2021.07.16 【電子部品技術総合特集】 自動車用電子部品の動向「xEV」へのシフト加速

テスラ「モデル3」分解展示(テクノフロンティア2021)

 電子部品メーカー各社は、変革する自動車市場に照準を合わせた技術開発を一段と強化している。現在の自動車市場では「CASE(コネクテッド、オートノマス、シェアード&サービス、エレクトリック)」や「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」をメガトレンドとした市場革新や技術革新が進展。特に2020年以降、世界的なカーボンニュートラルの重要性の高まりを背景に「xEV」へのシフトが加速している。電子部品各社はこうした自動車技術の進化に対応するための新製品・新技術開発を推し進めることで、車載用電子部品ビジネスの中長期の成長を目指す。

 自動車市場は、電子部品・デバイス産業の中長期の発展を支える最重要市場の一つ。自動車の世界生産台数は乗用車と商用車(トラック、バス)を合わせ、10年代後半に年間9000万台超まで拡大した。

 20年は、新型コロナウイルス感染症拡大が自動車マーケットに多大な影響を与え、春ごろの段階では20年の世界の自動車販売台数は7000万台程度まで落ち込むことも想定された。

 しかしながら、5月ごろから中国市場がいち早く回復。米国市場も7月ごろから回復に転じ、秋以降も当初の予想を上回るペースで世界の自動車市場が回復してきた。その結果、20年の世界の自動車販売台数は7600万台から7800万台程度の水準に達したとみられる。

 世界の自動車生産販売台数は、21年も回復基調が継続。足元では世界的な半導体不足(パワー半導体、マイコンなど)が自動車生産に一部、悪影響を与えているものの、21年トータルでは着実な成長が予想されている。コロナ収束に合わせて21年以降、中長期的な成長軌道への回帰が期待される。

 加えて、CASEなどをキーワードとした自動車技術の進化に伴いカーエレクトロニクス技術は大きく変貌。自動車1台当たりの電子部品の員数増や搭載部品の高付加価値化の促進が見込まれている。電子部品各社は、これら自動車の変化・進化に迅速に対応するための技術戦略やマーケティング戦略に努めている。

 特にオートノマスでは、自動運転車/完全自動運転車の実現に向けた技術開発が国内外で活発化。3月には、ホンダが世界初となる「自動運転レベル3」の自動運転システムを搭載した市販車種を発表した。今後もさまざまな自動車メーカーが、レベル3相当の自動運転車を発表することが予想される。

 電子部品各社はこうした動きに対応するため、ADAS/自動運転の高度化に照準を合わせた高性能なセンサーや通信デバイス、車載用高速伝送用部品などの開発を加速させている。

 「システムが運転の主体を担う車両」と定義される自動運転レベル3以上の自動運転車では、搭載される電子部品にも極めて高い信頼性が要求される。部品各社は、より高品質な車載用電子部品の開発を進め、差異化を図っていく。

 さらに、将来の完全自動運転車を見据え、走行中に人が運転から解放されることに伴う車室内のエンターテインメント空間化やワーキングスペース化なども視野に入れた、新たな付加価値の創出や時間の有効活用にまで踏み込んだ提案なども行われている。

 エレクトリックではEV/PHVなどの電動車向けに、大電流・高耐圧部品や次世代パワー半導体関連部品などの開発が活発化。同時に、EVでは1充電当たりの走行距離伸長のために搭載部品の軽量化ニーズも強く、高性能・高信頼性かつ軽量化を追求した電子部品開発に力が入れられている。

 コネクテッドでは、高速伝送対応や通信品質の向上に向けた電子部品・モジュールの開発が盛ん。シェアード&サービスでは、MaaSの進化などを視野に入れた新たなビジネスモデルの構築などが追求されている。

 このほか、車室内の利便性や快適性を追求する新機能の提案なども強化。最近は、自動車開発におけるECUの統合化(統合ECU)の動きをにらんだ技術提案などに注力する部品メーカーも出てきた。パワートレイン系などでは、より耐熱性を高めた150度対応の回路部品や接続部品開発などの動きも加速する。

 20年代半ばには、車載5G関連の需要が本格的に立ち上がることも見込まれる。

 電子部品各社は、自動車用電子部品市場の中長期の成長を見据え、自動車市場への開発リソースの投入を一段と加速する。

回路部品
コンデンサーなど小型・高性能化

基板自立形アルミ電解コンデンサー

 回路部品は、CASEを見据えた新製品開発が活発だ。特にADAS/自動運転技術の高度化や、自動車のxEV化などに照準を合わせた技術開発に力が注がれている。

 最近の自動車は、自動運転に向けてADASなど安全系の機能強化が進展。ECUの搭載点数が増加し、小型化も進んでおり、コンデンサーや抵抗器、インダクターなども車載グレードでの小型化が要求される。

 ADAS/自動運転技術の高度化では、通信品質を向上させ、安全性を高めることが必要だ。

 このため、車内ネットワークの高速化、高周波化に対応し、ノイズ対策部品も小型・高性能品の開発が盛んになっている。

 ミリ波レーダーユニットなどでは、小型化のために高密度実装対応が求められており、回路基板は高周波回路と一般制御回路を同一基板に形成するハイブリッド基板がMSAP工法を使って製造される。

 xEVは動力にモーターを使用し、コントローラー(制御装置)、発電機、インバーター、二次電池、DC-DCコンバーター、充電器などがモーター駆動関連の重要構成要素となる。こうしたパワー系ユニットで使用される電子部品には、高温環境や振動・衝撃など、自動車特有の要件への信頼性が強く要求される。

 アルミ電解コンデンサーは、一般的な電解液タイプに加え、最近は導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーや導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー(ハイブリッドコンデンサー)の新製品開発が活発化している。

 コイル、トランス関連では、信頼性の高いIGBT用絶縁トランス、ハイパワーで高性能の電流センサー、高効率のリアクターやチョークコイルなどの技術開発が前進。抵抗器は、高信頼性のハイパワータイプ、低抵抗のシャント抵抗器などが搭載される。

 いずれも、SiCやGaNといった新しいウエハー材料を用いた高耐圧、高周波、高効率でスイッチングするパワーデバイスの技術トレンドに沿った新製品開発に軸足が置かれている。

接続/変換部品
スイッチ/タッチパネル、 次世代HMI対応が活発

車載ECU用コネクター

 接続部品では、CASEに照準を合わせたコネクターや、次世代HMIに対応するスイッチ/タッチパネルなどの開発が活発化。

 コネクターは、車の高機能化に伴うデバイス搭載量の増加に対処するための省スペース化や、高速伝送対応、大電流/高電圧化、高耐熱性などが求められ、これらに対応した高品質・高信頼性コネクターの開発が進む。

 ADAS/自動運転用途で重要な車載カメラは、車1台当たりの搭載個数増に加えて高性能化が顕著で、高速デジタルセンシングカメラ向けのカメラモジュールコネクターやカメラEUCインターフェースコネクターなどの開発が進展。各社は高画素車載デジタルカメラで要求される2ギガ/3ギガbpsなどの高速伝送性能を実現しつつ、小型・高性能で防水性にも優れた製品開発に力を注ぐ。

 電動車用では車載インバーターやモーター、バッテリー回りに使用される大電流/高耐圧対応製品の開発が盛んだ。

 EVの本格普及には1充電当たりの走行距離向上が重要となる。このためEV用部品では軽量化ニーズが強く、小型・軽量の車載ECU用コネクターなどの開発が進む。エンジンルーム周辺などの用途向けに、125度/150度対応の高耐熱FPCコネクター開発も活発となっている。

 スイッチは、安全を重視した使い勝手の良い操作スイッチの開発が進む。高級車向けでは静粛な操作音、滑らかな操作感触なども重視される。タッチパネルは、操作性や安全性の観点から、フィードバック機能付きの開発が進展。加えて、ディスプレーモニターの大画面化や曲面化トレンドに対応するため、静電タッチパネルの大画面化や曲面対応も加速している。

 音響部品では、将来の完全自動運転車での車室内のリビングルーム化を見据え、車載スピーカーの薄型・軽量化が追求されている。

車載通信モジュール/センサー
5G対応モジュールの開発進む

車載用5G NRモジュール

 電子部品メーカー各社は、ADAS/自動運転技術の高度化や、コネクテッドカーへの進化などを背景に、車載用通信モジュールや車載用センサーの技術開発を活発化させている。第5世代移動通信規格5Gの車載適用に対応した車載5G対応通信モジュールの開発も進む。

 車車間や路車間の通信を行うV2X通信モジュール(IEEE802.11p規格)は、日本市場向けに760メガヘルツ帯モジュールが実用化され、欧米市場向けの5.9ギガヘルツ帯対応品の開発も進んでいる。同規格は、高速かつ高い信頼性、セキュリティー性などが特長だ。

 さらに最近は、完全自動運転の実現に欠かせないC(セルラー)-V2X機能を搭載した「車載用5G NRモジュール」の開発も進展。完全自動運転車の実現に向け、V2Xシステムと5Gを応用した新たな車載通信システムの早期確立が求められている。

 一方で、実現には従来の4G LTEに対する通信機能の高度化とV2X対応による多機能化で複雑な処理が必要となるため、自己発熱でモジュールが高温化してしまい本来の製品のパフォーマンスを発揮できなくなる課題があった。

 さらに、多機能化に伴うモジュールの大型化に対し、顧客基板への実装を考慮したモジュール設計の最適化も求められる。こうした課題を解決する車載用5G NRモジュールが開発され、一部、サンプル展開も始まった。

 衛星測位システムでは、複数の衛星測位システムを受信可能なGNSS(全地球衛星測位システム)対応モジュールやアンテナの開発が進んでいる。

 自動運転レベル3以上の自動運転車で必須とされるLiDAR(ライダー)は、既存の機械式LiDARと比較して小型・堅ろうかつコスト面でも優位なソリッドステート式LiDARの開発に乗りだす企業が増えている。LiDARは、レーザー光を物体に反射させ、戻ってくるまでの時間を計測して距離を測定する。