2021.09.27 【この一冊】「アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか」ハンナ・フライ著 森嶋マリ訳(文藝春秋)

 「アルゴリズム」。よく知っているという方には失礼ながら、分かったような分からないような中で、使っている方も少なくない(評者はその一人)言葉の一つと思われる。

 買い物データから表示される「おすすめ」や、自動運転、がん細胞を画像から見つける医療…。このあたりまでは、ある程度なじみがある。しかし、裁判の量刑や芸術といった、人間しかできないと思える場面まで、アルゴリズムが役割を果たしていることは、あまり知られていないのでは。

 それに、時にとんでもない問題も起こす。ある州の予算管理ツールは、障がい者助成金をやみくもにカットしてしまった。再犯の可能性を診断するアルゴリズムからは、偏った判決が出かねない。テロ組織とよく似た名前の学会に属していたある建築家は、米国に何年も帰国できなくなってしまった。そうした例も紹介される。

 ただ、この本は「是か非か」といった二項対立ではなく、アルゴリズムの果たす機能とその限界、人がどうやって付き合っていけばいいのか、といったヒントを提示する。アルゴリズムが暴走しないようにするためにも、人の役目が一層重要になりそうだ。

 著者は、1984年生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン高等空間解析センター准教授で数学者。数理モデルで人間の行動パターンを解析する研究を行い、政府、警察、健康分析企業、スーパーマーケットなどとも協力。TEDトークで人気で、テレビのドキュメンタリーの司会も務める。同書も、サイエンスコミュニケーションの達人らしい分かりやすい筆致で描かれている。

 You Tube でも"MATHEMATICS OF LOVE"(「愛の数学」とでもいえるだろうか)などのテーマのTEDトークが視聴できる。296ページ、1870円(税込み)。