2021.03.24 再エネ普及、役割果たす中間支援組織カーボンニュートラルでシンポ、研究者報告

 シンポジウム「炭素ゼロ時代の地域分散型エネルギー・システム~カーボンニュートラルに向けて~」が24日、オンラインで開催された。大学などの第一線の研究者らが、11年3月の東日本大震災以降、大きく転換しつつあるエネルギー政策の動向などについて振り返りながら報告した。

 シンポジウムは、龍谷大学政策学部の大島堅一氏らを中心とした研究グループらによる活動を踏まえて実施された。再生可能エネルギーや電力システム改革などのテーマについて、約10年、研究を続けてきたという。

 最近10年で起きた大きなエネルギー政策の転換では、東日本大震災や福島原発事故で、想定されていない大きな被害が出たことで、再エネなどへの電源転換を促した。また、首都圏を含む広いエリアで計画停電などが実施されたことで、旧来型の電気事業制度の変更が求められ、電力システム改革につながったとされる。そうして流れを受けて、20年10月に菅義偉首相が表明したのが「50年カーボンニュートラル」だ。

 東京大学の高村ゆかり氏は「50年カーボンニュートラルに向かうエネルギー政策」のテーマで報告した。20年7月以降、日本のエネルギー政策で課題とされてきた、「非効率石炭火力」や送電線などについて、転換の動きが政治の中から浮上してきた点に言及。「転換の軸は、再エネ型経済社会、脱炭素などだ」と指摘した。

 「50年カーボンニュートラル」については、既に世界120カ国以上とEUが同じ目標を掲げているという。20年9月には中国が遅くとも60年までに実現することを表明するなどしたため、「50年や、それに近いタイミングでカーボンニュートラルを目標に掲げる国は、世界の排出量の50%を超える水準になっている」(高村氏)という。

 また、国内で排出されるCO₂の85%が、エネルギーに起源しており、高村氏は「国内のカーボンニュートラルを考えるうえで、エネルギーの脱炭素化は不可欠だ」と強調した。

地域で機能する仕組み

 一方、北海学園大学経済学部の上園昌武氏は「再エネ普及と中間支援組織の役割」と題して、オーストリアで大きな役割を果たしている仕組みを紹介した。

 再エネが拡大する日本では、景観などを巡る地域住民との紛争など課題が出てきている。地域での専門知識やノウハウの不足などと相まって、再エネが頓挫する要因となっているという。

 オーストリアでは、国の予算で雇用された「KEMマネージャー」が、小規模自治体やその住民、事業者などの橋渡し役として機能し、気候エネルギーコンセプトなどの計画を策定している。利害関係者と円滑にコミュニケーションをはかる役割で、適切な専門知識にもとづいて、地域や住民らにとって満足度の高いエネルギー事業をもたらしているという。

 上園氏は、KEMマネージャーについて、「コミュニケーション能力に長けていて、調整役が求められる」と強調し、「国や州、EUなどの助成システムなども熟知しており、資金面でも大きな役割を果たしている」と指摘した。

 日本では、優れた実績を持つ自治体に予算配分などがされる一方で、事業運営や計画づくりはコンサルタントなどの外部に依存する傾向が強く、住民参加が少ないケースが多いことなどが課題だという。

 だが、オーストリアでは、事業運営などは住民参加が原則で、中間支援組織の力を借りながら、地域主導で取り組んでいることが特徴だとしている。