2021.09.08 【管球ワールド】トライオード(Triode)真空管オーディオと手づくりの良さをファンに
《写真1》最新のKT150プッシュプルアンプ「MUSASHI」を前にした山﨑社長
Triode(トライオード、埼玉県越谷市)は山﨑順一社長(写真1)が真空管オーディオアンプを作る楽しみを味わってもらおうと立ち上げた会社である。真空管オーディオを扱う高級ブランドにありがちな、高価格ハイエンド路線を取らず、普通のサラリーマンが楽しめる価格帯の機種を中心に販売することをテーゼとしてきた。
今回は、山﨑社長に創業のいきさつから、最新製品、今後の開発方針について、うかがった。
友人の自作真空管アンプの音に愕然
―創業のきっかけはなんですか。
山﨑社長 私は高校の頃からオーディオに興味を持ち、近くの電器屋とか秋葉原に出入りして普通のオーディオを楽しんでいました。あるとき友人が自作した3Wの真空管アンプを私の所へ持ってきたのです。当時私は、山水やパイオニアのアンプでJBLを鳴らしていたので、そんな1桁の出力のアンプでは、JBLの大型モニタースピーカーのドライブは最初から無理だと高をくくっていました。しかし、接続してボリュームを上げた途端、言い知れない潤いのある音楽が奏でてくるではありませんか。その漂ってくる音楽性にがくぜんとしたのが真空管アンプにはまったきっかけでした。
ある出会いが創業のきっかけに
―真空管アンプの魅力にとりつかれてしまったというわけですね。
山﨑社長 それで自分でも独学で真空管アンプ作りに没頭していたのです。しかし、オーディオ市場での真空管アンプは高額という当時の常識に疑問を抱いていたのです。そのような中、自作用の部品を海外から取り寄せている関係で、たまたま海外のオーディオショウで出会った方と意気投合し、その方の「自分の作りたいアンプを中国で作ってみないか」という、「それも低価格で」という申し出に、半信半疑で応じたのが創業のきっかけです。
―第1号機は非常にエポックメイキングなものでしたね。
山﨑社長 その第1号機が20年近くロングランを記録した「VP-300BD」(写真2)というプリメインアンプ製品です。なんと300Bが4本も付属してキットが\99,800という価格破壊のアンプでした。ユーザーからは多くの称賛の声が届き、あっという間に500台を売り切った記憶があります。
―それは破格ですね。300B 4本だけでも、相当のコストですね。
山﨑社長 まさにこれがTriodeのTRV、TRXシリーズの基本となっていく製品となりました。適正な販売価格をさぐるため、ユーザーの購買可能価格を調べると、20万円以内という結果でした。この価格帯だと、多くのお客様に買って頂け、国民の大多数を占めるサラリーマン層が非常に重要だということがわかりました。
新ブランド「JUNONE」立ち上げの理由
―しかし、最近、高級オーディオのブランドを立ち上げられ、高価格の製品を出していますね。高価格路線に転換されたのでしょうか。
山﨑社長 そうではありません。現在でもTriodeの根幹をなすモデルは20万円を一つの基準として展開しています。中国製という十把一からげのレッテルを勝手に貼られて悔しい思いをしたこともありました。中国生産を大切にしているのは、コストをいかに低く抑え、Triodeの根幹である20万円という壁を保持するには必要だからです。中国の協力工場(写真3、4)を利用するのは、私の作りたい製品を自由に想像して具現化できることにあります。
―それで、新ブランド「JUNONE」を立ち上げられた? Triodeブランドでも高価格の機種がありますよね?
山﨑社長 JUNONEブランドを発案する前はTriodeブランドで現行品の「TRX-M845」(ペア200万円)をデビューさせましたが、Triodeはコスパモデルというイメージがついて回っていたためか、ハイエンドマニアにはなかなか受け入れられなかったのです。
―ならば別のブランドを立ち上げようと?
山﨑社長 そうです。そこで、以前からお付き合いしているデザイナーに新しいハイエンドイメージのブランドを作りたいというお願いをしたところ「JUNONE」という素晴らしいネーミングを頂戴しました。そのデザイナーは残念なことに若くしてお亡くなりになったのですが、「JUNONE」というブランド名は彼の功績を長く受け継ぐ素晴らしいものだと思います。
―「JUNONE」ブランドの立ち上げは順調でしたか。
山﨑社長 その第1弾として別電源フルバランス回路搭載モノラルプリアンプ「REFERENCE ONE」が登場しました。海外からも注目を浴びた製品となりました。しかし一部の特注部品の発注が不可能となり、わずか5年で販売中止となりました。また対にする予定だった212真空管使用のモノラルパワーアンプも大がかりになりすぎて(1台90kg)とても現実的ではないとの判断で断念せざるを得ませんでした。
心機一転、基本に立ち返り、Triode製品としても好評であったTriode「TRV-845SE」プリメインアンプをイメージと設計を一新し「JUNONE」ブランドとして立ち上げた訳です。これが「JUNONE845S」(写真5)です。
TriodeとJUNONEの音づくりの基本は同じ
―従来のTriodeブランドとJUNONEブランドとでは音づくりに違いはありますか。
山﨑社長 Triode製品とJUNONE製品のアンプづくり、すなわち「女性ボーカルに始まり女性ボーカルに終わるといってよいほどの声の潤い、艶、質感を大切にする」音づくりの基本姿勢は決して変わっていません。Triode製品は20万円であってもできる限りの高品質の部品を投入して妥協は一切ありません。
―音づくりの基本姿勢に違いはないとのことですが、JUNONEはTriodeのどのような点を改良してハイエンドとしての差別化を図っているのでしょうか。
山﨑社長 JUNONE製品のアンプ作りとしてはTriodeブランドに加え「絶対的な信号伝達ロスの削減」に注力しています。真空管アンプの良いところは真空管の種類によって表現が違うということが魅力で、ユーザーの好みで選べる利点があります。トランジスターアンプでは不可能な世界です。持論ですがオーディオは数値では割りきれない音楽性という評価基準があると思います。
音質の決定ポイントは自社製出力トランス
―Triodeのアンプの音質を決めるポイントは何でしょうか。
山﨑社長 根幹をなす「三極管サウンド」は現代のトランジスタメーカーのエンジニアの中でも一つの音楽的な指針とされています。しかし、真空管アンプの音質で大切なのは真空管よりもむしろ出力トランスにあります。ここで、ほとんどの音質の音楽性が決定されてしまいます。出力トランスは、そのアンプの音楽性を決めてしまうので、自社の音を出すには自社でトランスを製作するしかありません。当初は日本にある数社のトランスメーカーのトランスもテストしたことはありましたが、どんな先進素材を使っても、やはりそのトランスメーカーの音しか出ません。オーディオメーカーとしては自信をもって自社の音が出せる自社製トランスがどうしても必要なのです。
最新デジタル音源の音楽性に富む3D再生を目指す
―今後はどのような製品を出していく予定ですか。
山﨑社長 真空管を使用して懐古主義の製品を作るわけではなく、最新のデジタル音源をいかに損失なしに音楽性に富んだ3D的再生をできるかを目指しています。2021年度も新しいチャレンジアンプを数機種予定しています。今後もTriode、JUNONEの進化は止まりません。
―ありがとうございました。
トライオードのWebページ:https://triode.co.jp/