2023.10.06 【高専生のための半導体特集】現役高専生にOBからメッセージ アルプスアルパイン 泉英男社長

いろいろな分野に挑戦し広い知識を

 高専OBである、電子部品メーカー大手、アルプスアルパインの泉英男社長に、高専時代の思い出や現在の仕事へのつながり、現役高専生へのメッセージなどを聞いた。

 -高専で学んだことや、当時の思い出などを教えてください。

 泉社長 仙台電波工業高等専門学校では、電波通信学科に在籍し、無線を含めた通信技術を学んだ。卒業研究は「光通信」だった。

 仙台電波高専は、もともと船舶の通信士の育成を目的に設立された学校で、私も入学当初は無線通信士を目指していた。だが、周りの学生たちと違い、私は入学前にアマチュア無線の経験もなく、通信の実技があまり得意でなかったことから、通信士の国家試験に興味が持てなくなり、途中から電子工学と情報工学を追加で履修することにした。結果的に、製造業への就職に適した履修内容となり、それが宮城県内に事業所があった当社への入社のきっかけとなった。

 -高専での経験が現在の業務に役立っていると感じることは。

 泉社長 高専時代は高周波、通信などを学んでいても、何のために学んでいるのか、よく分からなかった。だが、実際に会社に入り、通信の事業に関わるようになると、ようやく理論と実験が結び付くようになった。

 また、高専では、電子工学で半導体系のプロセスや物理を学び、情報工学では「フォートラン」言語などを学んだ。当時はインテルの「8085」ボードコンピューターが出始めた頃で、マシン語のプログラミング実習などを経験した。

 そうした経験によって、入社後に通信のほかにソフトウエア開発やIC開発にも関わることになった際に、あまり抵抗感なく取り組めたと思う。高専で履修の幅を通信以外にも広げたことが、逆に今の業務に役立つことになった。

 -入社後はどんな業務を担当されたのですか。

 泉社長 入社後、福島県相馬市にあった当時の通信デバイス事業部に配属されたが、その後、福島県いわき市の旧アルパインの事業所で通信機器の完成品のソフトウエア開発とデバイス開発も担当するようになった。無線の製品開発とそのソフトウエア開発を両方行っていたため、少し変わり種の存在だったと思う。

 -エレクトロニクス業界の魅力は。

 泉社長 かつての4ビットマイコン時代などと比べると、現在はスマートフォン1台で何でもできるようになった。こうした社会や人々の生活を劇的に進化させたのがエレクトロニクス。社会全体を変える力があるのが大きな魅力だと思う。

 今後、半導体の進化の速度はやや鈍化していくとされるが、一方でモビリティーの進化は革新的に進む。その進化のドライバーはエレクトロニクス。エレクトロニクス業界には大きなポテンシャルがある。

 -現役高専生へのアドバイスやエールをお願いします。

異文化との対話力

 泉社長 私が高専を卒業した1985年頃は日本経済が成長を続けており、それが半永久的に続くと思っていたが、約40年が経過し、現在は産業構造が様変わりしている。海外との技術差がだんだん縮小し、分野によっては逆に大きく引き離されている。こうした時代には国内で単独で事業を行うのは限界があり、異文化とのコミュニケーション力の重要性が増している。

 求められる技術も大きく変化していくと思うが、私自身は高専時代にいろいろな分野に携わったことで広い知識を獲得でき、それがその後に役立っている。皆さんもそうした意識を持って学生生活を送ってほしい。

【泉英男社長の略歴】

 1964年生まれ。仙台電波工業高等専門学校(現仙台高専)卒。85年4月アルプス電気(現アルプスアルパイン)入社。取締役車載新事業担当兼技術本部副本部長や執行役員デバイス事業担当などを歴任し、2023年6月23日付でアルプスアルパインの代表取締役社長兼技術担当に就任。新潟県出身。