 情報サービス各社は2023年、クラウドやIoT、人工知能(AI)といった最新のデジタル技術を使ったデジタルトランスフォーメーション(DX)の実践事例を増やしていく。DXがはやり言葉のようになる中、この一年は本当のデジタル化について模索してきた企業が多い。産業、流通、金融、官公庁問わず、現状からの脱却が急務で、SDGs(持続可能な開発目標)を実現していく投資にも目が向き始めている。電波新聞社が行った主要情報サービス各社のトップインタビューでも、デジタル化の支援を軸にした展開を掲げるところが目立った。

 情報サービス関連市場は、部材不足やインフレなど市場環境に不透明感はあるもののDXを切り口にした投資がけん引し成長していきそうだ。各社のトップインタビューでも足元の受注は堅調に積み上がっているところが多い。コロナ禍も4年目に入り、デジタル化を推進していく流れはさらに加速していくとみられる。

 特にこの一年はDXの実践に目を向けるところが増加。デジタル技術の活用を目的にするのではなく、どのようにビジネスを変革していくかを課題視するようになった。

 情報サービス各社もデジタル技術の構築支援ではなく、成果を出せるところまで支援する動きが出てきた。情報サービス各社自身もDX化に取り組み、その成果を横展開する流れを作ろうとしている企業も目立つ。

 既存システムのクラウド化も継続した課題になっている。システム環境に応じたクラウドサービスの導入支援は各社の腕の見せどころだ。円安の影響などもありクラウドサービスの価格は割高になるケースも増えているため、より適所でのクラウド支援が今年は求められている。

 セキュリティーも大きな課題になってきた。セキュリティーなくしてデジタル化はできないため、セキュリティー対応を合わせて行うところが増えている。さらに今年は電子帳簿保存法やインボイス制度への対応もあることから、システム更新や導入に向けて追い風が吹く。各社は対応サービスの展開を加速させる。

 最近はSDGsの観点から「サステナビリティー(持続可能性)」や「カーボンニュートラル」に取り組む企業が増えている。情報サービス各社もこれらをキーワードに掲げ、自社での対応と顧客支援の両面で取り組むところも出てきた。23年はデジタルとサステナビリティーを前面に、具体的な実践事例が増えそうだ。

各社の23年の重点施策 DX軸に課題解決支援を強化

 各社の23年の重点施策を見ると、現場のデジタル化、働き方改革、セキュリティー、サステナビリティー、デジタルマーケティングなど、DXを軸に課題解決の支援を強化している。

 現場のデジタル化では、NECプラットフォームズが自社工場のスマートファクトリー化を推進しながら品質の高い製品生産を実現しつつあり、ここでのノウハウの展開を始めようとしている。

 生産現場のデジタル化では日立システムズや東芝デジタルソリューションズが提案を本格化。部分最適のDXから全体最適のDX支援を始めている。NECネッツエスアイはローカル5Gを活用した現場のスマート化に取り組む。

 パッケージ製品をクラウド化する動きも活発だ。三菱電機ITソリューションズは自社パッケージをクラウド化し、保険や介護向けのサービスを発売していく。

 日立ソリューションズ西日本も自社パッケージのクラウド化を進めており、サービス事業として展開しようとしている。

 社内DXに取り組むところも多い。NECフィールディングは社内DXを加速しており、量子アニーリング技術を使い部品配送業務の効率化を図っている。サポート系企業ではAIを活用した保守員の自動配備支援に取り組むところが増えている。大塚商会はAIを使った営業支援の仕組みを構築し、成果につなげている。

 独SAPのシステム更新案件も増えてきた。SAPのERPシステムのサポートが終了することを受け、システム更新を進める必要がある。サポート延長も発表されているものの、順次システム更新を検討する必要があり、情報サービス各社はSAP対応を施策に掲げるところが多い。NECソリューションイノベータは専門部署を置いて支援を始めている。

働き方改革

 働き方改革の支援も次のステップに入ろうとしている。コロナ禍での在宅勤務やテレワークの取り組みは、より生産性の高い働き方を実現していく方向に向かい始めた。単に在宅勤務をするのではなく、在宅と出社を組み合わせたハイブリッド型の働き方を支援することが急務になっている。オフィス環境の再構築を検討する企業も増えてきた。

 内田洋行は昨年、在宅とテレワークを併用したハイブリッドワークを提唱し支援してきた。今年はテレワーク時だけでなく、出社時にコラボレーション(協働)しやすいオフィス環境として「チーム・ベース」を打ち出した。チームワークしやすいオフィスを作ることで生産性をさらに高めていく考えだ。

 マイクロソフト「チームズ」を活用する企業が増えているが、実際のコミュニケーションで課題を抱えているところも多い。日立ソリューションズ・クリエイトは、チームズをそのまま活用できる仮想オフィスの外販を本格化し、既に受注につなげている。この先は仮想オフィスにとどまらず、出社時に効率よくコミュニケーションが取れるような提案も行っていく。

セキュリティー

 セキュリティー対応も急務だ。セキュリティーを組み合わせた提案に取り組む企業も増えてきている。グローバルでセキュリティー支援体制を持つ日立システムズは、セキュリティー対応を迅速に行えるCSIRT(シーサート)を事業部門ごとに設置した。SOC(セキュリティー運用センター)に従事できる人財も大幅に増強するという。

 東芝ITサービスはセキュリティーとシステム運用支援をセットにして提案を開始。SOCも移転増強し、セキュリティー支援を前面に出していく計画だ。NECネクサソリューションズではセキュリティー関連の引き合いが急増しており、セキュリティーとセットにしたソリューション支援を進めている。

 コロナ禍で変わりつつある顧客との接点の持ち方を見直す動きもある。

 この数年はカスタマーエクスペリエンス(CX、顧客経験価値)を向上させる取り組みが加速。CXを掲げる企業も増えてきた。コンタクトセンターサービスを手掛ける富士通コミュニケーションサービスは、CXを前面に出し、顧客接点の改善を支援する。この一年で情報サービス各社でもデジタルマーケティングに取り組む企業が増え、日立ソリューションズグループなど成果を上げているところも現れた。

サステナビリティー

 サステナビリティーをキーワードにした取り組みも進んでいる。日立ソリューションズは、サステナビリティートランスフォーメーション(SX)を掲げ、サステナビリティーを実現する新規ソリューション開発にも着手している。

 カーボンニュートラルへの取り組みでは日立システムズがグリーントランスフォーメーション(GX)で社内実証の成果を外販。多くの引き合いが来ている。OKIクロステックはエネルギー管理システムなどの構築と保守の経験を生かし、電力の需給調整システムの領域に向けても展開を本格化している。

 新たな取り組みも始まった。日本事務器はDXを切り口に学習支援や漁業活動支援などを開始。アイティフォーは、九州工業大学とブロックチェーンを活用した電子証明書交付の実証実験を進めており、ブロックチェーン技術を使った新サービスの商用化を図る。ヘルスケアではNECソリューションイノベータが健康経営の支援を加速。23年は顧客とともに進めるDX支援の事例がさらに増えるとみられる。