2020.12.10 【センサー技術特集】センサーとセンサー・アプリの現状と展望IoTの普及でニーズの多様性が拡大
Adafruit BME680ブレイクアウト・ボード。環境センサー用開発ボードで、温度、湿度、気圧、VOCガスのセンシング機能を統合している
IoTの普及に伴い、あらゆる業種でセンサーに対するニーズが拡大している。毎年6,000万個以上のセンサー販売実績を挙げ、13万品目を超えるセンサーを用意しているDigi-Key Electronicsでも、特に新型コロナウイルス感染症の発生後、こうした爆発的な需要増大傾向を肌身に感じている。人々の健康志向の高まりとともに、アクティビティ・トラッキング用IoTデバイスの需要も増加していることから、温度センサーが最もポピュラーで、以下加速度計が続いている。さらに、農業などの新たな分野でもIoTの普及が進んでおり、気圧や湿度を測定する環境センサーが3番目に売れている。
今後、健康、安全に対する新たなトレンドのほか、小型化、機能融合、デジタル化、人工知能(AI)/機械学習(ML)などの新たな機能へのニーズも高まるとみられ、センサーとセンサー・アプリケーションに対する需要の多様化が続くことに疑問の余地はない。
健康と安全志向
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、いくつかのIoTソリューションに新たな関心が集まっている。こうしたソリューションが目指しているゴールは、空気、ヒトとヒトとの接触、モノの表面への接触などを通じたウイルス拡散の防止である。IoTソリューションは主要感染経路の監視と制御により、こうしたリスクの軽減に貢献できる。
米国環境保護庁(EPA)の報告によると、米国民は汚染物質の濃度が屋外に比べ2倍から5倍も高い建物内で90%の時間を過ごしている。大気品質監視のためのIoTソリューションとしては温度や湿度を測定するセンサーが代表的だが、CO₂/粒子状物質センサーの普及も加速している。
ビジネスにおいて、顧客や従業員のために安全な環境を創出することは不可欠である。多くの企業にとって、店舗内の人の流れを制御する上で、ソーシャル・ディスタンスを確保するソリューションが必須となっている。これにより、商業施設内の人の数を継続的にしかも正確に検知し、許容限界に達する前に通知するヒト検知ソリューション向けのセンサーの普及が進むと予想される。社会生活の再開に伴い、光学センサーがヒト検知ソリューションの重要な要素となっており、新たな方法で使用されている。
パンデミックの発生により、安全で健康的な労働環境を維持する上で衛生管理も不可欠となっている。清掃や消毒のスケジュール作成は比較的簡単かもしれないが、生産性を損なうことなくコンプライアンス情報を関係機関に提供するのは困難な場合が多い。スケジュールを設定した清掃プロセスの開始通知機能と自動データ記録/収集機能を組み合わせるのはシンプルなシステムでも十分で、しかも可視性の高い指標を盛り込むことも容易だが、関連法規への準拠を証明するには時間を要する。光学センサーを使えば、非接触型スイッチングと起動を実現し、ほぼ全ての課題に関して制御を行えるようになる。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、様々な政策や手続きが要求される中で、健康や安全を守る上で監視や制御のための光学センサーの重要性が以前にも増して高まっている。
センサーの普及のカギを握る人工知能(AI)と機械学習(ML)
人工知能(AI)と機械学習(ML)は、センサーの普及に極めて重要な役割を果たすようになっている。その代表例として、24時間365日にわたり、人の入退出状況などの屋内環境の変化に基づいて温度を自由に調節するGoogle Nestが挙げられる。Google Nestはデータの収集、分析、クラウド・サーバーへの送信を行い、ユーザーにその結果を知らせる。
データ分析はユーザーに大きな利便性をもたらすだけでなく、コスト節減にも効果を発揮する。センサーは農業の分野でも利用されるようになっており、特によく使用されているのが、灌水システム管理のための湿度センサーである。こうした湿度センサーは豊富な情報を農業従事者に提供し、農作物への水やりの必要性を感知すると、灌水システムを自動的に作動させる。センサーの進化につれて、より高いレベルが求められるのがインテリジェンス機能とコネクティビティ機能である。例えば、これらの機能があれば、天気予報チャンネルのデータをタップすると翌日の降雨の可能性がわかり、センサーを作動させるか否かを決定できるようになる。さらに、機能の融合トレンドも進み、例えば温度、湿度、気圧を網羅したより総合的な環境データの把握が可能になっている。
こうした傾向から、今日のセンサーの使用方法がまだ極めて初歩的な段階にとどまっていることがわかる。多数のデータを収集しても、その大半を積極的に利用していないのが現状である。農業設備の予知保全も、センサーやセンサーによるデータの急増を招く要因となっており、センサーの有効利用法のさらなる改善が求められる代表的な例といえる。「違い」をつくるため、人工知能や機械学習機能も今後より普及が進み、利便性も向上する。
その他のセンサー・トレンド
小型化とセンサー・フュージョンも相互に密接に関連したトレンドであり、このトレンドは今後さらに強まるとみられる。センサーの小型化だけでなく、1個の小型パッケージへの複数個のセンサーの集積も進行している。例えば、温度、気圧、湿度センサーをすべて1個のパッケージに統合し、コンパクトな環境センシング・アプリケーションで使用できるようになっている。
センサーのデジタル化も進展している。センサーのアナログ出力が多様化するとともに、デジタル出力への動きも強まっており、マイクロプロセッサなどとの融合も進んでいる。以前はアナログからデジタル化への移行が課題だったが、現在ではデジタル・センサーの普及に伴い、センサーの部品点数低減と小型化が可能になっている。
センサー・アプリケーションの多様化
あらゆる分野でIoTの成長が続き、センサーの新たなトレンドが生まれるにつれ、センサー・アプリケーションの多様化が今後も続くことは疑いない。
センサーはバリュー・チェーンを高度化させることにより、スタンドアロン製品のような最終製品化への道をたどっている。センサーはインテリジェンス機能とコネクティビティ機能を包含するとともに、屋内外での利用に向けてパッケージの小型化が進んでいる。エンジニアリングと開発作業はOEM企業によって完了し、システム・インテグレータやソリューション・プロバイダが現場で直接センサーを設置する道が開かれている。汎用性も高まっており、センサーはわずかなプログラミングを行うだけで、いかなるアプリケーションに対してもカスタマイズできる。
センサー・アプリケーションの多様化に伴い、Digi-Key Electronicsウェブサイトのセンサー関連ページに訪れるお客さまのタイプも多様化している。こうした傾向に対応するため、Digi-Key Electronicsでは最近、新たなイニシアチブを立ち上げた。このイニシアチブではオーディオ・エンジニアリングや農業分野のような、従来はセンサーと関わりの薄かった市場の開拓に向けて、BOMコストの節減にもフォーカスしている。
IoTの急激な拡大は、市場で最も革新的なセンサー技術の開発もけん引している。堅牢性の高いIoTシステムや製品の開発をサポートするため、Digi-Key Electronicsでは新たな開発ボードの投入も積極化している。例えば、Adafruit BME680ブレイクアウト・ボードは環境センサーの開発ボードで、温度、湿度、気圧、VOC(揮発性有機化合物)ガスのセンシング機能を統合している。DFRobotのGravity BNO055+BMP280インテリジェント・ブレイクアウト・ボードは2個のセンサー・デバイスを統合し、自由度が10のボードとI²C重力インターフェイスを実現している。また、Bosch SensortecのBMI090Lシャトル・ボードは、加速度計とジャイロスコープ・センサーの評価ボードである。こうした開発ボードにより、製品開発期間の短縮が可能になり、センサー・アプリケーションの多様化が一層加速することが期待される。
IoTはセンサー技術とコネクティビティ機能の開発をけん引し、究極的には最終製品の多様化を実現する。
<ロビー・ポール:Digi-Key Electronics IoTビジネス・デベロップメント担当ディレクタ>