2021.01.29 次世代再エネ 海洋エネルギー発電に期待 技術開発や実績作りに力 脱炭素社会の一翼担う
長崎県五島市沖に設置される発電機(提供=九電みらいエナジー)
太陽光や風力など再生可能エネルギーが脚光を浴びる中、機運の高まりを追い風に、次世代の再エネ関係者が、技術開発や実績の蓄積に力を注いでいる。その一つが、海洋エネルギー発電だ。海に囲まれた日本は、排他的経済水域(EEZ)が世界6位の広さに恵まれ、期待も大きい。将来の脱炭素社会の一翼を担うために、事業化に向けて課題と向き合う。
「太陽光発電などは陸上での適地が限られてきた。海洋国日本としては、海での再エネを拡大させなければ、50年カーボンニュートラルには追い付けないのではないか」。九州電力グループの再エネ開発を担う九電みらいエナジー(福岡市中央区)の関係者は語る。
同社が、地元企業などでつくるNPOと、2月に長崎県五島市沖で本格的な実証試験を始めるのは、海洋エネルギーの一つ、「潮流発電」だ。将来、商用化を見据えた大型発電機による実証は国内初。環境省の補助金を得て19年8月から海域調査などの準備を進めてきた。
潮流発電は、潮の満ち引きで大量に海水が動くエネルギーで発電する。1日4回の干満で約6時間ごとに向きを変えるなど規則性があり、発電では予測しやすく信頼性が高いとされる。
長崎県の五島列島の中部、奈留島と久賀島の間にある海峡、奈留瀬戸は、海域の幅が約2キロメートルしかなく、潮の速さは毎秒3メートル以上に達する。「地元では、潮の速いことで有名」(五島市再生可能エネルギー推進室)で、流速毎秒1㍍ほどあれば発電可能だが、発電機の能力を最大限発揮できるとして、実証の場に選ばれた。
発電機は長さ約8メートルの羽3枚がある風車状の形。高さは23メートルに上り、重さは1000トンほどに達する。約500メートル沖の水深約40メートルの海底に固定。出力が500kWあり、動く海水が羽を回して発電する。これまで国内では数十kW-100kW程度の実証しか行われてこなかったという。
●海外での実績企業と連携
潮流発電は既に海外では実用化されている。英国北部のペントランド海峡では、世界初で最大規模の商用潮流発電事業、メイジェンプロジェクトが立ち上がっている。出力計6MW(1.5MW×4基)で稼働し売電も行うという。将来的には400MWにまで増強する計画だ。
プロジェクトに関わる英国の潮流発電事業会社などとも連携している。今回の実証では、プロジェクトで採用されている発電機をレンタルして試行する。コロナ禍の影響で、計画は遅れがちとなり、実証でも英国から招いた技術者らは船上に寝泊まりしながら、無線で指導するなど対策を徹底する。国内の海でも安全に発電できる実績を積むのが最大の目的だ。
ただ、国内での商用化には、まだ課題も多い。将来的な普及を目指すには、発電機の設置工事ができる施工専用船などインフラを整備したり、太陽光発電を一気に拡大させた固定価格買い取り制度(FIT)の対象になったりすることも不可欠という。九電みらいエナジーは「スタートラインだが、総合的に環境が整備されれば、希望の光も見えてくる」と期待を込める。
●各地で特許取得、実証データを改良に活用
一方、打ち寄せる波に着目した技術開発も進む。
「日本やEUに続き、中国や豪州でも特許が取得できる見込みになった」。取材に対し、技術上の戦略を明らかにしたのは、再エネ機器開発を手掛ける「ウェーブ・エナジー・テクノロジー」(東京都千代田区)だ。15年11月に設立された波力発電に特化したベンチャー企業。米国でも申請中で、同社は「世界展開を見据えている。将来的に世界中の海に浮かべたい」と特許拡大の狙いを語る。
同社の発電装置「グリーン・パワー・アイランド」は、岸から1キロメートル以上離れた沖に浮かせて、天候に関係なく24時間365日安定して発電できるという。
耐海水性のコンクリートなどでできた円筒形の装置で、標準型で直径32メートル。海面に浮く数㌧ある複数のフロートが、波に合わせて上下することで発電。50センチメートルほどの波の高さから発電できる。GPS(全地球測位システム)で自動的に位置制御し、アンカーなどで固定する必要がなく、環境問題なども起きにくいという。
出力5MWの装置で1万1000世帯の電力を賄える想定だ。「動力源である水は、空気に比べ衝撃の度合いが圧倒的に大きい」(同社)という。
同社は17年5月、直径1.4メートルの試作品を完成させ、神戸市沖で実証。想定通りに発電できることを確認した。17年3月に日本で特許取得したのを皮切りに、EUでも取得。その後も米国などで申請し、21年1月の段階で、中国や豪州でも取得できる見込みになった。
商用を見据えて直径12メートル以上の装置を製造する計画で、現在、協力企業を探している。だが、知名度不足などが足かせとなっているという。製造に10億円以上かかる見込みで、初期投資の大きさも支障の一つだ。同社は「地球温暖化の問題も広く指摘され、追い風が吹く。早く完成品を社会に出すため、知名度を上げたい。国内外どちらでも事業をスタートできるよう準備している」と話す。
また、同じ波力を活用する実証が、神奈川県平塚市沖で進んでいる。こちらは、東京大学の生産技術研究所などのグループが提案する技術を採用した装置で、岸壁近くでアルミやゴムなどでできた板状の「ラダー」を海中に沈めて、打ち寄せる波を利用して発電する。
実証は3月までを予定。波の強さが平塚市に比べて4倍強いとされる福島県で、新たな装置を設置する計画も浮上しているという。平塚市産業振興課は「実証は順調で、得られたデータは市内外の企業でつくる団体が、装置を改良することなどに役立てたい」と話す。
再エネでは、水力や地熱、バイオマスなど五つ以外はまだ事業化されておらず、FITの対象でもない。国は、海洋エネルギーなど次世代再エネには、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を中心に技術開発を支えて、20年度は約19億円を予算付けしているほか、環境省などの事業としても支援している。
環境省地球温暖化対策事業室は「海洋を活用したエネルギーの調達は、日本にとっては重要だ。50年に向けて、できるだけ手段を増やしていくために、一つ一つ事業を見定めていく必要がある」と話している。