2022.01.28 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<72>北欧に学ぶローカル5G導入障壁の突破方法⑧

 北欧と聞けば白夜の幻想的な森を連想する。そして浮かんでくるのが、村上春樹の小説『ノルウェイの森』(講談社)と『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)だ。特に、後者はフィンランドの首都ヘルシンキから北に100キロメートルほどのところにあるハメーンリンナという森と湖の景色が美しいリゾート地が舞台となっている。

 ちなみに同小説のフィンランド語のタイトルでは「巡礼」が「ハイキング」となっている。違和感を禁じ得ないのだが、フィンランドのハイキングは森の中を長時間歩くことによって、自然が彼らの心に何かを呼び起こすようだ。それは彼らに「何が幸せか?」と聞くと、「サウナ」と同じくらい「ハイキング」と答えることからも分かる。

 傷つき疲れた心が歩いているうちに自然の語りかけによって癒やされストレスが解消されるのだろう。片や、コンクリートの森に囲まれ、日々ストレスをため込むだけのわれわれからすれば、うらやましい限りだ。

 さて、前回はローカル5Gの導入を遮る最も際立った障壁の突破方法としてノキアが考えているのが、日本における「ローカル5Gエコシステム」の強化であることを述べた。しかし、一概に「エコシステム」と言ってもさまざまな型がある。

エコシステム ローカル5Gをベースとする新たなソリューション開発

 そこで考えたいのが、「ローカル5Gエコシステムとは何か?」ということになる。まず、エコシステムのメンバーと市場とを結ぶ接点の一つに「ソリューション」があることを思い出そう。

現場の課題はDX

 本連載でも幾度となく取り上げてきたように、日本における人手不足は深刻で、製造業をはじめとした現場の課題として、デジタルトランスフォ-メーション(DX、デジタル変革)によるビジネス変革が求められている。

 インダストリー4.0はその最たるもので、前提となるのが工場のデジタル化だ。無線通信で各設備から膨大なIoTデータを収集し、クラウドへ送信できるようにする超高速かつセキュアなローカル5Gの導入が、変革への第一歩となる。

 これによりスマートファクトリー化が容易にできるようになる。つまり、さまざまな課題を解決する仕組み(ソリューション)をローカル5Gを活用し、作り上げることが重要で、ローカル5Gをベースとしたソリューション開発型のエコシステムを構築すれば良いわけだ。

 明確かつ魅力的なソリューションを旗印にできれば、必要なメンバー構成がおのずと浮かび上がり、その役割分担もおのずと定まってくるに違いない。

 例えば、ローカル5Gをベースとした4K/8Kや仮想現実(VR)/拡張現実(AR)、人工知能(AI)などを活用した新たなソリューションを開発する意義は実に大きいとみている。ただし、エコシステムの競争に負け、メンバーが集まらなければネットワーク効果が働かず、ソリューションの価値は低くなることも忘れてはならない。

市場の動きに注意

 MBA必読書『ワイドレンズ』(東洋経済新報社)では、「エコシステムの構築と選択はタイミングを見誤ってはいけない」と指摘している。まさしく生態系なだけに、自然の語りかけ(市場の流れ)に注意深く目と耳を傾ける必要がありそうだ。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉