2023.08.03 【コンデンサー技術特集】小形リチウムイオン二次電池の最新技術動向 ニチコン
【写真1】小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」
■小形リチウムイオン二次電池の概要
小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」(写真1)は、2019年の市場投入以来、累計で5000万個以上を出荷する小形二次電池市場におけるベストセラー製品である。負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用した革新的な技術により、電気二重層キャパシタ(EDLC)やリチウムイオンキャパシタ(LIC)に迫る高い入出力密度を実現。20Cレート(※)の急速充放電が可能であり、高レートで数万サイクルもの充放電を繰り返しても容量劣化が小さい優れた耐久性を有するとともに、-30℃の極寒環境下においても動作が可能な低温特性を示す。安全性においても一般的なリチウムイオン二次電池で短絡や劣化の原因となるリチウム金属の析出が発生しにくいことから、発煙・発火の危険性が極めて低い安全な蓄電デバイスである。
このように、「SLBシリーズ」は、高い入出力密度、耐久性、低温特性、および安全性を実現しており、環境センサーをはじめとする、エネルギーハーベスティングと組み合わせた各種IoTエッジデバイス用の電源として最適なリチウムイオン二次電池である。
※Cレートは電池容量(公称容量)に対する充電または放電電流値の比率のこと。
例)1C:1時間で充電または放電できる電流値。0.5C:2時間で充電または放電できる電流値。
■製品ラインアップ、優れた放電特性
現行の製品ラインアップは、最小サイズとして直径3mm、長さ7mmで公称容量0.35mAhの製品から、最大サイズとして直径12.5mm、長さ40mmで公称容量150mAhの製品まで、計五つのサイズをそろえる。一部サイズでは横置き可能な端子のLフォーミング加工にも対応、基板実装設計における選択肢を増やした。これら多様な製品ラインアップと優れた放電特性を組み合わせることで、例えばIoTエッジデバイス用電源として使用するケースでは、BLE通信からLoRaWANやLTE-MをはじめとするLPWA規格に相当する通信時の電流負荷までカバーすることが可能。
図1に、直径4mm、長さ25.5mmで公称容量4mAhの製品のCレート特性を一例として紹介する。一般的なリチウムイオン二次電池の場合、低レート充電(例:0.5Cレート)、中レート放電(例:1Cレート)での使用例があるが、「SLBシリーズ」では充電/放電ともに20Cレートに達する高レートでの急速充放電が可能という優れた特長がある。
図2に、直径4mm、長さ25.5mmで公称容量4mAhの製品の温度特性(1Cレート)を紹介する。一般的なリチウムイオン二次電池の場合、低温環境下ではリチウム金属析出の懸念から充電可能な下限温度を-20℃付近までに制限する事例が多いが、「SLBシリーズ」は負極にチタン酸リチウムを採用することで、-30℃の極低温環境でも安全に充電/放電が可能で、なおかつ実用的な充放電容量を有することがわかる。
このように、「SLBシリーズ」は優れたCレート特性と温度特性により、低温環境下で使用される環境温度センサーやCO₂センサーといったアプリケーションにおいて、メインバッテリーとして採用されている。また、大容量のメインバッテリーを備えても極低温時に出力が不足する問題に対して、電源出力をアシストするパワーブースト用途においても採用事例がある。
■エネルギーハーベスティングとの組み合わせに最適な極低レート充電特性
エネルギーハーベスティングとは、太陽光や室内光、熱(廃熱や体温等)、振動、電磁波などのエネルギーを電気エネルギーに変換して利用する技術であり、得られる電力は小さいものの、省電力デバイスの普及と性能向上によって使用可能なアプリケーションが拡大しており、近年の環境意識の高まりとともに注目されるようになってきた。「SLBシリーズ」は、前述の高レート充放電特性に加えて、極低レートでの充電においても効率よく蓄電できる特長を有する。
図3に、直径3mm、長さ7mmで公称容量0.35mAhの製品において、極低レート充電した際の充電カーブの一部抜粋を示す。温度25℃、1/3500 Cレート(100nA)という極低レート充電でも約90%の高効率で蓄電が可能であり、エネルギーハーベスタからの微弱電流蓄電に最適である。
■エネルギーハーベスティング評価ボードの販売
当社はエネルギーハーベスティングに特化した評価ボードを販売する(写真2)。この評価ボードに「SLBシリーズ」をワンタッチで取り付け(はんだ付け不要)、太陽電池などの環境発電デバイスを入力端子に接続することで、簡単に環境発電を利用した電源を構築できる。
評価ボードには、エネルギーハーベスタが生成する微弱なエネルギーを効率よく取り出すためのパワーマネジメントIC(PMIC)を内蔵しており、エネルギー収穫時の電圧・電流などの動作条件を最適化する。使用する発電素子(DC/ACに対応)の特性に合わせた動作設定が可能であり、発電環境が刻々と変化する状況下でも環境変化に追従して動作点を変え、常に最大の効率でエネルギーハーベスタが生成する電力を「SLBシリーズ」に蓄えられるように最適制御する。
電源出力は2系統。一つは「SLBシリーズ」直電圧出力、もう一つのDC/DCコンバーター出力はユーザーが任意に電圧設定可能(3V~5Vの範囲内)。アプリケーションで使用する回路に必要とする電源仕様に合わせて最適な出力端子を選択できる。
<評価ボードの主な仕様>
▷環境発電素子接続端子:1系統
DC/AC切替式 入力電圧範囲…DC:4.5V以下/AC:±4.5Vpeak以下
▷電源出力端子:2系統
(1)SLB直電圧出力(2.8V~1.8V)
(2)DC/DCコンバータ出力(出荷時電圧設定:3.3V)
抵抗の付け替えにより3.0V~5.0Vの範囲で任意設定可能
▷最大電力点追跡(MPPT)機能(スイッチ切替式)
動作電圧…7モードの解放電圧比プリセット+入力インピーダンス調整モード
サンプリング時間・周期…プリセット4モード
▷SLB充放電制御閾値電圧設定(スイッチ切替式)
プリセット2モード+カスタム設定モード
▷出力回路イネーブル設定(スイッチ切替式)
4モード(常時ON/PMIC制御/外部制御/常時OFF)
▷高温時充放電停止回路内蔵
▷外部制御端子
▷必要機能に合わせて消費電力カスタマイズが可能な回路構成
▷「SLBシリーズ」のワンタッチ着脱が可能(はんだ付け不要)
▷製品寸法 90mm×70mm×12mm
■太陽光発電+評価ボード+「SLBシリーズ」での大電流パルス放電特性
「SLBシリーズ」は瞬時に大電流を放出するパルス放電特性にも優れる。図4に新規販売するエネルギーハーベスティング評価ボードと太陽光発電パネル、および直径3mm、長さ7mmの公称容量0.35mAh品を組み合わせ、パネルから生成される小さなエネルギーを収集してSLBシリーズを充電しながら、電源出力端子に接続した電子負荷装置で大電流間欠放電(電流値35mA、パルス幅0.5s、休止5s)を行った際の電圧変化を示す。約100Cレート相当の大電流パルス放電でありながら、大きな電圧ドロップは発生せず、終止電圧の1.8Vに到達するまで約8分間放電可能であることがわかる(本条件では放電停止までに太陽光発電パネルから供給されたエネルギーは総放電エネルギーの約3%に相当)。
評価ボードを使用することで、カーボンニュートラルの推進に向け、使い切りの一次電池から自然界のエネルギーを電気に変換する「環境発電」と「SLBシリーズ」の組み合わせへの置き換えを簡便に検討できる。前述した通り、「SLBシリーズ」各サイズの連続最大充電電流/放電電流は20Cレートと規定しているが、放電においては短時間であれば規定電流を超える高レート放電にも対応でき、データ送信などの際に瞬間的な大電流が要求されるIoTエッジデバイスの通信モジュール用途や、電源バックアップ用途などにも使用可能である。
※本結果は性能保証をするものではありません。20Cレートを超える放電用途でのご使用を検討されます際は、弊社までお問い合わせください。
■今後について
小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」は上述の通り、優れた充放電特性と安全性において一般のリチウムイオン電池に対してアドバンテージを有する。この特長は、今後の市場拡大が見込まれるエネルギーハーベスティングと組み合わせたIoTエッジデバイスに最適であり、同市場の成長による「SLBシリーズ」の需要拡大を期待する。
また、高温度対応を要望される市場ニーズに応えるため、現在のカテゴリー温度範囲(-30~60℃)の拡大として、80℃対応品の開発を進めており、民生用途に加えて産業機器関連でも使用できる耐久性の向上により、「SLBシリーズ」の用途拡大を図っていく。
〈ニチコン(株)〉