2021.06.29 【複合機・プリンターソリューション特集】 新たな価値提案が重要、企業の働き方改革とDX支援

業務・業種向けソリューション連携が強化される複合機

 複合機(MFP)ビジネスではニューノーマル(新しい日常)を大きなビジネスチャンスと捉え、これまでにない価値提案を強化する動きが本格化している。ここに来て、低迷していた市場も復調の兆しを見せる。主要各社は、デジタル戦略の加速など今後の成長戦略を鮮明にしてきた。

カラー機が回復

 新型コロナウイルスの感染拡大で前年割れを続けてきた複合機の国内出荷が、今年に入り前年実績を上回り始めた。ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)の2021年第1四半期(1Q、1~3月)国内出荷台数は、前年同期比98.4%と下げ止まり。主力のカラー機は同101.4%で推移し、ようやく前年を上回ってきた。

 4月以降はさらに伸び、前年同期比で20%近い増加など、ほぼコロナ前に近づいてきたと見る向きもある。

 この要因はオフィスに人が戻りつつあることだが、いち早くオフィス活動が正常化した欧米、特に中国では回復のペースが加速している。JBMIAの1Qの出荷状況も、海外は前年同期比2桁の伸びに転じた。

 今後、市場環境の好転が期待される中、ニューノーマル下での新たな価値提案が重要になってくる。働き方改革、DX(デジタルトランスフォーメーション)は大きなビジネスチャンスとも言える。働き方改革関連法が19年4月に導入され、昨年4月には大企業に続き中小企業にまで対象が拡大された。働き方改革の進展に伴い、遅れていた中小企業でもIT化の動きが急がれている。

 働き方改革や企業のDXは待ったなしだが、特に中小企業の場合、まだまだ本格化していない。しかし、デル・テクノロジーズが2月から3月にかけて約1500社の国内中堅企業を対象に行った「IT投資動向調査」では、DXによる事業変革に取り組んだ企業の約52%が業績回復傾向にあることが明らかになっている。

日本企業、遅れる

 一方で、日本企業のデータの利活用は、欧米などと比べてまだまだ遅れているとの指摘もある。ガートナーが行った日本企業のデータ利活用に関する調査結果では、データ利活用によるビジネス成果獲得の阻害要因は「関連スキルや人員不足」(58%)、「組織全体のデータリテラシー不足」(58%)がトップを占めていた。

 いずれにしろ、働き方改革、DXへの取り組みが、企業成長の鍵を握っていることは間違いなく、複合機ビジネスにもこうした視点からの支援策が求められている。

 経済産業省が公表したDXレポートでは「2025年の崖」というキーワードが示され、DX化を進展できなければ25年には12兆円の大きな損失になると指摘している。

 複合機ビジネスは、ペーパーレス化やテレワークといった新しい働き方をビジネスチャンスと考えて新たな価値提案による成長を加速させるなど、「モノ」から「コト」へと、ビジネスの大きな転換期を迎えている。

各社、デジタル化に対応など成長戦略本格化

富士フイルムビジネスイノベーションは新ブランド「Apeos」を発表した

 こうした中、主要各社は市場の変化を捉え、新たな成長戦略を本格化させている。

 リコーは4月に第20次中期経営計画「飛躍」をスタートし、「デジタルサービスの会社」への転換を加速させている。

 当初計画を前倒ししてカンパニー制を導入。これにより、事業構造の転換と資本収益性の向上をさらに進め、成長へのスピードを上げる。

 カンパニー制では、事業ドメインごとの五つのビジネスユニットとグループ本社に組織体制を刷新し、各ビジネスユニットが開発から生産、販売までの一貫体制を構築。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資、デジタル人材育成にこれまで以上に力を入れる。

 デジタルサービスの会社として最適な形を追求し、〝飛躍〟にふさわしい成長に向けてスピードを上げていく方針だ。

 新体制の富士フイルムビジネスイノベーションは、新ブランド製品を4月から順次提供開始している。新ブランド「Apeos(アペオス)」を通じて、働き方支援、紙の価値最大化を図り、オフィスの生産性向上、業務効率アップを実現する製品・サービス戦略を強化する。

 国内販社の富士フイルムビジネスイノベーションジャパンは、これまでの顧客との強固な関係をベースに、多種多様な業種・業務での経営課題を解決するソリューションの展開に力を入れる。

ICTと人で解決

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、新たに5カ年計画「2021-2025長期経営構想」を策定。「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」をビジョンに掲げ、ITソリューション事業を中核とした企業への変革を進めている。

 グループが保有する大手から中小企業まで広範で強固な顧客基盤と、キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)を中心としたグループの技術力を生かして顧客のDXを支援し、事業を通じた社会課題の解決と持続的な企業価値の向上に取り組む。

 ITソリューション(ITS)と連動するデバイス戦略を強化し、シナジー効果を高めている。25年の売り上げ目標6500億円のうち、ITSで3000億円を計画するなどITS事業を成長の中核とし、サービス型事業モデルを拡充する戦略だ。

 セイコーエプソンは、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」をスタートさせた。

 取り組みにメリハリをつけ、収益性の確保と将来成長を目指す経営に転換する。「持続可能でこころ豊かな社会の実現」に向け、環境への貢献に重点を置き、その上でイノベーション実現のためにデジタル技術を活用し、持続可能でこころ豊かな社会を共創していく構えだ。特に「環境」「DX」「共創」を重点的な取り組みと位置付ける。環境面では、今後10年間で脱炭素、資源循環、環境技術開発に1000億円を投入する。

新ビジョン掲げる

 コニカミノルタは中期経営戦略「DX2022」で、新ビジョンステートメント「Imaging to the People」を掲げるとともに、「as a Service(アズ ア サービス)」モデルで顧客価値を提供していく戦略を前面に打ち出している。

 DX2022では、ワークプレイス・ITサービス、プレシジョンメディシン(バイオヘルスケア)、画像IoTソリューションほか新規事業などに注力し、新たな成長事業に育成する。

 東芝テックは、「プリンティング・ソリューション事業本部」の組織名称を「ワークプレイス・ソリューション事業本部」に変更した。プリンティング主体のビジネスモデルから脱却し、オフィスの働き方改革・生産性向上を支援するクラウドプラットフォーム基盤の構築などにより、新たなサービスを提供していく計画。プリンティングからデータマネジメントへの展開を加速させる。

 業界団体のビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)は21年度の重点方針の中でニューノーマル社会に向け、積極的な提案を打ち出した。「デジタル化の大きな変化の中で、イノベーションと社会課題解決により、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献していく」方針。

 また、デジタル化では、DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)など、セキュアなデータへの取り組みを加速させる。

 特に重視していくのが、リアルでもリモートでも扱うデータの真正性(トラスト)への対応。紙データを電子化する際の真正性の付与や、いつでもどこでも、ドキュメント(紙)に出力したり、電子化したりできる仕組みの基礎研究を進め、紙でも電子データでも区別なく活用できる紙とデジタルの融合を業界挙げて目指す。