デジタル変革に期待高まる

国内外の展示会が盛況

　商業印刷のデジタル化が本格化している。アナログのオフセット印刷が主流を占める商業印刷分野においても、デジタル変革に対する期待が高まっている。デジタル印刷は、オンデマンドによる多品種少量印刷、短納期が可能で、需要に柔軟に対応できる強みがある。また、印刷業界でも人手不足の問題を抱えて自動化が求められており、AI（人工知能）の活用も進む見通しだ。昨年は8年ぶりにドイツで国際印刷・メディア産業展「drupa 2024」が開催され、大きな反響を呼んだ。今月19～21日には商業印刷展「page2025」が東京で開かれ、来場者が昨年より2割増えるなど盛況だった。

　商業印刷のデジタル化の流れは世界的な潮流となっている。世界最大規模の国際印刷・メディア産業展drupa 2024が昨年5月28日～6月7日にドイツ・デュッセルドルフで行われた。リアルな開催は2016年以来8年ぶりとなり、世界50カ国・地域から1500以上の出展者がエントリー。約17万人が来場し、活気に満ちた。

　日本企業各社も、最新の製品、技術やソリューションを軸とした新たな価値提案などに力を入れた。各社はdrupa 2024を契機に、グローバルな戦略を本格化している。

　キヤノンは昨年、商業印刷分野の世界的企業である独ハイデルベルグと、商業印刷分野における枚葉インクジェット印刷機の販売に関して業務提携し、グローバル展開を加速させている。

　ハイデルベルグはオフセット印刷分野で170年以上の歴史があり、世界トップシェアを誇る枚葉オフセット印刷機を中心に、グローバルに幅広い顧客基盤を保有している。ハイデルベルグの高速・大量印刷を実現するオフセット印刷機と、キヤノンの多品種・小ロット印刷を提供するデジタル印刷機を組み合わせた提案を強化していく。

　セイコーエプソンは、デジタル印刷ソフトウエアソリューションを中心に展開する米Fieryを完全子会社化した。

　Fieryは、印刷業界向けデジタルフロントエンド（DFE）とワークフローソリューションを提供する世界的企業で、全世界で200万台以上のDFE導入の顧客ベースを持つ。Fieryのソフト、サーバー、ワークフローソリューションにより、戦略的ビジョンとハードのリーダーシップを補完し、世界市場においてデジタル印刷の成長を加速させる。

　各社は成長分野である商業印刷のデジタル化に向け、戦略を強化している。

　商業印刷のデジタル化の市場動向を、富士フイルムビジネスイノベーション（富士フイルムBI）の鈴木孝義グラフィックコミュニケーション事業本部DX事業部部長は「商業印刷業界は、人手不足などを背景に、省力化やデジタルマーケティングなどのニーズに対応するため、デジタル化へのニーズが高まっている。デジタルによる印刷工程の標準化、自動化、オンデマンドによる多品種少量、短納期の実現など、印刷業務の効率化、変革への期待が高まっている」とみる。

　富士フイルムBIは、「スマートマーケティング」「スマートオートメーション」「スマートプロダクション」の三つの「スマート」を提案し、商業印刷業界の課題に応える。スマートマーケティングでは、広告データの分析やWebサイトの分析が容易で、さらに、AIで課題解決をサポートする「Revoria Cloud Marketing」の提供を開始している。

　コニカミノルタの植村利隆上席執行役員プロフェッショナルプリント事業本部長は、デジタル印刷の優位性について「大量印刷、大量廃棄といった環境面の問題もデジタル印刷によって解決できる。また個々に合ったメッセージが可能で、印刷効果を高められる」と話す。

　同社は「創注・受注拡大支援」と「生産性向上支援」の2軸で商業印刷のDX化を推進。印刷業界のビジネス成長と収益力向上に力を注ぐ。デジタルマーケティングに対応した取り組みではクラウドサービス「Print バル」を、印刷会社の営業スタイルの変化を支援するサービスとして提供している。

　drupa 2024では、印刷の効果を高めるために独自の画像解析技術と感性脳科学を組み合わせた「EX感性」や、各種印刷用紙やPVCプラスチックなどさまざまな印刷用途に使用されるAccuriojetの品質と機能をさらに強化した最上位機「AccurioJet 60000」を初出展した。

　リコーは、商用印刷の顧客やパートナー会社との共創による印刷現場の「変革」実現に力を入れている。

　drupa 2024では、同社初のB2サイズ対応の枚葉インクジェット・プリンティング・システム「RICOH Pro Z75」や、高速連続用紙インクジェット・プリンティング・システムの新製品「RICOH Pro VC80000」を出展。反響も大きかった。