2021.02.17 地域の足に超小型EV、出光参入全国の給油所ネット活用
開発中の新型車両
石油元売り大手の出光興産は、地域の手軽な移動の足として注目される超小型の電気自動車(EV)の生産に参入する。全国に6400カ所ある系列給油所を生かしたサービス提供に力点を置いて事業展開する。車両の設計・開発などを手掛けるタジマモーターコーポレーション(東京都中野区)と、21年4月に新会社を立ち上げる。出光が、車両の生産に携わるのは初めてだ。
新会社は、「出光タジマEV」。タジマモーターの次世代モビリティ開発を担う子会社、タジマEVに出光が出資して、社名を出光タジマEVに変更する。
超小型EVは20年9月に道路運送車両法の基準が改められ、一般の道路でも走行ができるようになった。出光は、軽量で高強度な「エンジニアリングプラスチック」などを生産する独自の素材開発技術を持っており、こうした技術が車体にも使用が可能かなどの検討を進める。将来的には、出光が生産する太陽光パネルを搭載させることなども視野に入っているという。
新会社は、初となる新型車両を21年10月に発表する。開発を進める新型車両は、軽自動車よりも一回り小さい車体で、長さ約2.5メートル、幅約1.3メートル、高さ約1.8メートルの4人乗り。
最大出力は15kWで、最高速度は時速60キロメートル。短距離間を低速で走行することを主としており、高齢者や運転に不慣れな層もターゲットにする。
バッテリを搭載し、家庭用コンセントにつないで約8時間で充電可能。フル充電で120キロメートル前後を継続して走行できる。150万円以下での販売を目指す。
新型車両を22年から個人向けなどへ販売を開始するが、事業の柱として想定するのが、全国の系列の給油所ネットワークを生かしたサービス提供だ。個人向けのリース販売や、カーシェアリング、定額で利用できるサブスクリプションなど様々なサービスを検討している。給油所は販売などの拠点だけでなく、EVのメンテナンスの拠点などとしても活用を検討しているといい、出光興産広報部は「ネットワークに、いかに他の価値を追加し、地域社会に貢献できるか、検討を進めて事業化した」と話す。
高齢社会のニーズに合致
ガソリンなどの燃料油需要が減少する中、出光では、19年に発表した中期経営計画の3本柱の一つに「次世代事業の創出」を掲げる。その取り組みの一つが、超小型EV事業だ。
既に出光は、19年8月から岐阜県飛騨市と高山市で、20年4月から千葉県館山市と南房総市で、タジマモーター製の超小型EVを活用したカーシェアリングの実証を進めてきた。地元企業とタイアップして、平日には営業車として使ってもらい、休日は地元住民や観光客向けのカーシェアリングに活用する試みなども行ってきた。カーシェアリング事業の課題の一つ、車両の稼働率の低さを改善できるビジネスモデルだ。
また、千葉県では、出光が開発する軽量型の太陽光パネルを乗せたカーポートで、駐車したEVに非接触充電する取り組みも行った。
こうした実証などを通して、出光では超小型EVに関連する情報収集も本格化させてきた。高齢化社会を迎え、自動車免許を返納した高齢者が、移動手段を求めるニーズが急増していることや、企業には、営業職が使用する短距離移動の車両を求めるニーズが強いことなどが確認されたという。
このニーズに、新たな超小型EVが合致するとして、出光は需要規模が年間100万台に上ると想定している。同社は「想定した以上に、免許返納で悩みを持つ高齢者は多い。また、地方では公共交通機関が多くなく、交通不自由という社会的な課題があるという認識が強くなった」と話している。