2025.05.03 「完全キャッシュレスバス」の全国展開へ弾み 国交省が実証運行で効果確認

東京都渋谷区をキャッシュレスで運行する代官山循環バス 提供:東急バス

キャッシュレス決済に対応した運賃機 提供:東急バスキャッシュレス決済に対応した運賃機 提供:東急バス

 国土交通省は、現金では運賃を支払えない「完全キャッシュレスバス」の効果を明らかにした。13都県で実施した同バスの実証運行の結果を報告書にまとめたもの。やむを得ない場合を除いて完全キャッシュレスで運行した結果、現金の利用率が運行前の平均約10%から最終的には約4%まで低下し、運転者の負担が軽減する手応えも得られた。国交省は同バスの普及に向けて利用者の理解を促したい考えで、2025年度も実証を継続する計画だ。

 今回の実証運行は、完全キャッシュレスバスの効果や課題を検証することが狙い。事情者の申請に基づいて、東急バス(東京都目黒区)や名鉄バス(名古屋市中村区)、西日本鉄道(福岡市博多区)などの18事業者29路線を選定し、24年11月から今年2月まで進めた。対象とした路線は「利用者が限定的な路線(空港・大学・企業輸送路線など)」「外国人や観光客の利用が多い観光路線」「さまざまな利用者がいる生活路線」「自動運転など他の社会実験を同時に行う路線」。総利用者数は、推計で延べ約210万人に達した。

現金利用率が低下、運転者の負担軽減も

 報告書によると、全国各地で参加事業者が完全キャッシュレスバスの実証運行が円滑に進めた。その結果、現金の利用率は実証の開始直後で約3ポイント減り、終了時には約6ポイント低下した。実証に参加したバス運転者に業務負担量の増減について尋ねたところ、「負担量が減少した」と回答した運転者の割合は徐々に増え、開始3カ月時点で30%以上となったという。

 さらに、対象路線の利用者を対象にアンケートも実施。その中で完全キャッシュレスバス導入の賛否を尋ねたところ、「進めてほしい」との回答が全体の約65%を占めた。その回答者に同バスの導入メリットを複数回答で問うと、「バス乗降がスムーズになる」(92.5%)が最も多く、これに「ドライバーの負担が軽減し、安全性が向上する」(52.5%)などが続いた。一方、同バスの導入を「進めてほしくない」「どちらともいえない」と答えた回答者を対象に理由を確認したところ、いずれも「スマートフォンの電池切れやカードの故障、アプリのエラーなどが不安」が最も多かった。

 こうした状況を踏まえて国交省は、報告書の中で「利用者から完全キャッシュレスバスの導入について一定の理解が得られている」などと総括した。その上で、引き続き利用者の理解促進に向けた周知活動に取り組み、ネットメディアやホームページなどバス乗車前に施策について知る機会を設ける必要性を強調。路線の特性に応じた対応も重視した。スマホの電池切れへの対応ついては、車内に充電設備を整える対策を検討課題と位置付けた。

経済改善効果は約86億円と推定

 国民の生活基盤を担うバスのネットワークは、減便や路線廃止が続くなど、危機的な状況に陥っている。背景には、バス運転者の不足が深刻化する問題が横たわり、事業者の9割近くが赤字を余儀なくされているのが現状だ。そうした中、現金の管理コストや運用面の負荷を低減する効果が見込まれる完全キャッシュレスバスへの期待感が高まりつつある。主要なバス事業者で完全キャッシュレスを実現した場合、経営の改善効果は1年間で約86億円に上ると推定されるという。

 今後の実証運行は、候補路線の公募や選定を経て、9月頃をめどに始める計画。国交省総合政策局参事官(交通産業)室は、バス業界が抱える課題を踏まえ、「できるだけ早期に全国での完全キャッシュレスバスの実装を実現し、バス利用者の利便性向上にもつなげていきたい」としている。