2024.01.04 【家電流通総合特集】家電量販店展望 体験型・接客力・EC戦略がカギ
多様な商材を組み合わせたシーン提案がさらに重要に
脱コロナで消費行動に変化
物流体制の強化も必要
脱コロナで変化した消費行動は家電量販店の経営にも影響を与えている。同時進行する物価高による節約志向は、「お金の使い道」を消費者に厳選させる大きな要因にもなった。巣ごもり需要で先食いされた家電の購入を控える傾向が強まり、旅行やレジャーなどサービス関連への支出が増加。急速に立ち上がる人々の外出志向を捉えようと、非家電を組み合わせたシーン提案が店舗では進む。脱コロナ2年目を迎える今年、量販店では、環境の変化に素早く応える柔軟な商品構成や提案力など店舗を生かした対応に加え、家電購入で利用が広がるEC(電子商取引)の戦略が業績の明暗を分けそうだ。
上場する大手家電量販店5社の2024年3月期第2四半期(23年4~9月)の連結決算が出そろった昨年11月。巣ごもり需要の反動でテレビやパソコンなどの動きが低調な一方、猛暑によるエアコン販売が業績を下支えした形がはっきりと出た。3社が増収となったものの、家電市況に関してはどこも厳しさをにじませる中身だった。
「お客さまは家電以外の商材を含めて店舗で体験したいと考える傾向が強まっていると思う。こうしたお客さまの期待に応えるには接客力も問われてくる」。そう話すのは、ヤマダホールディングス(HD)の山田昇会長兼社長CEOだ。
脱コロナによる消費行動の変化で、家電以外への支出が増えている。調理家電の実演など体験型の商品提案が店舗でできるようになったプラスの側面がある一方、人々の消費行動はコロナ禍の行動制限で満足にできなかった旅行やレジャーに向くようになった。
商品を並べただけでの店舗では魅力が薄く、コロナ禍で既に欲しいものを買ってしまった消費者の購買意欲を体験によって刺激する新たな商品提案が求められる状況になっている。
量販店が、同時に強化しなければならないのが、ECにおける対応力だ。店舗で商品を体験し、ネットで購入する流れはますます加速している。スマートフォンからすぐに注文できる現在、ショールーミングとして店舗を活用し、自社のECサイトから購入してもらう流れを作ることも、量販店には求められている。
▼増える家電のEC購入
家電のEC購入率は4割を超えた--。経済産業省が昨年8月に公表した国内ECの市場規模に関する調査結果によると、家電ECの22年の市場規模は2兆5528億円と前年から3.8%増加。ECでの購入率は42%に達し、物販系の中でもEC化率が高いカテゴリーになっている。
この調査結果の中で経産省は、EC戦略を強化する量販店が「実店舗とECサイト上の販売価格の差をなくすとともに、後日配送でも差し支えない商品に関してはECサイトから購入を促す仕組みを導入している」「店内にWi-Fi環境を整備し、店内での商品撮影やSNS投稿を解禁し、むしろECに誘導することを歓迎する手法によってEC販売額を拡大させている」などと分析。
配送網の整備などの「物流力」もEC拡大の明暗を分けていると指摘した。
EC事業の拡大を目指し、量販店各社では物流体制を強化する動きも活発化した。
ヤマダHDは、ECからの注文に迅速に応えるため、1万3200~1万6500平方メートルクラスの超大型新業態店「ライフセレクト」や、ECの物流拠点としても生かしている「YAMADA web.com(ウェブコム)」など、全国展開する店舗網を活用している。
差し迫る物流の「2024年問題」に関しても「大型の物流拠点を慌てて整備する必要もない」(山田会長兼社長CEO)と自信を見せる。
エディオンも物流会社の再編を進めている。昨年10月に物流子会社ジェイトップ(名古屋市中村区)が、同じく子会社で物流事業を行うe-ロジ(広島市中区)を吸収合併した。高まるEC需要に応えるため、全国レベルでサービスを提供できるよう物流網の構築を急ぐ。
上新電機は、東京物流センターの増床や機能強化で関東エリアをカバーするとともに、関西茨木物流センターを核とする東西2拠点による物流体制で、高まるEC需要を捉えようとしている。
ビックカメラもEC事業の拡大を見据えた配送網の再構築に乗り出し、物流センター機能の再配置と新拠点の追加、保管能力の増強、倉庫内オペレーションの改善・自動化を推進している。
店舗を生かした対応力が必須に
▼問われる店舗力
経産省の国内EC市場の調査では、家電のEC化率が上がっている理由を、「食品やアパレルのようなものとは異なり、製品の仕様が明確であるため事前の調査(探索)行為を通じて内容や特徴を理解しやすい」と分析。「EC販売との親和性が高い」とし、今後もEC化率が高まると予想している。量販店各社の戦略からも今後、EC化率がますます高まることは容易に想像できる。
各社がEC戦略を加速する中、重要度を一層増すのが店舗の在り方だ。ショールーミングとしての活用だけでなく、店舗でしか味わえない体験価値の提案力が問われてくる。
リビングや寝室など部屋ごとに分けたシーンにとどまらず、アウトドアやリラックスタイムなど、人の生活や行動を軸にしたシーン提案も重要。そうした提案を実現するためには、社会のトレンドにアンテナを張り、売り場に素早く反映する実行力やアイデアが求められるとともに、家電以外の商材を組み合わせた作り込みも必要になるはずだ。シーンの中に溶けこむ家電を実際に体験できることこそ、ECにはない店舗の価値になる。
ただ、体験型の売り場を作り込むだけでは不十分とも言える。そこで重視すべきは、購買に向けて消費者の背中を押す接客力だ。
「お客さまに寄り添ったサービスを提供できるのはノジマだけだと考えている。それができればお客さまとの関係は付いてくる」。ノジマの野島亮司副社長は昨年の23年度上期決算説明会で、下期の家電市場に厳しさをにじませつつも、こう自信を見せた。
ノジマはメーカー販売員を使わない「コンサルティングセールス」で、接客に関してほかの量販店との差別化を打ち出す。
メーカー販売員は、量販店にとっても家電の「売り」を助ける存在である半面、自社製品の提案に偏りがちなのがネックにもなっている。ノジマのコンサルティングセールスは、消費者のニーズをくみ取り、メーカーの偏りがなく最適な商品を提案できることを強みとする。
ノジマに限らず、こうした接客の在り方は、ほかの量販店でも重視する傾向が強まっている。ヤマダHDの山田会長兼社長CEOは「数年前からメーカー販売員を減らすとともに、販売員の拡充や教育体制の充実など人的投資を増やしている」と明かす。
暮らし丸ごと戦略を推進するヤマダHDの店舗には、家電に加え、インテリア雑貨や家具、さらにはリフォーム商材もそろう。販売員は家電だけに詳しければよいわけではなく、家具やリフォームなども説明できる知識と提案スキルが求められるようになった。非家電商材を組み合わせたシーン提案をするコーナーがある以上、そこに並べられた商品群の使い方や、実際に自宅に設置した時の利用イメージなども説明できる接客力が、トータルで販売するためには必要になる。
ヤマダHDはEV(電気自動車)を組み合わせたスマートハウスの提案も店舗で始めている。商品が複雑に組み合わさることで問われてくるのは接客力。ヤマダHDに限らず商材の多様化が進む量販店各社にとって、販売員の接客力向上が今後、業績の明暗を分ける要因にもなりかねない。同時に店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)を生かした、売り場での販売員の負荷軽減も大切になるだろう。
店舗と接客力、そしてECを掛け合わせ、成長軌道にどう乗せるか-。今年の量販店各社には、そんな課題が突き付けられそうだ。