2021.07.09 東京・丸の内オフィス街 デジタル×脱炭素で進化 三菱地所グループが新たな街づくりに挑戦

大規模なビルが集積する大丸有エリア(2019年)

 新型コロナウイルス禍で加速するデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)や脱炭素という2大潮流が、日本を代表する東京都千代田区のオフィス街「丸の内」に押し寄せている。この地で社会実験を進める大地主の三菱地所グループに密着し、多彩な先進技術を駆使する新たな街づくりの方向性を探った。

共通認証ID活用 多彩なオンラインサービス

 東京駅と皇居の間に挟まれる約120㌶の区域は、約4300社もの企業が集積するオフィス街だ。丸の内はその中心に位置し、隣接する大手町や有楽町と合わせて「大丸有エリア」とも呼ばれる。

 就業者数が約28万人に上っていた大丸有エリアの存在が、コロナ禍で広がるリモートワークの影響で揺らいでいる。丸の内で約30棟を所有・管理する三菱地所でDX推進部の主事を務める春日慶一氏は「28万人が毎週5日通う世界にはもう戻らない」と指摘。その上で「多様な就業者100万人が最適な時間に集まり、交流して価値を生み出す舞台に変えたい」と力を込めた。

 DXによる新たな街づくりに向けて6月に策定したのが「三菱地所デジタルビジョン」だ。人が「オン・オフライン」で自由に行き来する環境を実現する目標を打ち出した。

 具体策の一つが独自開発の共通認証ID「Machi Pass(マチパス)」。一つのIDで、多彩なオンラインサービスの利用や各施設への入退室を実現できるようにする。

 マチパスを通じて蓄積したデータを分析し、来訪者ごとに魅力的な「ユーザー体験(UX)」の場を提供。リアルとデジタルの両面で丸の内との接点を強められるようにする。例えば買い物を終えて店を出ると、スマートフォンで事前に手配した自動運転車が目の前に止まるといった近未来を見据える。

バーチャル上で街のイベントを体験できる「バーチャル丸の内」の1場面。パソコンやスマートフォンからアバター(分身)で参加できる

 都市のDXを巡る協創も活発化。1月、ニューノーマル(新しい日常)に対応したデジタルサービスの開発を目指すコンソーシアム「丸の内 City DX パートナーズ」が、ゼネコン大手やIT各社などを巻き込んで発足した。協力する三菱地所などは距離の制約を超えて街を身近に感じてもらおうと、丸の内をバーチャル空間に再現し多彩なイベントを企画した。

 同社は21年度、グループ全体でDX関連事業に約250億円を投じる。来年度以降も同規模の投資を継続する方針。エリアマネジメント企画部専任部長の奥山博之氏は「コロナで先進的な取り組みをより試しやすくなった」としており、今後も街のデジタル化を追求したい考えだ。

既存設備を最大限活用 都市型マイクログリッド構想

 このエリアには大規模ビル約100棟が集積し、平日の日中にエネルギー需要が集中する。全体の年間の電力利用量は約100万MWh超と推定され、一般家庭約25万世帯分に達する巨大な消費地だ。毎年、エネルギー需要の増加も続く。

 こうした事情を背景に三菱地所が今春、打ち上げたのが「都市型マイクログリッド」構想だ。

 マイクログリッドは、限られたコミュニティー内で再生可能エネルギーなどを地産地消する仕組みだが、このエリアでは膨大な需要があり、外部から再エネ由来の電力供給を受けることは不可欠。そこで同社が目指すのは、既存設備を最大限活用しながら環境性を高める新たな「都市型モデル」だ。

都市型マイクログリッド構想のイメージ図

 グループの丸の内熱供給(東京都千代田区)はエリア内で、冷暖房などのエネルギーを約20の地下プラントで集中生産し、導管を通じてエリアの建物などに一括供給する地域冷暖房システムを1976年から構築してきた。効率的に運用することで大きな省エネ効果が得られる。

 地下に張り巡らした導管は総延長約23キロメートル。ボイラーで熱した蒸気を各ビルに送るほか、冷水を循環させる。ビル約60棟、地下鉄の駅約10カ所に供給できる「国内有数規模のネットワーク」(同社)が広がる。

 構想では、こうしたネットワークを活用し、再エネなどエリア内の自営電源とも一体運用して環境性を向上させる。発生する二酸化炭素(CO₂)を事前に削減する取り組みで相殺させた「カーボンニュートラル都市ガス」を一部地下プラントなどで導入したほか、電力と熱を生産できるコージェネレーションシステムなどを活用。今後、さらに拡大していく。

 三菱地所のビルでは22年度に全電力を実質再エネ由来で賄う方針。「脱炭素に加え、災害時の安定供給のニーズも高まる。これらを同時に進める取り組みだ」(同社)。

 「デジタル×脱炭素」という新潮流への対応は、全国各地が直面する共通課題であり、政府は先駆的な街づくりの事例をモデルケースとして広めたい考え。しかし、自治体ごとに地域資源の特色も財政事情も千差万別で、単純な横展開は一筋縄ではいかない。国土交通省は「街を進化させるプロセスを明確化し、他の地域が参考にして取り組みやすいよう周知する必要がある」(都市計画課)と強調している。