2021.03.26 脱炭素の潮流に向けて大組織改編住友商事、豪州の水素事業など推進

鹿児島県薩摩川内市の甑(こしき)島で進めるリユース蓄電池を活用した事業

 住友商事は、カーボンニュートラル社会の実現を見据え、次世代事業の創出に向けた新たな社内組織、エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII)を4月に発足する。関連する各部署を抽出して統合し、専門的な人材や知的財産などの経営資源を戦略的に集約。脱炭素という大きな潮流に対し、「数年に一度」(同社)とされる大規模な組織改編で臨み、グループの強みを生かして、グローバルな事業拡大を目指す。

 EIIは、上野真吾副社長執行役員がリーダーを担う。水素事業部やゼロエミッション・ソリューション事業部、バイオマス原燃料部など8部署を統合し、約100人態勢で発足させる。同社の六つの営業部門に属する部やチームを、EIIに組み込んだ。

 「商社は、どうしても部門ごとで縦割りになりがち。脱炭素や気候変動問題への対応では、意思決定を早くするため、部門横断的にやるよりも、関係する部隊をピックアップして新たに組織化した」(同社広報部)という。そうすることで、エネルギーのバリューチェーン全体を俯瞰できる組織態勢とし、各地でのプロジェクトを推進する。

豪州で地産地消モデル

 住友商事が、将来の重要な代替エネルギーの一つに位置づけるのが水素だ。豪州北東部にあるクイーンズランド州グラッドストンで立ち上げた水素の地産地消モデルづくりの共同検討も、EIIが新事業として推進する。共同検討のため、現地子会社を通じて、同州政府の港湾公社や、民間のガス供給事業者、同州立大学などと覚書を締結した。

 豪州では、19年に国家水素戦略が策定され、「国を挙げて水素産業の創出に取り組んでいる」(住友商事)最中だ。グラッドストンは産業インフラが整い、行政側も積極的に支援を充実させている。さらに、素材産業などが集まり需要面でも見込みが立つため、水素の製造や販売事業の適地として注目されているという。

 住友商事は日本国内でも既に、復興が進む福島県浪江町と水素の利活用について連携協定を締結。水素などを活用した街づくり事業に乗りだしている。「Fukushimaモデル」として国内、そして世界へと発信していく構想だ。

 浪江町では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)や東北電力などが、再生可能エネルギーを用いた世界最大の水素製造施設を開設しており、同施設などから水素の供給を受ける格好だ。一方、グラッドストンでは、水素の大規模製造、輸出の可能性なども将来の視野に入っており、住友商事も当初から連携していく考えだ。

ブルーとグリーンの選択肢

 グラッドストンを事業地に選んだ「最大のポイント」(住友商事)は、晴天率が高い気候的特徴だ。太陽光発電の適地であり、その電力を利用した水の電気分解なども検討できる。また、近郊ではシェールオイルなども産出するという。

 そのため、化石燃料に由来し、二酸化炭素(CO₂)回収技術を組み合わせて製造するブルー水素から、再エネで水を電気分解するグリーン水素へと移行して展開することも想定できるなど、広い選択肢が持てる。

 共同検討では、製造した水素を、燃料電池車といったモビリティ用など幅広い利用法を検証して、地域内で水素コミュニティーを構築することを目指していく。住友商事は「水素をつくり、使用するサイクルを実証していく。商社として、どのようにマネタイズしながら、環境に貢献できるのか、様々な可能性を調査、掌握していくための取り組みになる」と話している。

 EIIでは他にも、同社の強みを生かして、事業を推進する。ニュージーランドやロシアなどを中心に、世界に保有する森林資源の面積は、国内商社としては最大だ。森林整備などを通じて、CO₂の固定、吸収により、環境価値を創り出す事業を進める。

 また、同社は、再エネの一つ、バイオマス発電の燃料となる木質ペレットの国内最大の輸入業者でもあるという。この点を生かしながら、バイオマス発電を普及させる事業も担う。

 同社広報部は、EIIについて「将来的には、既存の営業6部門に肩を並べるような収益規模に育てていきたい」と話している。