2024.05.17 【世界情報社会・電気通信日のつどい特集】「外科医療のデジタル革新」を語る 医師・起業家の杉本真樹氏が記念講演 日本ITU協会賞特別賞も受賞

記念講演する杉本氏

XR技術を手術でも活用しているXR技術を手術でも活用している

介護現場での活用事例介護現場での活用事例

患者への症状説明にも利用されている患者への症状説明にも利用されている

 記念講演では、医療分野でデジタル技術を用いた画像解析やシミュレーションの取り組みをリードする、医師で起業家の杉本真樹氏が「外科医療のデジタル革新」をテーマに登壇する。杉本氏は今回の日本ITU協会賞特別賞を受賞している。

 杉本氏は帝京大学医学部肝胆膵外科の外科医の傍ら、2016年に立ち上げた、東京都を拠点とする医療ITベンチャー企業「Holoeyes」のCEOを務めている。約30年にわたる外科医としての経験から「診断や治療、特に手術の現場での暗黙知を改善することが、医療技術の伝承や修練という課題を解決する鍵となる」と確信。外科医と患者を同時にアシストし、医療領域のコミュニケーションに革新をもたらそうと同社を立ち上げた。

 「手術中でも簡単に手に取るように理解できるツールを開発したい」と思い立ち、患者個別のCTやMRIデータを基に、3次元のVR(仮想現実)やMR(複合現実)アプリケーションを自動生成するクラウドサービス「Holoeyes MD」を開発。医療現場でのコミュニケーションを向上させることで医師の負担を軽減し、手術や診断の現場で効率的な意思疎通を支援している。

 3D画像処理を行う機能を搭載し、ヘッドマウントディスプレーを併用して空間的に提示することも可能だ。

 既に保険診療報酬の加算が一部認められ、国内外の医療施設において手術や画像診断、遠隔医療、教育修練などに利用されている。

 杉本氏は「このサービスを広く普及させ、診断から治療への直感的な体験を伝承しやすくして、医療業務の効率化を図ることがHoloeyesのミッション」と強調する。

 実際の医療現場では、外科医の手術計画や手術支援に活用され、伝承技術を空間的に記録・再現し、直感的な体感を伴うアーカイブとしてデータベース化することで遠隔医療の現場でも共有されている。

 医師の技術トレーニングや新人の研修にも利用されているほか、立体的なデータを表示でき、症状を分かりやすく解説できることから、患者への説明にも役立てられている。

 杉本氏は「VRやMR、AR(拡張現実)を融合させたXR体験は、実際に体験してもらって価値を訴求することが重要」と語る。

 ただ、医療技術をデジタル化してビジネスとして成り立たせるには、保険加算や臨床現場での収益化、海外事業展開といったハードルも立ちはだかる。杉本氏率いるHoloeyesは、こうした課題を踏まえて今後も製品開発に取り組み、これまでにない医用画像のXR化と医療機器としての普及に力を入れる。