2020.09.30 【電波新聞70周年特集】電機業界 これまでと展望
電機各社は薄型テレビで世界を目指した(写真右は世界の亀山と言われたシャープ亀山工場、左はパナソニック宇都宮工場での薄型テレビ生産ラインの様子)
電機業界は今、新たな成長に向けた模索を始めている。日本は戦後の高度成長により世界有数の経済大国にまで上り詰めた。
それを下支えしてきたのは、紛れもなく日本の電機産業といっても過言ではないだろう。その後はオイルショック、バブル景気と崩壊、リーマンショック、東日本大震災、アベノミクスと、市場環境は変化してきた。
電機業界は紆余(うよ)曲折ありながらも、自身の立ち位置を見極めながら構造改革を進めて成長を目指してきた。
この数年は全てがネットワークでつながる時代になり、電機関連技術が様々な業界で使われるようになっている。今こそ電機業界が全産業の要としてけん引する時だと言える。
80年代まで 日本の製品が世界を席巻
電波新聞社が設立された1950年は戦後から復興が本格的に進み始めた時期で、まさしく電機業界が立ち上がりだした時になる。
電波法、放送法、電波監理委員会設置法の電波3法が施行され、通信や放送を社会インフラとして整備していく動きが始まった。
この動きに合わせて電機各社は、通信や放送を整備するための技術開発と製品開発を進め、欧米に追い付き追い越せで、次々と新技術を創出してきた。
トランジスタやテレビ、録画機など、世界を席巻する技術と製品開発で業界をリード。カラーテレビの輸出では欧米との摩擦も生まれるなど、逆境にさらされながらも技術を磨き良い製品を投入してきた。
特に高度経済成長期は新製品の投入、規制、技術特許訴訟を繰り返していた。ここ数年は韓国や中国などで同じようなことが起こっていることをみても、いかに当時の日本の技術や製品が世界の脅威になっていたかが見て取れる。
90年代~現在 合従連衡の動き本格化
80年代以降になると電機業界は再編期に入る。失われた10年、失われた20年と言われるほどで、技術力とモノづくりを強みにしてきた日本の電機各社にとって試練が続く。
日本の電機各社は、自社の技術力には自信があった。社会学者エズラ・ヴォーゲル氏の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」でも日本型経営を高評価したこともあり、市場の転換期への対応が遅れたという見方もある。
「技術があれば売れる」「高機能であれば高くても売れる」といった考え方はマーケティング力の研さんの遅れにもつながった。
例えばテレビや携帯電話、PCなど、日系電機各社の技術力が世界をリードしていたにもかかわらず市場競争では負けてしまった。
〝昭和の時代〟に世界で活躍した日本は80年以降の〝平成の時代〟になり、技術力だけでは市場で勝てない時代になり、どのように勝ち残るかを模索する時代に突入した。
90年代以降は合従連衡が本格化し事業再編も続いた。
半導体やディスプレイ関連は各社が個別に開発していてはグローバル企業に勝てないことから、日の丸連合として事業統合を開始。
2000年以降は電機各社自体の再編が一気に加速した。事業統合や売却なども進み、2010年代になると、海外企業を巻き込んだ事業構造の転換が進んできている。
リーマンショックをきっかけに日立製作所が過去最大の赤字に転落。さらに11年のアナログ放送停波はテレビを展開していた各社にとって大きな転換期となった。
テレビで世界を取りにいっていた電機各社にとっては、テレビやディスプレイにこだわりたかったが、投資などがあだになった。パナソニックやシャープは業績が悪化。特にシャープは存続の危機にまで陥った。
比較的優等生だったソニーも、テレビ事業など主要エレクトロニクス事業は苦戦が続いたほか、NECは構造改革の成果が思うように出ないまま歳月が過ぎた。
さらに東芝の不正会計問題の発生だ。電機業界自体の存在が改めて問われるようになった。各社は再生を目指し事業売却や事業統合などを進め、これまでの日本企業という概念すら変わるようになってきた。
自力再生が難しかったシャープは台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)の傘下に入り再生の道を選択し、東芝はこれまで主力だった白物家電とテレビの事業をそれぞれ中国企業に譲渡した。PCに関しては、NECと富士通が中国レノボグループの傘下で取り組むことになった。
さらに電機業界にとって重点事業の一つでもあった自動車向け事業も再編が本格化。
CASE(コネクテッド、オートノマス、シェアリング、エレクトリック)と呼ぶ流れが始まり、自動車業界では100年に一度の大変革期とも言われるようになっている。
そうした中で、パナソニックはトヨタ自動車との連携を加速し、日立製作所は自動車事業をホンダ傘下の各社と一体化することを決めた。
これまでテレビやオーディオなどで地位を築いてきたパイオニアは、自動車向けに絞り香港ファンド傘下で再建を進めている。アルプス電気はグループのアルパインと経営統合しアルプスアルパインとしてスタートを切っている。
こうした再編は自社の事業ポートフォリオをどこに置くかを選択し続けてきた結果でもある。
これから 「ソサエティ5.0」実現を支える
いま、電機業界は様々な業界とつながりながら新たな成長を目指そうとしている。政府が掲げるソサエティ5・0の実現には電機業界がなくてはならない。
全てのものがインターネットでつながるIoTの時代には、モノづくりと情報通信という主要電機各社が持つ技術力が不可欠になると言っても過言ではない。
電機各社が今進めていることは、現場で培ってきたモノづくりのノウハウとICT(情報通信技術)を融合し新たなサービスモデルをつくっていくことだ。
世の中はグーグルやアマゾン、フェイスブック、アップルといったGAFAと呼ぶ米IT各社や、バイドゥやアリババ、テンセントなどBATと呼ぶ中国企業が世界を席巻している。
ただ彼らはモノづくりの技術を持たない。ソサエティ5・0の実現にはICTだけではなく、現場のモノづくり力の両方が必要だ。
主要電機各社が目指しているのはこの両面を生かしたプラットフォーム戦略になる。
クラウドコンピューティングやIoT、AI(人工知能)といった最新のデジタル技術を使い新たな価値を創出していくデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)に取り組むところが多い。
日立製作所はIoT基盤「ルマーダ」を前面に出し、様々な企業が抱える課題にルマーダを適用し課題を解決しようとしている。ルマーダを適用した事例の構築を進めるほか、ここでの経験をサービス化し横展開を進める。
三菱電機は工場などの現場でのスマート化を目指した取り組みを強化しており、他社協業を進めながら現場とICTを組み合わせたサービス化と技術強化に取り組む。
経営再建のメドを立てた東芝は、サイバー技術とフィジカル(実世界)技術の融合により社会課題を解決するサイバーフィジカルシステム(CPS)テクノロジー企業になることを掲げ、グローバルで導入事例を増やしてきている。ICTとモノづくりを融合していくことで新たなプラットフォームをつくろうとしている。
パナソニックは製造や物流、流通などの現場の知見とICTとを融合した現場プロセスの改革を掲げている。
家電事業などのコア事業を大切にしながらも、現場力を生かした展開を進める。特にBtoB(法人向け)事業に力を入れる。
シャープは、AIとIoTを軸に家電から法人向けまで支援を始めた。「AIoT」と呼ぶ独自の技術体系を構築した展開を加速している。
情報サービス関連企業では、NECはDXを加速する施策を展開。得意の顔認証技術を軸にした安心・安全を実現する仕組みづくりを進めるほか、データの利活用を進める取り組みを米国中心で始めている。
富士通はDX企業への転身を掲げた。デジタル領域での事業拡大を進め、他社との協業などを進めるほか、DX事業をけん引する新会社をつくって展開を始めている。
電機業界が中心になって進めていた総合展示会「CEATEC」でも、ソサエティ5.0を掲げながら業界横断型の展示を本格化している。
電機業界がハブとなり様々な業界のデジタル化を支援していくもので、電機業界の可能性が無限に広がっていくことを示唆している。
くしくも2020年には、新型コロナウイルスという今まで経験のない状況に置かれた。
業界首脳のインタビューなどでは「この先5年で起こると予想していた市場変化が1年でやってきた」と口をそろえる。
コロナ禍では今まで以上に電機やICTが必要になってくる。つまり電機業界の存在価値が、一層高まると言っても過言ではない。
新型コロナで市場環境は不透明だが、電機業界にとっては逆に培ってきた技術とサービスを提案できる大きなきっかけになる。20年以降の電機業界の役割は今まで以上に重要になる。