2023.03.02 【コネクター技術特集】スマートテキスタイル対応コネクターで持続可能な社会を 日本航空電子工業

【図1】

市場・開発背景

 超高齢化社会でも持続可能な社会を実現するための技術革新として、予防医療へのウエアラブル機器活用が期待される中、導電繊維を用いたスマートテキスタイル製品の研究開発と商業化が進んでいる。

 導電繊維を用いた衣服型スマートテキスタイル機器は、スマートウオッチでは実現できない高精度なバイタル情報のセンシング、高精度な人体モーションセンシングやEMS(電気的筋肉刺激装置)機器のような人体の複数部位に電気刺激を与えるようなウエアラブル機器への適用が進んでいる。

 既に商業化されている衣服型EMS機器は生活習慣病予防となり、一次予防医療に大きく貢献している。

 人体モーションセンシングは、二次予防(早期発見)における認知症の早期発見や、三次予防(回復)におけるリハビリテーションの自立支援用途などへの応用が期待されている。

 ウエアラブル機器の活用により健康寿命が延伸されれば、超高齢化社会における労働人口減少問題の解決手段となり、持続可能な社会、経済発展の実現に貢献できる。

 衣服型スマートテキスタイル機器では、電子回路部を衣服に着脱可能なモジュール構造にすることで、モジュールを取り外した状態で衣服を洗濯できる構造が多く用いられ、衣服側の導電繊維と電気的に接続し、かつモジュールと容易に着脱可能なインターフェース用途のコネクターが必要となる。

 「RK01シリーズ」は、コネクター業界で初めて導電繊維向けに開発されたスマートテキスタイル対応コネクターであり、既存のスマートテキスタイル製品の顕在的課題と潜在的課題を解決した接続ソリューションだ(図1)。

解決すべき三つの課題

 一つ目の課題:洗濯対応

 衣服型スマートテキスタイル機器は家庭用洗濯機で丸洗いが必須となるが、アパレル分野と異業種であった電子部品であるコネクターは洗濯を前提に設計されておらず、顕在化した大きな課題となっていた。

 アパレル製品は家庭用洗濯機の洗濯試験方法が、JISおよびISOで規定されている。

 従来、コネクターの電気接点は導電性と機械的特性に優れた銅合金を精密プレス金型で加工し、金めっきなどの表面処理に加え、薄いめっき表面にできるピンホールからの酸化・腐食を防止するための封孔処理、摺動(しょうどう)特性を良化させるためのルブリカント塗布などさまざまな工程を経て製作され、長期接触信頼性を満足する高精度な寸法維持と高い耐腐食性を備え、低抵抗で安定した電気接点を提供している。

 これらの工程をコネクターメーカー視点で検証・見直しを行い、当社が保有する接触信頼性技術・材料技術・表面処理技術・接触評価技術に加え、フィールドで蓄積してきた多くのノウハウを活用し、洗濯しても特性変化が少なく、ルブリカントなどを用いることなく良好な摺動特性を備えたユニークな電気接点をスマートテキスタイル向けコネクター向けに開発した。

 従来品として流通しているコネクターを洗濯しても、「使えた」「使える」という事例はあるかもしれないが、それは必然的に使えたわけでなく、長期的な接続信頼性まで考慮した場合に品質が保証されているわけではないため、当社が洗濯を前提として開発したRK01が業界初の洗濯可能なコネクターとなった。

 二つ目の課題:多極化と接続品質

 ノルディックスキー競技で心拍数を計測するために古くから商品化されているハートレート(HR)ストラップやシャツなどには、服飾用に流通している金属性のスナップボタンが採用されていることが多いが、予防医療に向けて高機能化されるスマートテキスタイル製品への適用においては潜在的な課題として、信号極数の多極化と接続品質の課題を抱えていた。

 HRシャツの構造を概説すると、衣服を着衣するだけで所望の計測位置に配置される二つの電極と、この電極からデータ送信用のトランスミッター(モジュール)取り付け位置までを導電糸、導電インク、導電樹脂などのフレキシブルな導電部材により中継配線している。

 トランスミッターと導電配線を電気的に接続、かつ着脱可能とする部品として、一般の服飾用の金属性スナップボタンが用いられていることが多く、シャツ側のボタンは導電部材にカシメ接続または導電接着剤で接着、トランスミッター側のボタンは基板にはんだ付けされている。

 これらの衣服型ウエアラブル機器にも使われている服飾用スナップボタンはアパレル製品に広く普及しており、操作性の認知度も高く、ユーザビリティーに優れている半面、高機能化された衣服型ウエアラブル機器の用途において複数の電極、またはセンサーが必要となった場合の多極化対応において、モジュールサイズの大型化、操作性、量産性に潜在的な課題を抱えていた。

 また、服飾用スナップボタンは電気接点を備えたコネクターとしての用途は想定されておらず、より高いレベルの信号品質を求める機器における接続安定性にも課題があった。

 RK01は当社独自のフローティング構造と接触信頼性技術により小型化と容易な操作性を実現し、さらに高いレベルの信号品質にも対応した多極のスナップボタンタイプのコネクターとして開発した。

 服飾用スナップボタンを用いた衣服型ウエアラブル機器において、スナップボタンは図2に示すように衣服とトランスミッターにそれぞれ固定されるが、個々のスナップボタンのピッチ寸法には、製造上管理される公差分の位置ズレが生じるため、2極のボタンを一括して留めることはできず、1極ずつ順番に留める(※1)必要があるが、2~3極の機器で使用する分には作業性としてさほど大きな負担ではなく、衣服の中でボタンが占める実装面積も許容されるレベルと考えられる。
 (※1:位置ズレはピッチが十分大きければ、衣服生地の伸縮またはシワになることで吸収する)

【図2】

 しかし、図3に示すように、6極で従来のスナップボタンを配列した場合、ボタン留め操作を6回行わなければならないため、操作性が著しく低下するだけではなく、各ボタン間の位置ズレを吸収するには、スナップボタン間のピッチ寸法を十分大きく確保する必要が生じ、多極にすればするほどモジュール装着部の占有面積は容易に大きくなってしまう潜在的課題を抱えていた。(※2)
 (※2:ピッチ寸法の最小化にも操作性の制約があり、図3のピッチ4と5を使用者の指よりも広くしなければさらに操作が困難となり、ピッチ寸法を小さくすることは困難)

【図3】

 RK01は、レセプタクルコンタクトを表面実装部品化し、さらにフローティング機能を付与することで小型化、操作性、量産性の課題を克服するとともに、振動・衝撃にも強い接続品質を実現した。

 図4に示す衣服型ウエアラブル機器に用いられている服飾用スナップボタンの構造例では、多極レイアウトにした場合、ピッチ寸法の位置ズレを吸収できないため、図3に示すピッチ寸法を十分大きく設定し、ボタン間の布生地を伸縮させながらボタン自体を動かさないとボタン留めすることができない。

 一方、RK01のレセプタクルコンタクトは、プレス加工により板ばね部および外郭部を、条鋼材から一体構造で成形され、さらに板ばねを立体構造にすることで接触点を維持したままねじり回動が可能となっており、プラグ中心のX、Y方向位置ズレを吸収することができるフローティング構造を採用した。

 フローティング機能により位置ズレを吸収可能とした結果、図5に示すようにピッチ寸法を最小化して密集した多極レイアウトが可能となり、多極仕様での小型化を実現するとともに、衣服側に実装される複数のプラグ(ピン)コンタクトをリジッドな絶縁部材であるインシュレーターに固定、プラグコネクターとして一体化することで、多極化してもコネクターの着脱操作はワンアクションで行え、高齢者や全てのエンドユーザーにとって直感的な操作方法で容易に扱える製品だ。

【図4】
【図5】

 一般にコネクターの接続信頼性は、接続を「変化させない」「途切れさせない」「減衰させない」ことが重要であり、プラグとレセプタクル間に発生する接触抵抗の安定化が求められ、材料の機械的特性、電気的特性を考慮した設計および品質管理により実現する。

 図6に50Gの衝撃を加えた時の、RK01と市販のHRシャツに実装されていたボタンコネクターの接触抵抗値(プラグコンタクトとレセプタクルコンタクト間の接点における接触抵抗値)の、簡易的な比較評価結果を示す。

 RK01は衝撃試験条件下でも、ほとんど変化なく接触を維持しているのに対して、参考比較したボタンコネクターには接触抵抗値の乱れが生じている。

 衣服型ウエアラブル機器が多様化、高度化するために、現状よりも高いレベルの信号品質が求められることは必定であり、RK01はその実現に貢献できる。

【図6】

 三つ目の課題:量産性の課題

 コネクターとは機器を大量に安定した品質で生産するための手段であり、将来的にスマートテキスタイル製品の課題となる大量生産性の課題についても考慮した。

 スマートテキスタイルとIoTの活用による新たな市場が形成、拡大する中にあって、電子機器は安定した品質で大量生産することが求められる。

 レセプタクルコンタクトは電子回路基板の製造工程で標準的に用いられる表面実装に対応しており、汎用(はんよう)設備を用いた自動実装で安定した品質での大量生産が可能だ。

 衣服側コネクターは、多様な導電繊維、要求極数に対応するため、インシュレーター部品を顧客ごとにカスタム開発し、汎用のプラグコンタクトと組み合わせたセミカスタム製品とし、各部品をセット販売し、顧客の工程で組み立てを行うキット販売にすることで多品種小ロットの多種多様な機器にも最適化された製品を柔軟に提供している。

 図7に衣服側プラグコネクターの組み立て工程概略図を示す。

 Tインシュレーターはプラグコンタクトのロケーターとなっており、組み込むだけで高い位置精度で整列する。

 次にBインシュレーターをTインシュレーターとはめ合い係合し、ヒートプレスで熱カシメすることでインシュレーター同士が機械的に固定されるのと同時に、多極のプラグコンタクトと導電繊維配線の一括圧入結線ができる構造となっており、誰でも安定した品質で大量生産できる組み立てコンセプトとなっている。

【図7】

 RK01は大量生産を前提とした構造を採用し、スマートテキスタイル市場の成長に伴って課題となる安定品質で大量生産するための手段を備え、将来的に生産ロットが大幅に増大しても同じ品質の製品を継続して使い続けることができ、品質変化点なく長く使用できる。

 これら三つの課題解決手段を提供するRK01シリーズを使ったスマートテキスタイル製品が予防医療分野で活用されることで、超高齢化社会でも持続可能な社会・経済の実現に貢献する。〈日本航空電子工業(株)〉