2025.01.17 【情報通信総合特集】情報サービス トップに聞く 25年の見通し・経営戦略 富士通 山田亜紀子富士通研究所コンバージングテクノロジー研究所長

デジタルツインをさらに活用

海洋DX、積極取り組み

 さまざまな社会課題がある中で、富士通はICT企業としてAI(人工知能)、ネットワーク、コンピューティングなどの最先端デジタル技術を持っている。心理学や行動科学などの人文・社会科学の知見を融合し、社会課題を解決していくことを目指している。

 コンバージングテクノロジー研究所は、こうしたことを目的に2021年に発足した。

 社会課題は個人の課題、組織の課題だけでなく、ステークホルダーの課題などさまざまであり、ますます複雑化している。一つの閉じた技術だけでは解決できない。産学連携や地域などエコシステムで課題解決していくことが必要だ。

 当社では、AIを含むICT技術に行動経済学の知見を取り入れたソーシャルデジタルツイン技術、デジタルリハーサル技術を開発。この社会実装の実証実験などを積極的に行っている。

 人々の行動の変化を予測し、施策の効果や影響を事前に予測するデジタルリハーサル技術を活用して、英国ではシェアードeスクーターサービスの運用を改善する取り組みを行った。

 昨年は、海洋デジタルツイン技術で、AIを活用して海洋の生物や構造物の3次元形状技術を開発、カーボンニュートラルや生物多様性の保全に向けた海洋調査に活用する取り組みを行った。この技術を、ブルーカーボンの吸収量の多い海藻などに拡大することを目指している。

 また、東洋大学とココロバランス研究所と、社会課題として深刻化するカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応力の向上を目指し、AIや犯罪心理学に精神保健学を融合した「カスタマーハラスメント対応教育プログラム」の開発に向けた実証実験を,昨年末から開始している。

 当社の生成AI技術と行動変容支援技術、および東洋大学の犯罪心理学の知見を融合し、カスタマーハラスメント体験AIツールなどを通してカスハラ対応力を向上させるための行動を明確にするものだ。

 25年度は社会実装を加速させる。海洋デジタルツインは24年度かなり注目された。25年度はしっかり取り組み、海から地球を良くしていく海洋DXに積極的に取り組む。デジタルツイン技術を活用したデジタルリハーサルも緒に就いた段階だ。社会のデジタルリハーサル化も最初は個社の対応だが、マルチステークホルダーが参加することで範囲が広がる。大きな範囲で取り組まないと社会課題の解決につながらない。「地球まるごとデジタルツイン」と言っているが、そこに向かって努力していく必要がある。

 地域ぐるみ、産学連携などエコシステムが重要だ。内閣府が提唱する「総合知」により、社会課題を解決していくことが大事だ。