2021.02.26 【5Gがくる】<31>5GにとってWi-Fi6は敵か、味方か? ⑤

 5Gにとって「Wi-Fi6」は敵か、味方か?--というテーマを掲げ、敵と味方の見分け方としてセル(電波が吹く範囲)の大小やユースケース(利用ケース)におけるユーザー端末の移動性の有無で使い分けられることを4回にわたって見てきた。

 広域であれば5Gの方が適しているとみられがちだが、広いエリアであっても、Wi-Fi6の小さなセルをいくつもつくり、隙間なく敷き詰めることもできる。

高密度Wi-Fi

 例えばスタジアムやイベント会場など、座席が固定され観客移動の少ない高密度環境では、観客エリア内にWi-Fi6のアクセスポイントを多数設置しセルを高密度に配置すれば、あまたのスマートフォンと高速通信ができる。いわゆる「高密度Wi-Fi」と呼ばれる方法だ。電波干渉や遅延が気にならないケースでは「ローカル5G」と共に選択肢の一つになるだろう。

 一方で、ビジネス活用など広いエリア内を移動しながら高速通信するケースもある。例えば、企業の事業所や病院、大学のキャンパスでは、敷地内での棟間移動があるだろうし、同じ棟での階層間の上下移動もある。さらに、同じ階のフロアであっても、ドアやパーティションで区切られた部署間や会議室、サロンなどへの平面移動がある。

 身近な実例では、リモート研修が挙げられる。最近はオンライン会議で、スマホのビデオカメラを回しながら事業所内の作業現場から前後工程の現場、関係部署へと移動して作業手順を説明する、といったケースが増えている。

 その場合、機密情報の漏えいを防ぐため、インターネットや公衆網ではなく企業専用の私設網(プライベートネットワーク)を利用する。同時に屋内や屋外を移動中であっても映像や音声が途切れないようにしなければならない。

 もちろん、私設網をWi-Fi6で構築することもできる。全フロアの部署や会議室、通路ごとにアクセスポイントをくまなく設置すればよいわけだが、従業員や学生の端末がセルをまたいで移動する場合に、アクセスポイントを切り替える際に発生する〝瞬断〟をできるだけ小さくする「高速ハンドオーバー」という高度な仕組みが必要となる。

ローカル5GとWi-Fi6のハンドオーバー

通信が不安定に

 瞬断が大きいと、映像や音声が途切れる恐れがあるからだ。無線局免許の不要なWi-Fiは、設置の自由度の高さと低コストの半面、電波干渉を受けやすく通信が不安定になるというデメリットもある。特に、ニューノーマル(新しい日常)時代をけん引するであろう、4K/8K超高精細映像やVR(仮想現実)/AR(拡張現実)サービスなど、安定した超高速性と超低遅延性が求められるケースでは、セル間移動による瞬断がなく、電波干渉によるサービス品質の劣化が少ない「ローカル5G」の方に分があるだろう。

 もちろん、工場でのAI(人工知能)&ロボット制御や病院の遠隔手術など、超高信頼・低遅延が求められるミッションクリティカルなユースケースにおいては、ローカル5Gでなければならないのは言うまでもない。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉