2020.09.30 【電波新聞70周年特集】製造装置/計測器コロナ禍で新たなニーズも

全自動生産の無人工場も夢ではなくなってきた(安川電機入間事業所の次世代生産工場「安川ソリューションファクトリ」)

1台でサブ6からミリ波まで各種試験に対応するアンリツの5Gテスター「MT8000A」1台でサブ6からミリ波まで各種試験に対応するアンリツの5Gテスター「MT8000A」

全自動生産の無人工場実現へ

 戦後の真空管ラジオの手作りから始まった日本の電気・電子機器製造の歴史は、70年の年月を経て、IoT技術を駆使した「スマートファクトリー」による全自動生産の時代に入ろうとしている。

 1955年(昭和30年)頃にトランジスタが登場。同じ頃にアキシャル・リード部品用自動搭載機(挿入機)が開発され、後に現在の表面実装技術(SMT=Surface Mount Technology)へと進化していく。

 FUJIは78年、パナソニックは80年、ヤマハ発動機、JUKIは87年に実装機を発売した。電気・電子機器の重要な役割を果たす電子基板の製造を大きく変えた。

 製造する製品もテレビはブラウン管から液晶へ、音楽メディアは磁気テープからディスクへ、カメラも銀塩からデジタルに変わり、さらにPC、携帯電話、スマートフォンへとデジタル製品が登場。今や市場もグローバルへと拡大し、変種変量生産へ生産形態を大きく変えた。

 戦後から始まったファクトリーオートメーション。自動化が大きく進むのは65年ごろ。ICが登場し、工作機械に組み込まれたことにより、第1世代ロボットともいわれる産業用ロボットが実用化された。

 日本は今後、ますます少子高齢化が進み、「世界の工場」を掲げてきた中国も20年後には超高齢化社会を迎えることなどから、モノづくりにロボットの活用を求める機運がますます高まる。

 IoT化が進む中で、ドイツが提唱する第4次生産革命「インダストリー4・0」に端を発して、IoTを活用した生産システムに製造業の関心が高まっている。

 日本政府が16年1月に打ち出した「Society 5・0」、米国の「インダストリアル・インターネット」、中国の「中国製造2025」などでも世界各国が取り組みを始めている。

 日本では「インダストリー4・0」を具現化するためIoT、AI(人工知能)を活用した「スマートファクトリー」の導入が始まった。

 生産ラインの装置を通信でつないで装置間でデータをやりとりすることで、段取り換えの指示、不良発生時のトレーサビリティなどを自動化して生産効率を格段に高める。

 生産フロア全体、工場全体へと拡大し、世界の工場をインターネットにつなぐことで、東京のオフィスで世界の工場の稼働状況がひと目で確認できる。

 日本の実装機各社はIoT、AIなどの技術と組み合わせ、装置と装置をつないでデジタルデータをやりとりすることで、人手を介さず装置自体が自己完結型の生産を実現する全自動生産に取り組んでいる。

 昨年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた惑星探査機「はやぶさ2」が、地球から約3億キロメートル離れた小惑星「リュウグウ」に到達し、高度なプロセスを無人でこなしながら、試料を採取する光景がテレビ映像などで紹介された。「スマートファクトリー」が目指す究極のモノづくりのイメージは、はやぶさ2に似ている。

 工場の無人化は、コスト面や雇用創出の面など議論は避けられないが、製造業の中長期的視点から、もはや「夢の工場」ではなくなってきた。

5G、IoTなど需要拡大

 電気計測器は、日本でも3月末に商用化サービスが始まった第5世代高速通信規格「5G」に代表される新技術への設備投資にけん引され、業界の活況が期待される。

 チップセット、スマートフォンなどのデバイス、ネットワーク、データセンターから基地局や中継局を結ぶ光ファイバ回線まで、測定器が必要な5G関連の領域は幅広い。

 5Gでは、従来の通信規格に比べて高い周波数帯を使用するため、高度なテストソリューションが求められる。

 特に、24ギガヘルツを超えるミリ波周波数帯ではコネクタが測定の有効性に影響を与える可能性があり、チャンバを使用したOTAテスト(無線環境でのテスト)が必要となる。

 工場など限定したエリアでネットワークを構築する「ローカル5G」での測定器需要も今後は拡大するとみられる。

 日本電気計測器工業会では、半導体や5Gに関連する通信用測定器の需要が継続するとして、電気計測器全体の19年度売上額(国内売上げと輸出)は前年度比1.3%増を見込む。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界的に移動制限やロックダウン(都市封鎖)が行われて経済が失速。通信機器大手ファーウェイに対する米政権の規制の動きなど米中貿易摩擦の深刻化もあり、不確定な要素が存在することは確かだ。

 一方、新型コロナ禍は計測器の新たな需要も呼び起こした。赤外線サーモグラフィカメラを使って非接触で体表面温度を測定し、感染症の症状の特徴である高熱の人を選別するスクリーニング用途が急拡大した。

 企業・団体のBCP(事業継続計画)対策の一環として、また、店舗やイベント会場での感染防止対策として広く普及し、今後も活用が定着するとみられる。

 5G以外にも、IoT、自動運転や電動車を含む「CASE」などの領域は、今後大きな飛躍が想定される。

 IoT分野では、現場測定器で計測した絶縁抵抗値や漏れ電流などのデータをPC、スマホに無線通信ブルートゥースで転送して作業効率の向上化や測定データの利活用が図られている。

 膨大な電子デバイスが搭載されるCASEの次世代車では、バッテリやモーター、EMCなど必要とされる試験も多い。車両性能の受託試験の広がりも予想される。新たな市場の成長に伴い、計測ソリューションのニーズ拡大が期待される。