2020.12.18 【5Gがくる】<23>ローカル5G×VRでビジネスが広がる①

 「人間五十年」というのは、織田信長が本能寺で最期に舞った能楽「敦盛」の一説であるが、戦国時代の武将は「茶の湯」とともに「能楽」を日常的に好んでいた。

 能舞台では神様や武者の幽霊など、人ではないものが登場し観客を「幽玄」の世界へ誘う。現代風に言えば、バーチャル世界だ。武将たちはこの仮想空間に没入し、その中で熾烈(しれつ)な国盗り合戦を勝ち抜く戦略を決意し覚悟していたらしい。

 「能楽」の延長線上

 これは、バーチャル世界による現実課題の解決にほかならない。この「能楽」の延長線上にあるものが、前回解説したDXの一形態「VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)」だと、筆者は考えている。

 イマーシブ(没入型)コンピューティングとは、コンピュータが作るバーチャル世界(人工の光景)に人間が没入し、人間の五感を刺激するインタラクティブ(相互作用)によって、様々な体験ができる技術のことだ。

 この技術を活用した没入型アプリケーションは、大別して「VR」と「AR(オーギュメントリアリティ=拡張現実)」がある。

 「VR」とは「コンピュータが作り出す仮想の光景を、あたかも現実であるかのような感覚をユーザーに提供するもの」として定義される。この「コンピュータ」を「能舞台」に換えれば、そのまま「能楽」になるのが興味深い。

 その意味では、ビジネス合戦に明け暮れている今の企業戦士にとって、VRは果たしてその勝敗を左右するほど重要なものに発展していくのだろうか?

 そこで、VRの仕組みについて少し見てみよう。VRは、部屋の壁、6面に映像を投影するものもあるが、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)と呼ばれる、両眼に覆いかぶせるように頭部に装着するデバイスを用いる場合が多い。

 HMDは、左右の目にそれぞれ異なる映像を見せることによって、ユーザーに現実の光景と同じような奥行きを認識させ3次元空間を作り出す。これによりHMDを装着した人の目の前にはバーチャル世界が広がる。

 HMDにはコントローラなどが付属しており、コントローラに搭載されている加速度センサーや角速度センサー(ジャイロセンサー)などで身体の動きを検知し、ユーザーのアクションに対してリアルタイムに反応して映像を変化させることができる。

 付属のコントローラを手に付けて動いたり操作したりすると、ユーザーはまるでバーチャル空間の中にいるような感覚になるわけだ。

 FBが基盤提供

 確かに面白そうだ。オンラインVRゲームやオンラインVRスポーツなどの普及が進んでいるのは理解できる。しかし、ビジネスで活用できるのだろうか? 

ローカル5G×VR

 それを裏付けるように、今年5月、フェイスブック社は、企業がVRをビジネス利用するためのプラットフォーム「Oculus(オキュラス)for Business」の正式提供を始めたと発表した。加えて5Gチップを搭載したHMDも登場した。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉