2024.11.01 【電源用部品技術特集】小型軽量電源トランス“GEO MACK”GMKトランスの商品技術紹介 SHT
【写真1】GMKトランス(2KVA 単層単巻き例)
家庭用PV発電中心に採用
1.はじめに
比類なき価値を備えた製品に与える当社技術ブランド“GEO MACK”を冠する電源トランス「GMKトランス」【写真1】は新しいタイプの電源トランスとして、近年家庭用蓄電型太陽光発電システム(以下、PV発電)を中心に採用されている。
従来の無方向性電磁鋼板(以下、NO材)磁心材料を積層形成する外鉄型電源トランスに代表される「EI型電源トランス」に比べて大幅な小型軽量化を実現し、かつ省待機電力および静音性に優れることに加えて、特に蓄電池を用いる回路特有の残留直流オフセット電圧による不平衡交流磁束で増大するうなり振動音を安定抑制できる好適さも奏し、引き続き継続拡大している。
今回、「GMKトランス」の商品技術について、従来電源トランスとの比較を交えつつ紹介をする。
なお、従来電源トランスの外観、形状、構造に関わる写真や構造図は、製造販売する各社HPや各種公開情報に委ねるものとする。
NCWトランスが最も近似
2.従来電源トランス
「NCWトランス」
既存の電源トランスにおいて、「GMKトランス」に最も近似するものに「NCWトランス」【写真2】がある。先行上市され、高性能な方向性電磁鋼板(以下、GO材)を用いて、コアに分割突き合わせ部を持たない外鉄型構造の電源トランスであり、GO材を用いた電源トランスの中では比較的簡素な構造で構成される。汎用(はんよう)「EI型電源トランス」に比べてGO材による低鉄損や低無負荷電力に加え、前述の磁気構成コアからのうなり振動音が少ないなど、高性能に相応な価格範囲にあることから、特殊な電源装置用途で重宝されてきた。
トランス構成は焼鈍済み巻き鉄心コア【写真3】1セット分2個を用意し、ボビンはPBTやPET樹脂等で概長方形環状とし、断面内形状は概船底型で外形状は疑似半円形状として、内形状は整列巻きが容易な直線基調の任意断面形状にしてある。これに単巻きや複巻きでコイル形成し外装絶縁を施した後に、対向両コイル軸にそれぞれ前述のコア1セットを専用コア巻き取り装置で個々に巻き込む。
原理的にうなり振動音を低減抑制するのは、コアが突き合わせ部のない構造で振動ばらつきが生じず、両対向軸コアで構成する広い断面積と短い磁路長から磁束密度が軽減され、これらで構成された磁気回路が効果を発揮している。
「EI型電源トランス」
「EI型電源トランス」(写真なし)は一般的にNO材を積層したEI形状外鉄型鉄心でJIS規格標準鉄心サイズと標準樹脂成形ボビンを用いてコイルを製作するので、主要部品が入手しやすく小規模手工業にて製作が可能で、安価に構成できることから、商用電源変換に家電機器やACアダプター等へ広く普及している。
半面、EIコア交互積層や積層枚数管理など組み立ての煩雑さや、特性では漏れ磁束が多く影響を受ける周辺部品への配慮や、磁歪(じわい)現象によるうなり振動音が大きいなどの課題が残る。
「カットコア型電源トランス」
「カットコア電源トランス」(写真なし)は磁気特性に優れるGO材で巻きコアを構成し、所望位置で切断したUU型カットコア鉄心を組み合わせて内鉄型磁気回路を構成し、樹脂成形ボビンを用いたコイルに挿入製作することで、漏れ磁束が少なく小型薄型化を実現した。
半面、コアに突き合わせ部があるので磁歪でのうなり振動音がばらつき、不平衡交流があれば振動音は顕著に表れる。
またカットコア製作には巻き取り機、焼鈍炉、ワニス含浸機、切断機などの多くの設備と、1セット2コイルにより高価格となり、多くは計測器や医療機器、高周波用途ほかに用いられる。
「Rコア型電源トランス」
「Rコア型電源トランス」(写真なし)はGO材の母材スリット加工において、あらかじめ断面形状が概円形形状となるようスリット全長に沿って任意の可変幅を持つ特殊加工のフープ材を準備し、これをロの字状コアに巻き取り、断面概円形のRコアとする。鍔(つば)部にボビン回転用機構を設けた分割式成形ボビンを2セット嵌合(かんごう)使用して2コイルを構成する。切断突き合わせ部のないコア構造から、ほかの内鉄型電源トランスに比べ漏れ磁束が少なく、磁歪振動音も抑制さればらつきも少ない。また、漏れ電流抑制が容易などの特徴を有する。
欠点は複雑な構成で、分割嵌合式成形ボビンの全4点部品で構成され、複雑構造から専用巻き線機や組み立て手作業を要するなど高価格化は避けられず、現状の用途は高級オーディオ装置や医療機器等が中心で、極めて特殊市場に限られている。
ボビンレスで小外径・軽量化
3.GMKトランスの特長
「GMKトランス」は普及が期待される蓄電池の微弱オフセット電圧が残る電源へ、優れたうなり振動音の安定抑制効果を提供するもので、前述の「NCWトランス」小型軽量、低損失の基礎技術に沿って発展進化させたものである。
「NCWトランス」を含め、ここまで紹介した全ての従来電源トランスはNO材、GO材を問わずコイル形成と絶縁構成に樹脂成型ボビンを用いる。ここで本来電源トランスは専用設計であるため、設計の理想は取り扱う電力容量に応じて専用設計されたボビンとコアを用意すべきである。
しかし実態は要求仕様に応じた専用設計ボビンとコアを用意すると、サイズごとの射出成形金型が発生し、その費用対数量、単価の点でコスト成立性が困難になることが多い。解決策としては広容量範囲を段階的に複数に標準設計したサイズの成形ボビンおよび適合するコアを準備し、その中から設計容量に近似した設計成立する少し大型方向の標準ボビンサイズとコアを選択することになる。この時ボビンは専用設計ではないので、コイルの整列巻きや高占積率化は使用する銅線径から一定の制限を受け、小型化を阻害する要因となる。
「GMKトランス」はこの点と本来電源トランスの専用設計性に着目し、より小型軽量化を目指して標準設計の成形ボビンを廃し、代わりに絶縁シートをコイルにじかに巻き付けるので従来の標準設計ボビンによる大型化が回避でき、同時に絶縁シートの薄厚と密着効果による小型化と、高熱伝導化によりコイル温度上昇の抑制ができる。巻き線はボビンレス方式を採用し、専用設計した巻き治具を用いた巻き線工法の採用により、高密度整列巻き【写真4】で高占積率化が図れる。これらによりコアの小外径化と軽量化を達成している。
【写真5】に標準サイズの樹脂成型ボビンによるコイル断面(左:複巻き例)と、巻き治具を用いた整列巻き線工法によるコイル断面(右:単巻き例)を示す。絶縁型式が異なり直接比較できないものの、同内径コアにおける銅線占積率の差は見て取れる。
なお、ギャップレスコア構造には変化なく、特長であるうなり振動音の抑制効果はそのまま堅持している。
さらなる小型軽量高効率化
4.今後の展開
PV発電やV2X、ローカルVPPなど、普及へ期待される数KVA小容量インフラ系蓄電システムには20~30年以上の長寿命が問われ、この点でスイッチング電源システムより電源トランスの方が期待される。電源トランスの弱点、大きく重く変換効率の悪さを少しでも解消すべく「GMKトランス」のさらなる小型軽量高効率化をGO材コア性能の向上や究極の高占積率化を目指し、材料プロセスや工法の革新により、新たな技術開発に挑戦していく所存である。
〈筆者=(株)SHT 技術担当・今西 恒次氏〉