2025.01.17 【情報通信総合特集】2025市場/技術トレンド AI
富岳LLMを開発した研究チームのメンバー
生成AIの産業活用本格化
エージェントの開発過熱
人間のように学習したり判断したりできる人工知能(AI)の中でも、人間のように多彩なコンテンツを作り出す生成AIが世界規模で急成長している。多くの企業が生成AIの有効な活用策を探ろうと、社内体制の整備や技術・サービスの開発を加速する一方、AIを安心して使える環境づくりを急ぐ。開発や活用の遅れは日本経済の競争力低下に直結しかねないだけに、生成AIの社会実装を後押しするソリューションプロバイダー各社の役割は重要だ。
東京科学大学(旧東京工業大)や富士通などの研究チームは、世界最高レベルの計算能力を持つスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」を使い、生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)の開発に成功した。日本語の理解力の高さが特長で、LLMの性能の指標となるパラメーター数は計算環境のバランスを考慮して130億とした。専用サイトなどで無償公開し、国内企業や研究機関による生成AIの開発に活用してもらう。学習データから開発の要となる半導体まで全て国内で調達した初の純国産モデルで、海外製品との差別化を図る。
細かい指示がなくても生成AIが自主的に判断して業務を遂行する自律型の「AIエージェント(代理人)」の開発競争も過熱している。
富士通は昨年10月、独自開発したクラウド型AIプラットフォーム「Kozuchi(コヅチ)」に自律型生成AIを搭載した新サービスを市場投入した。コヅチAIエージェントは、会議中の会話から必要な業務データを推測し、議論に役立ちそうな資料などを作成する。コヅチが会議参加者の発言を踏まえて、データ分析を行うAIを複数選択し実行を指示。指示を受けた別のAIが会話の内容を読み取って自らの判断で理解の手助けになるグラフなどを自動で生成するなど、会議のスムーズな進行や生産的な結論の導出をサポートしてくれる。
NECも1月から、AIエージェントの提供を始める。独自開発した生成AI「cotomi(コトミ)」の機能を増強し、図表も理解できる技術を開発。エージェントに依頼したい業務を入力すると、コトミが自主判断でタスクを理解して最も適したAIやサービスを選び、自動で業務を実行する。まずは社内外の情報を包括的に検索して業務プロセスを自動化するサービスを、経営計画や人材管理、マーケティング業務向けに展開する。
AIエージェントの開発を巡っては、NTTデータなど他の日本企業のほか、世界の大手IT企業がサービスを展開しており、ロボットなどへの応用も含め25年の注目領域になりそうだ。
一方、生成AIの活用が進むのが、膨大な機密情報を取り扱うコールセンターなどの問い合わせ対応だ。AIを活用した音声認識アプリを手掛けるアドバンスト・メディアはコンタクトセンター向けLLM「AOI LLM」を昨年8月にリリースした。インターネットに接続しないローカル環境でも生成AIが稼働し、個人情報や機密情報を多く含むデータの安全性を保ちながら、高精度な要約生成やQ&Aの抜粋などテキスト化した通話データを目的に合わせて活用できるようになる。
建設や工場など現場での活用も進んでいる。IoTシステム開発を手掛けるMODEは、主力のクラウド型IoT基盤サービス「BizStack」に、生成AIを組み込んだ新機能「BizStack Assistant(アシスタント)」を昨年5月に市場投入した。現場の機器などに設置した各種センサーの情報をAIが常に監視し、異常があった場合には、現場作業員のスマートフォンを通じて生成AIが自動で話しかけ、状況を知らせてくれる。
今後はセンサーやカメラを統合し、現場状況を包括的に把握できるマルチモーダルAI化を推進。上田学CEOは「AIが自律的に作業指示や状況把握を行うことで、人間とAIやロボットが共に働く未来の創造を目指す」と意欲的だ。
AIとHR(人事関連業務)を融合させ、人材の採用から育成、定着までをサポートする人的資本経営支援ソリューションを展開するのは大塚商会だ。優秀な人材確保や面接の質のばらつき、といった課題に対して、AIが具体的な解決策を提案。中堅・中小企業から大企業まで採用担当者の業務を後押しするサービスを昨年10月に市場投入した。
面接データ分析では、ZENKIGEN(東京都千代田区)のオンライン面接ツール「harutaka(ハルタカ)」を活用。これまで録りためた約3000件の面接映像データと選考結果データを組み合わせた面接分析により、面接の質を向上や採用プロセスの効率化につなげる。
富士キメラ総研がまとめた生成AI関連の国内市場予測によると、今後は従来AIとの併用・連携が進み一層業務変革やイノベーション創出が可能になり28年度には23年度比12.3倍の1兆7397億円に市場が拡大。LLMの活用も裾野が広がり、同15.3倍の1840億円に成長すると見込んでいる。