2020.10.23 CEATEC 社会課題解決めざす提案盛んヘルスケアのアイデア目立つ
ゴレタは、園児の腰に活動量計を巻き、運動量の可視化を実現
初のオンライン開催となったIT・エレクトロニクス総合展「CEATEC」。スタートアップが集うエリアでは、大手企業が取り組めていないような社会課題の解決を目指す提案が盛んだ。コロナ禍で社会環境が激変する中、特にヘルスケア分野において斬新なアイデアを武器に成長を志すスタートアップが目立つ。一方、生物多様性データに着目する企業や、道後温泉の老舗旅館が手がけるITベンチャーなどもあり、ニューノーマル(新しい日常)時代を切り開く可能性を秘め強い光を放っている。
スタートアップが集うエリア「Co-Creation PARK」には、自動車や製造工程の自動化、ニューノーマルに合わせた非接触技術など、市場潜在性が高い分野で活躍を目指す企業が国内外から出展している。特にヘルスケアは、解決すべき社会的課題が少なくないと見るスタートアップが多い。
園児の運動量可視化
情報通信研究機構(NICT)発ベンチャーのゴレタネットワークス(東京都小金井市)は、園児の運動量を可視化する発育支援システムを提供している。黒田正博社長は「保育園や幼稚園のICT化は業務効率を上げる面ばかりで、園児の成長を支援するためのICT化が進んでいない」と指摘する。
ゴレタは活動量計を園児に取り付け、運動量と強度を数値化。WHO(世界保健機関)が推奨する子どもの運動量に達しているかをデータとして定量的に見える化し、AI(人工知能)分析もできる「さんさんキッズ」で課題解決に取り組む。6施設ほどが利用しており、来年3月には新バージョンを発売予定だ。
病児保育施設を探せる
病児保育にスポットを当てた1社がコネクテッド・インダストリーズ(CI、東京都中央区)。子どもが風邪にかかるなど病気の際に利用される病児保育は、共働き世帯にとって欠かせない施設だ。スマートフォンから病児保育施設を探したり予約できるのが、同社が提供する「あずかるこちゃん」。
あずかるこちゃんは4月に開始したサービスで、11月からは16施設で予約可能になる。同社によると、病児保育施設は全国に約2千あり、自治体が管理する施設が約1800を占めるという。来年2月から自治体での実証実験を始める計画で、成功モデルをつくり自治体での横展開を狙う。
低価格なメンタルケア
低価格なメンタルケアサービス「コミュニー」で勝負するのがComunee(コミュニー)だ。創業者の髙橋秀禎代表が個人事業として運営するサービスで、来年3月までに法人化を目指している。
コミュニーでは親子関係の改善を目指し、メンターと呼ぶ「相談相手」が利用者から話を聞き、アドバイスを送る。メンターは、臨床心理士など有資格者ではなく、コーチング理論やカウンセリング理論に基づく研修を受けた人材が務める。臨床心理士に求められる資格を維持するコストがかからないため、低価格を実現できるという。
髙橋代表は「日本のカウンセリング料金は高すぎる。専門の有資格者でなくても、もっと気軽にカウンセリングを受けたいとのニーズは強い」と強調。コミュニーの料金は1時間当たり2千円と、一般的なカウンセリング料金の5分の1以下に抑えている。
世界中の動植物を判定
今回のCEATECでは、独自性で差別化を図っているスタートアップも多い。バイオーム(京都市下京区)もそうした1社だ。
同社が提供するのは、国内9万種の動植物をAI(人工知能)が判定してくれるスマホ用アプリ「バイオーム」。累計21万人がダウンロードしており、自治体や大手企業とコラボしたイベントなどにも使われる人気アプリに成長している。
世界中の生物のデータベース化を目指す同社は、来年にも東南アジアへの進出を狙っており、海外からも注目されるCEATECを、海外展開の足掛かりにしたい考えだ。
藤木庄五郎社長は「国内ではうまくいっている。海外にも打って出たい」と意気込む。現在のオフィスは京都のみだが、早ければ来年、東京にもオフィスを設置する考えも示した。
老舗旅館とIT企業
創業150年を超える老舗旅館がIT企業と手を組んで立ち上げたスタートアップも存在感を放つ。松山市にある、なごみソリューションズだ。
なごみは、日本最古の温泉である道後温泉屈指の老舗旅館「大和屋本店」のトップが会長、松山市のIT企業デジタルピアのトップが社長を務めるユニークなスタートアップ。デジタルピアが大和屋本店にITシステムを導入していた顧客と業者の関係から、ITベンチャーを立ち上げる間柄へと発展した。
提供するのは、顔認証入退室管理システム「ヴィサージュ・パス」。ニューノーマル時代における旅館やホテルの〝おもてなし〟の向上を目指し、非接触でドアを解錠できるシステムを提案する。大和屋本店での実証実験を経て6月から本格販売を開始。サブスクリプション(定額課金)モデルで提供しており、現在1社が利用中。高橋利至社長は「年間100社程度に導入したい」と強気だ。
初日にアクセス制限がかかるなどトラブルもあった今回のCEATECだが、スタートアップからは、ブース設営の手間やコストがかからない分、オンライン開催を歓迎する声が多く聞かれた。
スタートアップをより多く掘り起こす目的としては、オンライン開催が今後も選択肢の一つになると考えられる。