2024.01.19 【新春インタビュー】タイコエレクトロニクスジャパン 鶴山修司社長

幅広い事業展開により堅調推移

 ―2023年5月19日付で社長に就任されました。就任後の手応えはいかがですか。

 鶴山 当社は、長年にわたってこの地に根付いて活動し、グローバル企業の一員としてあらゆる顧客の要望にしっかりとお応えすることで評価されてきました。ダイナミックな市場環境においても、当社の経営姿勢は基本的には変わることはありません。

 顧客からのわれわれに対する期待に向けてどのように準備していくか、新しい時代に向けてどう準備するのか、ということだと考えています。

 ―23年を振り返るといかがでしたか。

 鶴山 23年度(23年9月期)は、ダイナミックな市場環境の中を歩み続けました。一つは、コロナの終焉(しゅうえん)が見えてきて、市場が活性化しつつある中で、半導体の調達難という状況が続きました。そして、顧客在庫調整による産機関連需要の減速や、サプライチェーンの改善などの課題を乗り越えていく一年でした。

 しかしながら、この一年は24年に向けた、良い準備期間になったのではないかと思っています。

 ―最近の受注状況や受注残高状況は。

堅調な状況が続く

 鶴山 顧客の動きは堅調な状況が続いています。ただ、強含みの中でも、実際のわれわれに対する受注は安定している状態です。

 分野別では、当社の主力事業であるオートモーティブ関連の受注は強含みで、われわれとしても顧客が求める要求に追いつけるよう生産するのに精いっぱいという状態です。一方で、一部の市場の低迷により、少し余剰感もあります。

 産機関連のビジネスは、高水準の受注残もあり、23年度の売り上げ実績において良い結果を得ることができました。24年度は、23年度の旺盛な需要が一服し、次なる成長に向けて準備の一年となりそうです。通信は、23年度は厳しい年でした。しかしながら、当社が期待しているAI(人工知能)やデータセンターなどの分野で大きな引き合いが得られた一年でもあったため、今後については明るい展望を持っています。

 当社は、多種多様な業界にまたがるコネクティビティーとセンシングソリューションを提供しているため、業界によって濃淡はあっても、全体としては23年も堅調に推移した一年でした。

 ―23年度(23年9月期)の業績動向は。

 鶴山 TE Connectivityグローバル全体の23年度売上高は約160億ドルを達成しました。マーケットの一部の景気減速は依然として続いていますが、好調な業績を収めることができました。電気自動車(EV)の世界的な生産台数の増加、再生可能エネルギーの導入など、長期的なトレンドを活用し、多くの事業で市場を上回る成長を達成しました。日本に関しても、厳しい市場環境の中でも堅調な動きを達成することができたと考えています。

 ―24年に向けた展望は。

 鶴山 24年は重要な年になると考えています。市場がアップトレンドおよびダウントレンドの双方向に向かう中で、トレンドをつかむことが重要になります。

 特にオートモーティブ関連では「E-モビリティ」への変換期を迎えているため、コネクターに対する技術要求も高電圧高電流対応など、さまざまな技術力が試されています。そうした中で、当社では明るい見通しを持っています。

 24年の市場見通しは、民生系や産機関連はダウントレンドによる厳しい一年になると考えていますが、一方で、半導体不足の緩和による自動車生産の拡大や、電動化と自動運転の推進などに期待をしています。全体としては、オートモーティブ関連が成長をけん引していくと思います。

E-モビリティシフトに貢献

 ―「E-モビリティ戦略」での手応えはいかがですか。

 鶴山 サステナビリティー社会の実現に向け、CO₂排出量削減は世界全体での大きなテーマとなっています。E-モビリティへのシフトは日本においても不可欠と考えています。

 TEは、過去3年間ほどで、中国でのE-モビリティビジネスで大きな成長を遂げました。今、われわれに求められていることは、E-モビリティで先行している欧米系や中国の有力EVメーカーのトレンドを日本に紹介し、TEの実績があるソリューション、そしてグローバルのリソースを活用した知識と技術を提供することで、日本のOEMに貢献していくことだと考えています。

 ―E-モビリティビジネスの中期展望は。

自動車の変化が重要

 鶴山 E-モビリティは、単に自動車が電動化するということではなく、それによって自動車がどのような方向に変化していくのかが重要です。

 E-モビリティ戦略では、急速充電のニーズに対して高電圧、特に効率に優れるとされる800V仕様のソリューションの提案に力を入れています。日本市場でも、今後は従来の400V仕様に追加で、800V仕様の導入が起きると考えています。800VソリューションでTEは世界をリードしています。800V高電流の仕様では、ハーネスが大型化し、重量も重くなる、端子に流す電流量も増加する、という変化が生まれます。こうした課題に対し、いち早くソリューションを提供することで、日本の800V電動化の流れに貢献していきたいと考えています。

 ―多様な人材育成にも力を注がれています。

 鶴山 TEは、グローバル企業として、多様な人材に強みを持っています。われわれTEジャパンについても同様で、多様な国籍や価値観などを持った人が数多く存在します。

 また、TEグローバル全体では、22年度において全管理職に占める女性管理職の比率は27%、26年度ごろには女性管理職の比率を30%を超える水準に高めていきたいとの目標を設定しました。TEジャパンもこれに追いつくべく女性管理職の登用の推進、および女性の採用活動を積極的に行います。

 TEでは、多様性を育む社内風土づくりの一環として「ERG(Employee Resource Group)活動」を推進しています。TEグローバル全体には、48カ国に8000人以上のメンバーを擁する八つのERGがあります。その一つとして、女性の活躍と包括的で多様な環境づくりを促進するためのグループ「WIN(WO+MEN IN NETWORKING)」による活動を推進しています。日本のWINの活動は、ここ数年間はコロナ禍の影響を受けましたが、24年からは再度、力を入れていきたいと思います。

多様なポートフォリオで成長推進

 ―社長就任後、社員とのコミュニケーションではどのようなことを心掛けているのですか。

 鶴山 チームワークを重視しているため、社員への声掛けに努めるようにしています。また、スキップレベルのディスカッションを拡大し、掛川工場(静岡県掛川市)の人たちとも月1回のペースで交流会を通したコミュニケーションをとっています。

 ―ダイナミックなビジネス環境への対応は。

 鶴山 世界的な景気減速やサプライチェーンなどの課題がありますが、周囲のダイナミックな環境を念頭に置きつつ、多様なポートフォリオを通じて成長を推進することで、当社のビジネスモデルと長期的な価値創造に力を注ぎ続けます。事業を展開しているグローバルな状況を把握することが重要と考えており、いかに的確に対応していくかを重視しています。

 ―今後の投資方針は。

 鶴山 24年度(24年9月期)の事業計画でも、しっかりとした投資戦略を立てています。掛川工場に対し、生産現場のデジタル化を加速して、スマートファクトリーへの取り組みを強化します。設備投資のほか、人材に対する投資にもしっかりと取り組みます。

 ―今後注力する重点分野は。

 鶴山 サステナビリティーに配慮する事業活動を推進し、EV、再生可能エネルギー、人工知能などにフォーカスした事業展開を図りたいと思います。AIを起点としたデータ通信分野は、今後も高い成長が期待できます。この分野では当社の高速接続ソリューションとエンジニアリングの専門知識により、継続的な成長を目指していきます。モビリティー関連分野は、サステナブルをトリガーに進化していくため、積極的な開発、投資に取り組みます。E-モビリティ戦略として、インレットに加え、高電圧コネクター、そして近い将来にはワイヤからバスバーへの展開も視野に入れています。自動車ワイヤハーネスの軽量化提案にも力を注ぎます。

 TEは、より小型化と軽量化、よりエネルギー効率の高い製品を開発し、革新的で持続可能なソリューションを提供します。今後も引き続き、顧客とともに創り上げる高度な技術による製品とソリューションを提供することで、より持続可能な世界の実現に貢献していきます。

(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)