2021.02.18 【5G関連技術特集】 日本電波工業の5G向け水晶デバイス技術
【写真1】5G基地局向け高温対応OCXO
【はじめに】
水晶デバイスはあらゆる電子機器に搭載され、機器の正確な動作をサポートする重要なキーデバイス。通信やクロックの周波数の基準となり、周波数ごとに安定的かつ高精度な発振が必要となる。5Gの商用サービスが開始となり、5G基地局の整備が急ピッチで行われるとともに、5G対応端末もリリースされている。これに合わせ基地局向け、端末向けの両面で水晶デバイスの需要は拡大している。
日本電波工業は基地局向け、端末向けの水晶デバイスを取り揃えている。基地局向けでは小型基地局に最適な世界最小クラスの7×5mmサイズで動作上限温度を+95℃まで対応させたOCXO(恒温槽付き水晶発振器)を開発。端末向けには76.8MHzのサーミスタ内蔵水晶振動子の量産を開始した。基地局向け、端末向けそれぞれで求められる要件に対応した製品を揃え、5Gの普及拡大に貢献する。
【5G基地局向け高温対応のOCXO】
同社は、5Gの小型基地局に最適な世界最小クラスの7×5mmサイズで動作上限温度を+95℃まで対応させたOCXOを開発した(写真1)。
5Gやローカル5Gの普及において、高速大容量通信および超低遅延通信を実現するために、小型基地局を多数設置する方式でエリアのカバーを行う。これらの小型基地局は屋外の鉄柱上部や建屋屋上、屋内の壁面などの狭いスペースに設置され、さらには設置場所の環境も直射日光や風雨にさらされるなど、従来以上に厳しくなることが想定される。
小型化された基地局装置の内部部品は、高密度実装による内部温度の上昇や高温・多湿の外部環境変化の影響を受けることから、高温時の安定した動作や良好な温度スロープ特性、良好な位相雑音特性を有する小型の高安定水晶発振器が求められている。
同社は、これらのニーズに対応するため、OCXOを構成する発振器回路、温度制御回路などの全てを一つのチップに収めた専用ASICを開発し、小型化を実現。さらに水晶原石の育成から水晶振動子製造までの一貫生産の強みを生かし、新たに高Q原石(不純物が極めて少ないため温度変化の履歴で生じる歪みが小さい、高安定用の人工水晶原石)による小型SC-cut振動子を開発することによって5Gシステムで要求される高安定・低雑音を実現した。また、温度スロープ特性においても従来の高精度TCXOに比べ1/200のプラスマイナス0.1×10⁻⁹/℃を実現。
湿気やほこりなどが入り込まない気密パッケージの採用により、信頼性を高めている。
【76.8MHzサーミスタ内蔵水晶振動子】
同社は1.6×1.2×0.65mmサイズで76.8MHzのサーミスタ内蔵水晶振動子「EXS00A-CS12311」を20年6月から量産している(写真2)。同製品は、5G向けスマートフォンに搭載される米クアルコム社が開発したチップセット「Snapdragon 690」と「同750」の要求仕様に合致・合格した製品。クアルコム社が認定する水晶振動子製造会社の承認を受け、量産開始している。
移動体通信の5Gへの移行で、チップセットに使用されるクロック源の高周波化が進み、低位相ノイズの要求が増えている。特にミリ波などのキャリア周波数帯へ対応するために、内部逓倍数が増えるに伴い雑音成分が多くなることで、変調精度(信号の位相と振幅のズレ)劣化による受信感度劣化や通信効率低下を招く懸念があった。
この対策の一つとして装置内部の基準発信源を38.4MHzから76.8MHzへと高周波化して逓倍回数の削減による位相ノイズの改善を行う。また、さらなる低ノイズの実現のために高周波化以外にも水晶振動子のドライブレベルの引き上げと、高安定な温度特性維持が要求されている。
これらの難易度の高い要求を満足させるために、自社で育成した高品質な原石を使用。独自のフォトリソ加工技術で水晶片を高精度に加工することで、小型・高周波製品を実現した。
【最後に】
今後、5G基地局と5G対応スマホは急速に市場拡大していくことが予想されている。基地局向け、端末向けの水晶デバイスを安定供給することに注力し、5Gの普及拡大を後押しする。同社は今後も水晶デバイスおよび水晶応用機器ビジネスを通じて、安全・安心・快適な社会の実現に貢献する。