2020.08.31 【ソリューションプロバイダ特集】 市場動向 DX
〝デジタル企業〟に転換
新型コロナウイルスの感染拡大は、様々な分野に大きな変化をもたらしている。デジタルの力で、より強い企業や社会基盤の創出を目指すデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)は、このコロナ禍で一気に加速する見通しだ。ニューノーマル(新しい日常)時代を見据えた新たな、しかもかつてない大きな変革の時を迎えている。
政府は、7月末の閣議で新しい経済財政運営の基本方針(骨太の方針)を決定した。同方針では、新型コロナウイルスで浮き彫りになった様々な課題を大きく変革していくことを目指している。
一つが、行政のデジタル化だ。これまでの高度情報化通信ネットワーク形成基本法(IT基本法)を全面的に見直し、自治体間でばらばらなシステムの統一など行政手続きのデジタル化を促進する。「対面・紙・ハンコ」の慣習の見直しなども進める。
もう一つは、テレワーク。在宅勤務やサテライトオフィスの利用などを促進することで、テレワークの定着を目指す。
政府はIT基本戦略で「5年以内に世界最先端のIT国家を目指す」と宣言したものの、進展は鈍かった。しかし、新型コロナの発生で「待ったなし」の状況だ。ここにきて、一気に改革の機運が高まっている。
DXの必要性が広く認識される大きなきっかけとなったのは、経済産業省が18年9月に発表したDXレポートだった。
同レポートは「2025年の崖」として、DXが実現できなければ、25年以降、年最大12兆円の経済損失が生じると指摘。産業界に衝撃が走った。
また、経営面では「既存システムのブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用ができない場合、デジタル競争の敗者になる」と警告している。人材面では、25年にIT人材不足(現在17万人不足)が約43万人まで拡大すると指摘している。
また、25年までにDXを実現できた場合、30年には、実質GDPを130兆円押し上げる効果があるとしている。
このDXを実現するためには、あらゆる企業が〝デジタル事業〟に転換していく必要性を挙げている。
この大きな役割を担っているのがITベンダーだ。富士通は、デジタル会社へのシフトを加速させている。同社は、このほど経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄2020」に選定された。
DX銘柄は、デジタル技術を前提としてビジネスモデルなどを抜本的に変革し、競争力強化につなげるDXに取り組む先進的な企業を選定したもの。
富士通は、DXコンサルティング企業であるRidgelinezの新設および、DX企業への変革に向けた各種取り組みが評価された。
時田隆仁社長は、ニューノーマルにおける同社の戦略について「人とデータを中心とした新たな生活様式をテクノロジーで築く」と強調。具体的には①グローバルビジネス戦略の再構築②日本国内での課題解決力強化③お客様事業の一層の安定化に貢献④お客様のDXベストパートナーへ、などを掲げる。また、データドリブン経営強化、DX人材育成、エコシステム型のDX推進などを推進していく。
NECは、デジタル化の加速を見据えたDXの取り組みを強化する。吉崎敏文執行役員は「デジタル化の力でより強い社会、企業を実現していく」と、同社のミッションを強調する。
あらゆるタッチポイントがデジタルに組み込まれ、社会がデジタルへ大きくシフトし、「イノベーション創造」「お客様接点の改革」「業務改革」につながると指摘する。
日立製作所は、帝人と新素材の研究開発におけるDXの推進に向けて協創を開始。帝人は「中期経営計画2020-2022」で、データ利活用による素材開発の高度化を掲げ、デジタル技術を活用した、研究開発スピードの向上と開発力強化に向けた検討を進めている。
両社は、デジタルイノベーションを加速する日立のLumadaで展開されるソリューション・技術を活用。各種データの一元管理が可能な統合データベースを中核として、シミュレーションデータなどを分析し、研究開発を促進するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)をさらに加速させる。さらに、研究者間で研究手法やノウハウを最大限利活用するためのサイバーフィジカルシステム(CPS)を共同で構築する。
また、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大によって人々の生活様式や企業活動が大きく変化する中、ウィズコロナを前提としたニューノーマル時代に求められるデジタル化の潮流を捉え、データ駆動型の研究開発の加速に向けた新たな枠組みを検討していく。
日本IBMは、ニューノーマルを見据えた新しい働き方や、業務の効率化・高度化、また業務継続性(BCP)など、DXを実現するための統合サービス「IBM Garage」の提供を開始した。
現在、様々な形で業種を超えてDXで連携する動きが加速している。コロナ禍の克服は、真のデジタル革新によって実現していくことは間違いない。