2021.03.22 再エネ電力 自治体が普及へ旗振り役オークションや認定制度を導入

さいたま市の清水勇人市長(左)とエナーバンクの間で協定が締結された

 脱炭素社会の実現を見据え、再生可能エネルギーによる電力を民間企業に広げるため、自治体が旗振り役になっている。ベンチャーと連携するなどしてオークションや認定制度といった新たな仕組みを導入し、普及に取り組む自治体も出てきた。

 人口約132万人を抱えるさいたま市は、「さいたま再エネプロジェクト~選ぼう、再エネ~」と銘打ち、市内の中小企業などに再エネ電力への切り替えを促す施策を始めた。17日には初めての説明会を市役所で開催し、オンラインも含め約30人が参加した。

さいたま市役所で行われた説明会の様子

 説明会で市の担当者は再エネ電力導入に向けた課題として、電気代コストの増加や、電力切り替えについての情報、機会の不足などを挙げた上で、「課題解決の一つとして、市内の事業者が再エネを選択しやすい仕組み、環境づくりが重要だ。民間のスキームやノウハウを活用して事業を推進していく」と訴えた。

さいたま市のプロジェクトのイメージ図

 市が導入したのは、事業者が無料で参加できるオンライン上のオークションシステムだ。電力仲介プラットフォーム「エネオク」を提供するベンチャー、エナーバンク(東京都中央区)と連携した。こうした取り組みは自治体では初。

 再エネ電力への切り替えを検討する市内の事業者は専用サイトで、過去12カ月分の電気使用量明細のデータを登録し、再エネ電力の比率の指定(10/30/50/100%)などを行えばオークションに参加できる。

 オークションでは1週間ほどの間に、再エネ電力を供給できる新電力などが年間の見積もり価格を入札。企業側は提示された複数の入札価格から自由に選べる仕組みだ。

 市が、民間企業向けの再エネ電力普及策としてオークション方式を選んだのには理由がある。市環境創造政策課は「市内の企業はほとんどが中小。電力を再エネに切り替えることで、料金が少なくとも現状と同等、あるいは下がることが見込めなければ、切り替えの検討が進まないのが現実。経済性を出すことが普及には欠かせない」とする。

 市内の数千社の企業のうち、95%が中小とされる。割高になりがちな再エネ電力だが、オークションでは他社が提示した価格を別の入札業者も確認できる上、一つの業者が何度でも再入札できるため、入札額は下がっていく傾向がある。切り替えを検討する企業にとって最適な価格を実現しやすいのがポイントだ。

 市では20年12月末に導入した。制度を利用して再エネに切り替えた企業は4社にとどまるが、今後、業界団体などを通じてさらに利用を周知していく。「50年カーボンニュートラルを掲げた国は、自治体と連携して両輪で進めていくことになる。自治体の果たす役割はますます大きくなる」(同課)。

「両方から応援」する県も

 一方、再エネ電力を供給する小売り電気事業者を紹介して、再エネを導入したい企業と結び付けるプロジェクトを始めたのは神奈川県だ。再エネ電力に切り替えた企業を支援する認定制度も導入。県によると、全国の都道府県で初めての取り組みという。

 1月下旬、「かながわ再エネ電力利用応援プロジェクト」を立ち上げた。

神奈川県が脱炭素社会を目指してつくったロゴマーク

 まず、プロジェクトに参加できる小売り電気事業者を募集し、登録してもらう。年間の総電力供給量のうち再エネを30%以上含む電気を県内で供給できることなどが条件で、3月上旬に第1弾となる登録事業者21社が決まった。

 県内には中小の企業が約18万社以上あるという。これら企業などを対象に、登録した小売り電気事業者の再エネプランを、県のホームページなどで一覧にして紹介。プラン同士を比較しやすいよう工夫し、切り替えを呼びかける。

神奈川県のプロジェクトのイメージ図

 再エネ電力に切り替えた企業などが希望すれば、積極的に環境問題に取り組んでいることを認める「かながわ再エネ電力利用事業者認定証」を交付。県のホームページなどで紹介、PRする。「供給する側と使用する側の両方から応援する仕組み」(環境計画課)だ。

 同課は「脱炭素社会に向け、1社でも多く切り替えてもらえるよう周知していく」と力を込める。

自治体の指導役に期待

 さいたま市と連携を進めるエナーバンクは、エネオクのサービス提供を19年1月から本格的に開始した。環境省が利用を推奨しているほか、島根県益田市とも連携し、市内の公共施設の再エネ電力調達を支援。ほかにも全国の大小10以上の自治体と協議を進めているという。

 同社は「脱炭素の流れが鮮明化し、自治体はできることは何でもやり、結果を求める機運になっている。地域で民間を巻き込むため、地域の特性を考えて自治体がリーダーシップを発揮することは重要だ」とし、「既に国はカーボンプライシングなどについて議論を進めている。ただ、再エネ導入を進めるメリットが、まだ見えていない民間企業も多い。そうした点をコミュニケーションしていくことが大切で、その窓口としても自治体の持つ意義は大きい」と指摘している。