2023.01.01 【新春インタビュー】パナソニック・品田正弘社長

05事業会社制が本格始動 お客さまに強みを提供できる枠組みに

--新年おめでとうございます。新型コロナやウクライナ情勢など大変な一年だったと思いますが、昨年を振り返っていかがでしたか?

 品田 そうですね。われわれの市場を取り巻く環境は想像をはるかに超える事業環境でした。ただそういう中で、われわれの事業の積年の課題になっていたものに着手するいい機会にもなりました。

 また、ありがたいことに家電事業は、お客さまの生活に密着している事業なので、割とリニアにお客さまの生活の変化に対応し、われわれの売れ筋モデルが切り替わっていきました。消費は二極化しましたが、いいものを長く使うという考え方の人が増えており、われわれはハイエンドを得意とするメーカーですので、お客さまのより良い生活のために、もっともっと貢献できると思いました。

 --昨年4月からホールディング制(事業会社制)がスタートしたことも大きな変化でしたね。

 品田 人々のくらしにまつわる事業体が多く集まり、例えば今までセパレートされていた空質事業と空調事業が一つになり空質空調社がスタートするなど、ようやくお客さまに対して価値を提供できる枠組みができたと思います。

 また、かつて旧アプライアンス社と旧ライフソリューションズ社で事業が分かれていましたが、今は一つの傘のもと、同じ所帯でみんなが議論を進めていく中で、従来はB2CとB2Bというように単純に区分けして考えていたことも、われわれの価値提供できる領域はB2B2Cだというふうに考えが変わってきました。

 一方で、われわれの事業体は家電の色が濃いように見えますが、実際は6割がB2Bの事業になっています。B2Bの事業を担当する分社は三つですが、それぞれのケイパビリティー(能力)を使い、お客さまにどうささっていくか、スピード感を持って考えるようになっています。

 例えば、コンビニエンスストアやドラッグストアというお客さまを想定いたしますと、当然照明や電材、またエネルギー機器(創エネ・蓄エネやエネルギーマネジメントなど)やショーケース、空調も関係してきます。こうしたお客さまに、パナソニックとしてどう向き合っていくかということを、すごいスピードで議論するようになってきましたので今では非常に良い塊になってきたなと感じています。

 --何か、そういう点で具体的な成果はございますか?

 品田 お客さまに対してどう向き合っていくかという点でかなり進化しました。分かりやすい例で申しますと、インドの配線器具大手のアンカー(現パナソニック エレクトリックワークス インド)という会社を買収しましたが、ここはインドにおける市場シェアが40%を超す、ローカライズされた非常に良い会社ですが、そこを母体に商材の幅出しがいま広がっています。

 もともと配線器具だったチャンネルに、照明やハウジングソリューションズ社のシステムキッチンだったり、強い経営基盤を生かして、われわれの商材の幅出しができるようになってきました。ここにもスピード感や手応えを感じるところですね。

 --会社の中では、例えば意思決定のスピード感などはいかがでしょうか。

 品田 権限移譲をされていますから、基本はわれわれが生み出すキャッシュフローの範囲内で投資に対する自由度が高まり、相当早く意思決定できるようになりました。加えてポートフォリオマネジメントが非常にやりやすくなりました。

 当社の海外空質空調や海外電材といった事業は成長領域と位置付けていまして、そこに投資の自由度が高まり、全社のポートフォリオには入らなくても、事業会社の中で完結できるようになったことは大きな進展です。

 --海外市場では欧州の空調事業にも期待がかかりますね。

[[欧州空調事業を拡大]] 品田 やはり環境規制はEUを挙げてかなり力を入れて取り組んでおられ、予算も大きく、ものすごいスピードで進展しています。ロシアの天然ガスに頼っていた欧州が、ガスから離脱するという動きも加速しています。そういう中で当社のヒートポンプ式温水給湯暖房機・エアー トゥ ウオーター(A2W)は、多くのバックオーダーを抱えており、需要に対して供給が追い付かない状況であるため、まずはわれわれが商品をお届けするという体制を固めることだと考えています。

 一方、環境規制はゲームチェンジャーになります。先般われわれが買収したスウェーデンの業務用空調大手メーカー・システムエア社の業務用水循環型空調システム事業は、フロンガス規制がかかる中、フロンガスの使用量が少ない環境配慮型のシステムであり、われわれに欠けていたピースを手に入れたものです。市場の環境変化に対してどう対応するかという意味で、まだまだわれわれのやらなければならないことは、たくさんございます。

 --国内につきまして、家電事業の方向性についてはどうお考えですか?

 品田 100年以上続く祖業でもありますし、七つの重点事業の一つです。総需要は緩やかに落ちていくことを見据えておくことは必要ですが、まだまだ伸びしろがあると考えていまして、安定して収益をもたらし、パナソニックブランドの象徴としてお客さまとつながり続けていくということでも、極めて重要な事業と位置付けています。ハイエンドにとどまらず、もっとお役立ちできる領域はたくさんあると思っています。

 ただ長くやってきただけに無駄も多いということがあり、無駄を取りながら、われわれのパートナーである流通のお得意先さまと一緒になって、家電難民を生じさせないことが重要だと思っています。高齢化社会を迎え、電球が切れたとか、アンテナが倒れたとかということに対して、テイクケアをしなければならないお客さまはたくさんいらっしゃり、より一層、流通パートナーさまと一緒になって、こうしたお客さまの生活を守っていかなければならない責任があります。

 --IoT化や、ソフトを駆使した商品も増えていますが、これもくらしの質を高めることに貢献しますね。

 品田 IoT化することでスペックにもたらす効果や、お客さまの生活に貢献できる機能も確かにありますが、私はもっとカスタマーケアに使うべきだと考えています。例えば全体的に日本も労働人口が減少し、サービスができるケイパビリティーが減少しています。

 そういう中で、家電はきめ細かいサービスが必要な商材ですので、これを両立するには、例えばIoTを使った故障の予知診断について、いろいろなスタディーをしております。前もって機械がおかしくなるのが分かり、計画的に早めにリモート処置をすることができれば、効率よくサービスマネジメントができますし、将来を見据えればやらなければならないでしょう。

 流通の皆さまのご商売もDX(デジタルトランスフォーメーション)化することが重要でしょう。今のZ世代の購買層が10年後には30代になり、購買の中心層になるわけですが、そういう皆さんの購買行動はわれわれと違っていて、所有することをあまり美徳と思っていませんし、それを考えますとDX化していきながら、主力購買層の消費行動に合わせて、われわれの流通網も一緒になって準備する必要があると考えています。

 --新販売スキームが話題となっていますが、大きなチャレンジでしたね。

[[新しい販売スキーム]] 品田 基本の考え方は、おおむねサポーティブですね。一定の商材について商品価値を維持するということは、そこに競争は起きませんし、疑心暗鬼に陥る商売にはなりませんし、ある意味、業界全体として健全になる面があると思います。流通の皆さまからのお声で最も心にとまっているのは、製品のライフサイクルを長くするという考え方に、量販店の皆さまも専門店の皆さまも、非常にサポーティブで、ご同意いただけた点でした。

 なぜかと申しますと、一年に一回、モデルチェンジしたものを売りたいとは流通の皆さまも思っておられないわけですね。商品の切り替え時期にはそれなりにものすごいロスを生じるもので、新旧二つの商材が並び、プライスマネジメントが複雑で、やり方を間違えると新製品から値段を下げて売らなければならないこともあるわけです。

 販売店からしても、コンスタントに売れる商材が2~3年、定番としてしっかり存在感を示すことができる状態は販売の効率も高く、接客の仕方が分かり、どういう人にどういう説明をすれば成約に結び付けられるかということもノウハウが蓄積していきますので非常に良いわけです。多くのパートナーの皆さまからは、そうしてほしいというお声を直接いただきます。

 --パーパス経営にかける思いについてお聞かせください。

 品田 時代がサステナビリティー、SDGsになったときに、パーパス(存在意義)を表明できない会社はお客さまから見向きもされなくなるということです。現に欧州では若者たちの間では、どのスーパーマーケットで買うかは、どういう会社か考えてモノを買っているわけです。日本でもSDGsの教育が進んでいます。こうした世代が大きくなると、この会社はSDGsを考えているのかということになってくると思います。だから私たちが何を目指す会社か、どういう会社でありたいか定めないと駄目で、それを脈々と継承していくことが重要です。

IoT化でお客さまの生活に貢献

 --こうしたZ世代のような若者たちにブランド力をどう訴求していきますか?

 品田 やはり若い方々は消費に対する行動が違いますので、試行錯誤してやらなければならないでしょうね。タッチポイントをどう持つかはすごく大事でしょう。彼らのタッチポイントに、われわれがどれだけきっちり合わせ込み、コミュニケーションを取ることができるかが大事で、われわれが何者か伝えていくことが重要です。私たちは先進的な会社でありたいと思っていますし、サステナビリティーやウェルビーイングの二つの領域で先進的なことをやっている会社だなと思っていただきたいですね。

 --最近の円安、素材高騰など厳しい環境の中、グローバルで収益性を高めるビジョンをお聞かせください。

[[超高速回転経営めざす]] 品田 これは、もうやることを愚直にやるしかなく、オペレーショナル・エクセレンスといわれているところを、どれだけ磨いていくかということで、まだまだやれる余地はございます。あとは無駄をどれだけ落とせるかということもあり、新販売スキームの商材を欠品なく、在庫を最小にできるかということにより価値を置くつもりです。これを23年は徹底してやりたいと思っています。

 つまり超高速に回転していく経営を目指すということで、欠品なく、在庫を今の半分以上に減らすといったことができれば、無駄も相当省けるようになるわけです。こうした部分に改善の余地はまだ残されています。われわれとしては、お客さまに認めていただける適正な価値を提供してまいります。

お客さまに感動与える商品を連打

 --23年に臨む意気込みをお聞かせください。

 品田 われわれはメーカーですので、〝ワォ〟と言っていただける商品を連打したいですね。先般トライアルで発表させていただいた全自動計量炊飯器ですが、結構反響が大きくて、限定200台に対して1万人近くのお申し込みがありました。

 われわれはよく〝引き算の商品企画〟ということを言っておりますが、この商品では炊飯器における〝○○炊き〟といったこれまでの性能競争ではなく、それとは全く一線を画した商品コンセプトです。

 もちろん炊飯技術に妥協はしておりませんが、そこを訴求するのではなく、一回に食べる量だけを確実に炊きますということを訴求し、従来とは全く異なった価値観を提供しています。本当に大事な部分は必要な量を炊くことで、つまりフードロスをなくすという社会的な存在価値だという考え方から生まれた商品です。

 そういう世の中の変化にジャストミートする商品企画、すなわち引き算の商品企画に取り組み、〝ワォ〟と言っていただける商品をたくさん、これからも出していきたいですね。

 --ありがとうございました。

(聞き手は電波新聞社

代表取締役社長 平山勉)